最強の「断り方」

断り方,能町光香
(画像=The 21 online)

断って嫌われたくない――。そんな思いから、多くの仕事や誘いを引き受けてしまい、結局、自分のやるべき仕事に集中できなかったり、自分の時間を確保できなかったりする人は多いはず。だが、そんな働き方は決して長続きしない。「プロとして仕事をするなら、断ることも重要」と話すのは、ビジネスコミュニケーションの第一人者である能町光香氏。断ることに苦手意識を持つ方に向け、角を立てずに仕事や誘いを断る方法についてうかがった。

「自分を大切にしない」からNOと言えない

人に頼られるまま仕事を引き受けたり、誘われるまま飲み会に参加する──。本当は断りたいのに断れずに相手に合わせてしまう。そんな人に共通する特徴は、他人を基準にした生き方をしていること。もっと言えば、自分を大切にしていないのです。その結果、自分の仕事や時間を犠牲にしてまで、相手の事情を優先してしまいます。

自分の価値基準に従って物事を判断していれば、やるべきことがハッキリしているため、不本意な要求をキッパリと断ることができるはず。一流のリーダーは、むやみに仕事を引き受けたり、飲み会に参加したりすることはありません。

これに加え、「相手の気持ちを慮る」「相手の気持ちを大切にする」といった日本人独特の優しさも、ハッキリ断ることへの苦手意識を生み出している原因かもしれません。「NO」と言えずに受け入れてしまう背景には、「何事も穏便に済ませたい」と考える日本人ならではの感覚が影響しているとも言えます。

一方、欧米の人たちが臆せず「NO」と言えるのは、日本社会に比べて自分を尊ぶ文化であるからです。

以前、私が留学していたオーストラリアでは、先生が生徒に対して「私はあなたたちを誇りに思う」という言葉をよくかけていました。私がかつて秘書として働いていた外資系企業でも、外国人上司が部下に対して同じ言葉を使っていました。普段からこのような言葉をかけられていれば、人の顔色をうかがうような生き方はしなくなります。

そもそも、海外では立場に関係なく相手の仕事を尊重する姿勢があります。たとえば、秘書と役員の間柄で言えば、立場は違っても、互いにプロフェッショナルとして仕事をしているという意味では対等です。互いに一流の仕事をまっとうするために、プロフェッショナルとして不本意な要求を断ることは当然。そのような認識があるため、断りやすいのです。

「緊急」という言葉に惑わされてはいけない

とはいえ、そういう文化で育ってこなかった日本人としては、ゼロから考え方を変えていかねばなりません。

まずは、断れない人にありがちな考え方を捨てることです。それは次のような考え方です。①「どうせ私なんて……」という自己否定感、②「みんなから好かれないといけない」という八方美人な態度、③「争いたくない」という平和主義、④「いい人でいたい」という自己犠牲、⑤「好き嫌い」にとらわれる視野の狭さ、⑥「みんないい人」と思いたい性善説。これらの6つの考え方を捨てることが、キッパリと断るための第一歩です。

そのうえで、自分がやるべき仕事は何かを常に意識すること。秘書の仕事で言えば、たとえば翻訳業務がそれにあたります。私も翻訳業務に取り組んでいるときは、他の仕事はなるべく断るようにしていました。「プロとしてその仕事をまっとうできるか」という視点を持っていれば、自分にとって二の次や三の次の仕事はキッパリ断れるはずです。むしろ「他の仕事を断ってでも、自分のやるべき仕事を優先させる人」という信頼も得られます。

もちろん、なかなか断れない仕事もあります。とくに「緊急でお願い」と頼まれると、どうしてもやらねばならないと思いがち。ただ、この「緊急」という言葉に惑わされてはいけません。本当に緊急でなければならない仕事は案外少ないものだからです。

まずは、そのあたりを確認すべきでしょう。たとえば、ある仕事に取り組んでいるときに、「緊急でお願い」と別の仕事を頼まれたとします。そこで、「いまはこの仕事で手が一杯ですが、16時からであれば取り掛かれます。17時までお時間いただけますか?」などと交渉すると、「それで問題ないよ」と締め切りが延びる場合が多いのです。

今やらなければならないことを中断して仕事を引き受けてしまうと、集中力が途切れて、元の仕事に戻ったときに倍以上の時間がかかります。「緊急」という言葉に惑わされず、断るべきときはキッパリと断る。そうしないと、自分のエネルギーを無駄遣いすることになります。

「愛のある」断り方で人間関係が変わる!

断ることに慣れていないと、曖昧な伝え方をしてしまい、「断ったつもりだったのに、それが伝わっていなかった」ということが起きがちです。誤解されずにうまく断るポイントをご紹介しましょう。

1つ目は、「なるべく早めに断る」。時間が経てば経つほど、断りにくくなります。2つ目は、「余計な言い訳はしない」。断ることを恐れるあまり、言い訳をいろいろと考えがちですが、余計な言い訳はかえって相手の感情を逆なでする原因になりかねません。シンプルに断るのがベストです。

3つ目は「断る理由を述べる」。理由がないと、「なぜ断られたのだろう」と相手を悶もん々もんとした気持ちにさせてしまいます。明確な理由を1つか2つ挙げるとよいでしょう。

ビジネスの場面で避けたいのは、「都合がつけば行きます」といった伝え方です。OKなのかNOなのか曖昧な返事は、相手を困惑させるだけです。

以上の3つのポイントを押さえたうえで、日本人の美徳でもある「相手を慮る気持ち」を意識してみると、コミュニケーションに奥行きが生まれてきます。

たとえば、営業の売り込みがあったときに、「個人的には興味があるのですが、部署としての採用は難しいと思います」と伝えることで、相手への配慮を感じさせながら、きっぱりと断ることができます。断られても、相手はそれほど嫌な感情は持たないはずです。相手を立てながら、断るためのやむを得ない理由を述べる。こうした愛のある断り方をぜひ身につけたいものです。

くり返しになりますが、断ることは悪いことではありません。断るときはキッパリと断るほうが、相手にとってわかりやすいですし、裏表のない姿勢が、信頼関係を構築するきっかけになります。プロとして仕事をするに当たっては「断る」ことが不可欠だということをぜひ、意識してほしいと思います。

能町光香(のうまち・みつか)〔株〕リンク代表取締役
青山学院大学文学部英米文学科卒業後、商社に勤務。The University of Queensland大学院にて教育学を専攻し帰国。その後10年間にわたり、外資系企業数社にて、トップマネジメント層を補佐するエグゼクティブ・アシスタント(社長・重役秘書)を勤めたのち独立。「一流秘書養成スクール」を立ち上げ、一流秘書の養成に注力する。21万部のベストセラー『誰からも「気がきく」と言われる45の習慣』(クロスメディア・パブリッシング)、近著『なぜ一流のリーダーは東京―大阪間を飛行機で移動するのか』(扶桑社新書)など、著書多数。《取材構成:前田はるみ》(『The 21 online』2018年3月号より)

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