「数字」が読めると年収がアップするって本当ですか?
「営業成績がトップになっても、なんで給料が上がらないの?」
「出世するためには何が必要?」
「どうすれば、年収はもっと上がるのか?」
こうした疑問をもつ若手社会人は少なくありません。その疑問について答えるのが、『「数字」が読めると年収がアップするって本当ですか?』(古屋悟司:著)です。
この本の主人公は「とにかく、たくさんお金を稼ぎたい」ということしか頭になく、しだいに頑張る方向がズレていきます。ついには「もっと、稼げる場所へ!」とサラリーマンを辞め独立開業しますが、お店は閑古鳥が鳴き、社員もみんな辞める結果に。
この本は、そんな主人公の人生を救うべく、「お金と幸せ」の関係について研究する未来の職業「会計ドクター」が主人公の過去にタイムスリップ。「お金を稼ぐしくみ」について気づきを与えるストーリーです。
今回は物語の冒頭を編集のうえ公開。「彼はどこで道を間違ってしまったのか?」について、会計ドクターの「☆ここがポイント」とともに一緒に見ていきましょう。
不幸の原因は、「お金」に対する間違った考え方
ときは未来の2030年、最近、タイムスリップを利用した「人生やりなおしま専科」という事業をはじめた会計ドクターのもとに、「どうか息子を救ってほしい」と、1人のおばあちゃんが飛び込んできました。
救出を依頼された彼は、自動車販売会社の営業を経て、歩合制の教材会社の営業に転職、のちに花屋を独立開業しています。「勤め人のち社長」と言えばトントン拍子の出世に聞こえますが、自らが社長を務めた会社では社員に去られ、事業がめちゃくちゃに。その結果自己破産し、ホームレスになってしまいました。
彼の転落人生は、サラリーマン時代の間違ったお金に対する考え方から始まっているようです。その“諸悪の根源”突き止め未来を変えるべく、彼が大学卒業後、大手自動車会社の販売店の営業マンとして働き始めた1993年にタイムスリップ。彼は、いったいどこで間違ってしまったのでしょうか?
初任給をもらったけれど、いろいろ引かれた手元にのこったのは……
自動車の販売会社に入社後、担当営業所に配属されて1か月で、待ちに待った給料日がやってきました!
1人ひとり名前を呼ばれて、給与明細が配られます。とてもワクワクする瞬間です。学生時代のアルバイトで、給与明細自体は見慣れていましたが、社会人になっての給料日は未知の世界です。まあ、仕事らしい仕事はまったくしていないのですが、もらえるものは少しでも多くほしいものです。
営業所長に呼ばれ、1枚の封筒が配られました。封筒にはミシン目がついていて、僕の名前が印字されています。はやる気持ちを抑えながらも、ミシン目をゆっくりと折り、丁寧に縁を切り取ります。
封筒を開いて真っ先に目に入ったのが、「基本給21万円」という文字でした。
学生時代のアルバイトでは最高で10万円くらいだったのに、基本給21万円。社会人になってからの1か月間は、営業所の周りの草むしりと、パシリ、そして研修くらいしかやっていないけれど、21万円ももらえるのか!
僕はなんだか少し悪いような気さえしましたが、社会人って会社にいるだけで、お金がもらえるものなんだと思いました。
☆ここがポイント
ここで、まず1つ大きな間違いをしています。「会社にいるだけで、お金がもらえるもの」では、ありません。研修中など、まだ結果を出していないなかで、新入社員に会社が給料を払っているのは、先行投資を意味します。
さらに給与明細をよく見ると、「雇用保険」と「所得税」が引かれていて、手取りが20万円弱でした。「それでもけっこうもらえるんだな。社会人って、やっぱり学生とは違うな」なんて思いました。
翌月の給料日。「今月はいくらもらえるのかなあ」と、給与明細にこまごまと書いてある項目を1つひとつ見ていくと、さまざまな保険や税金の名前が書いてあって数万円から数百円まで大小いろいろと引かれています。
厚生年金、所得税、健康保険、住民税、雇用保険……。「えっ? こんなに引かれるの?」と思い、差引支給額のところには約17万円と書いてあります。
先月もらった初任給と比べて、手取りの額はぐっと減りました。「初任給は20万円弱だったのに、次の月は17万円なんて!」と、社会人になると、あれもこれも引かれることに、正直ちょっと凹みました。
☆ここがポイント
ここでも間違いが……。
とても大事なことを理解していないようです。税金や社会保険でいろいろと引かれ、彼は損をした気分になっていますが、社会保険は会社が半分負担してくれている、ありがたい制度だと気付けていないんですね。
待ちに待った「ボーナス」だけど、思っていた額と違う
季節は夏になり、毎日120軒の訪問軒数のノルマをこなし、他の同期より営業成績のよかった僕は、夏の「ボーナス」はけっこうもらえるのでは? と楽しみに待っていました。
しかしボーナス支給日、明細を見ると……、「支給額 5万円」の文字が。
「え? 5万円? 何かの間違いかな? いち・じゅう・ひゃく・せん・まん」と心の中の叫びが思わず口に出そうでしたが、何度見ても5万円でした。たしかに営業所の所長からは「初年度は『寸志』と言って、志程度なので期待しないようにな」と言われていましたが、僕は毎月2~3台の車を売っていました。売上にして800万円ほどですから、正直もう少しもらえると思っていたのでがっかりでした。
同じ営業所に配属された同僚に「いくらだった?」と聞くと、やっぱり5万円だというのです。他の営業所の同期はどうかと聞いてみましたが、やっぱり5万円。
僕はけっこうがんばったし、結果も出していたのに。他の営業所の同期は僕の半分以下の販売台数です。でも、その彼らとも同じ金額とは……。ちょっと納得がいきません。
☆ここがポイント
ここでの間違いは……。
そもそも新入社員はボーナスの査定期間を働いていないので、「寸志」という気持ち程度なのは、やむをえません。さらにいえば、絶対額よりも「他人(同期)との差」が気になるのは、「アンカリング(最初に見る数字や印象が、その後の判断に影響を与える)」の典型的な心理です。
営業成績はトップなのに、なんで給料が上がらないんですか?
自動車販売会社の営業マンにとって、訪問して車を売るきっかけの1つは「査定をとってくること」です。「査定」とは、車の状態を見て、下取り額を決める行為で、それをきっかけに新車のご提案につなげる営業方法です。
僕は、その査定の西東京地域の10店舗による全社記録を塗り替えることにチャレンジしました。来る日も来る日も査定をとって、翌日以降にお見積もりを渡しに行く。その段階でたいていお断りされるのですが、もはや、僕にとっては、それはどうでもよくなっていました。とにかく査定の記録さえ塗り替えられれば、ということしか頭になかったんです。
☆ここがポイント
この査定件数のような、成果につながる指標のことを「KPI(Key Performance Indicator=重要業績評価指標)」と言います。KPIを達成すべく目覚ましい記録を出して会社にアピールすること自体はよいことですが、「とにかく査定の記録さえ塗り替えられれば」というのは「手段」と「目的」をはき違えています。KPIは、それが売上や利益という成果に結びついてこそです。
その後、月間で72件の査定件数を達成し、西東京支店に10ある全営業所の査定記録を塗り替えることができました。さらに、販売台数も同期の中ではトップクラスです。年が明け、成績のよい者が表彰される3月になりました。僕は狙っていた「新人賞」も獲ることができました、
そして季節は春に。春といえば昇給の季節でもあります。僕は1年間、相当がんばった自負がありました。なにせ、同期の中ではトップです。そして、査定の全社記録を塗り替えたんですから、僕の中ではダブル受賞みたいなものです。
「異例の昇進や、抜擢、昇給があってしかるべき」くらいに思っていたので、給料日には、内心かなり期待していました。いつものように給与明細の封筒を開け、基本給の部分を見ると「21万8000円」。「あれ? 8000円しか昇給していない。嘘でしょ? もっと上がるでしょ? 僕はトップだし、記録も塗り替えたのに……。なんで、8000円しか変わらないんだ?」と茫然としました。
同期の仲間に昇給した金額を聞くと、やはり同じく8000円でした。なぜ、人一倍がんばった僕と、それほどがんばっていなさそうな同期の仲間の昇給額が同じなのかが、まったく理解できませんでした。少なくとも僕は、他の人よりも車をたくさん売った実績があります。そして、勤務態度も悪くないし、休んだこともありません。それをなぜ、会社が評価してくれないのかがさっぱりわかりません。
僕の全社トップの記録更新の価値は月額8000円しかない。あれだけがんばっても、わずか8000円。なんだか体の力が抜けて、やる気がどんどんなくなっていくのがわかりました。
これまでは、僕の心の中の風船が「やる気」という空気でパンパンに割れそうなくらいにふくらんでいた状態でしたが、シューっと音を立てて空気が漏れていく。さらに、風船はそのまましぼんでダランとしおれる。まさに、そんな感じでした。
☆ここでポイント
ここでも間違いが……。
昇給は、社員に対しての「長期的な約束」になり、一度アップさせた給料を下げることは、ほとんどの場合できません。その昇給の原資をどこから出すのかと言えば、会社の「利益」からです。彼が売った車の分から出てくる利益は、本当に月給以上の金額を生み出していたのでしょうか?
会社は、売上や利益を生み出す部門、そして、利益を生み出さないけれど、サポートや雑務をしてくれる間接部門に分かれています。間接部門の人たちは、営業マンが契約をとったあとの契約書の整理から、振込みの確認、給料の計算など、さまざまなことをやってくれています。そうした、会社の土台を支えてくれる人たちの分まで給料を払えて、さらに会社に利益が出る貢献ができて、はじめて昇給が可能になるのが、会社の仕組みなんです。
じつは、この本に書かれたストーリーは著者の実体験をもとに書かれています。「会社の数字」についての知識がなかったために、お金に振り回され、さまざまな誤解や失敗を繰り返してしまいます。本書はその経験から著者が学んだ教訓をもとに、「会社の数字」についてわかりやすく理解できる内容です。
さらに、この本を最後まで読むことで、お金を稼ぐことの基本はもとより、「どんな働き方をしたいのか」「どんな生き方をしたいのか」という、そこから先のステップを整理して考えるきっかけとなるはずです。
(提供:日本実業出版社)
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