10 月1日に発表が予定される日銀短観では、大企業・製造業の業況判断DI が前回比+1ポイント改善すると予想する。一方、非製造業では、相次ぐ自然災害の影響がより大きく現れて、業況は△2ポイント悪化するとみられる。設備投資は、引き続き強さが目立ち、景気の底堅さを象徴する。黒田総裁が追加緩和を求める政策委員との議論の材料にもなるだろう。

業況反転の兆し

 企業の景況感は、小幅の反発となりそうだ。2018 年に入って、日銀短観の製造業DI は、前期比が3月△2ポイント、6月△3ポイントと悪化していたのが、9月調査では+1ポイントと改善すると予測する(図表1,2)。4-6月の法人企業統計では、経常利益の前年比が+17.9%と伸びており、続いてきた景気足踏みが改善に向かっていることがわかる。背景には、(1)原油上昇のペースが鈍って素材分野で価格転嫁が進んだこと、(2)電子部品の在庫調整が前進したこと、(3)設備投資需要の盛り上がり、などがプラス効果として効いている。

2018 年9 月の日銀短観の予測
(画像=第一生命経済研究所)
2018 年9 月の日銀短観の予測
(画像=第一生命経済研究所)

 もっとも、7-9月にかけての天候不順、自然災害の多発がどのくらいマイナス要因として景況感を下押ししたかを割り引いて考える必要はある。Quick 短観では、8月に特別調査として猛暑の影響を尋ねている。足元ではほとんど影響がないとする企業は製造業で86%、非製造業は69%である。猛暑に反応したのは非製造業が多く、それでも悪影響があるとするのは13%に止まる。猛暑を好影響とみる企業も4~10%いて、プラスとマイナスは相殺されるのではないか。関西空港の被害は、インバウンドの減少を通じて、小売・サービスあるいは運輸の業況悪化につながっているだろう。北海道地震も、食品・紙パやサービス(観光)に悪影響が集中すると考えられる。従って、大企業・非製造業のDI は、小幅の悪化と予想している(図表3)。

2018 年9 月の日銀短観の予測
(画像=第一生命経済研究所)

 マクロ経済は、企業収益の厚みに助けられて設備投資需要が盛り上がったり、賃金上昇がじわじわと消費を底上げしているのだが、自然災害の懸念や、いよいよ本格化してきた米中貿易戦争の悪影響が気掛かりである。筆者は、全体としては個々の懸念材料は多くても、マクロの改善トレンドの方がより強く表われて、業況判断をプラス方向に持ち上げるとみている。

景気判断の重要性

 7-9月期のGDP は、一連の自然災害を受けてどの位悪化するのだろうか。その結果は、11 月半ばに内閣府から発表される。もしも、予想外にマイナス幅が大きければ、安倍首相は2019 年10 月に予定している消費税率の引き上げをさらに延期する可能性が残っている。筆者は、タイミングから考えて11 月のGDP が増税実行を最終決断する最後の関門になりそうだとみている。

 関西を直撃した台風21 号と北海道地震の余波がどの位まで尾を引きそうかは、現時点ではまだわからない。北海道の停電・節電のダメージが10 月以降にずれ込む可能性もゼロではない。

 日銀短観は速報性がある点で、災害の影響を把握するのに有益である。もっとも、被害のあった企業の見方が9月中旬くらいまでに定まっておらず、日銀短観でもフォローし切れていない可能性も考えられる。災害が景気トレンドに及ぼす効果をきっちりと見極めるのは容易ではない。

設備投資の強さを確認

 4-6月期のGDP は、民間設備投資の強さが牽引役となっていた。前々から短観の設備投資は強さが目立っていて、他の統計の方が弱かった。最近は、短観の年度計画の強さの方にデータが動かされているように思える(図表4)。

2018 年9 月の日銀短観の予測
(画像=第一生命経済研究所)

 9月短観でも、中小企業の設備投資はマイナス計画の上積みが続くだろう。大企業も、経常利益計画が上方修正されるのを受けて、高めの計画が維持されるだろう。短観では、そうした前向きの変化を確認することも大きな役割となる。

やはり景気は堅調か

 日銀は7月の会合で長期金利の変動幅の上限を0.20%へ拡大した。短観の金利水準判断DI には上昇とみる反応が表われるだろうが、資金繰りなどへの引き締まり感はないとみてよいだろう。

 金融政策は、4月・7月と持久戦型に枠組みを微調整しており、追加緩和をしなくてよい体制へとシフトしている。とはいえ、企業の景況感が急に悪化すると、政策委員の中から追加緩和を考えようという声が増えていくだろう。9月の短観は、業況DI が改善すれば、「景気は堅調であり、追加緩和など不要だ」とする主流派の意見を強めることとなるだろう。そうしたバランスの変化を誘う材料となるかどうかについても短観は注目される。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
首席エコノミスト 熊野 英生