要旨

●2017年は働き方改革に対する気運が高まる中、長時間労働是正の取り組みが活発な年であった。こうした中、懸念されたのがサービス残業の増加だ。2017年の一人当たり平均サービス残業時間(未申告労働時間)は年間195.7時間、2016年(195.8時間)からはほぼ横ばいと推計される。2010年以降は減少傾向にあったが、16年には前年から増加、17年に横ばいと趨勢が変化している。

●産業別にみると、前年に引き続き最も多い業種は「教育・学習支援業」。教職員の長時間労働を映じているものと考えられる。方向感に目を移すと、前年から減少している業種は「運輸・郵便業」や「建設業」など。前年から増加している業種は「宿泊・飲食サービス業」や「金融・保険業」などであった。現在国会審議中の労働基準法改正・施行に向けて、表面上の労働時間減の裏でサービス残業が増える可能性がある。推計値の動向を引き続き注視したい。

サービス残業時間は下げ止まる

 2017年は「働き方改革」、「長時間労働の是正」に強くフォーカスが当たった年だった。こうした中、筆者は昨年のレポートでいわゆる「サービス残業」の増加を懸念する内容のレポートを発行した(「195.8時間/年のサービス残業~ワースト業種は「教育・学習支援業」の390.0時間/年~」(2017年4月11日))。各社が働き方改革の推進、労働時間の縮減を従業員に求める中で、従業員の会社に申告する労働時間と実際の労働時間との乖離が広がるのではないかというものである。

働き方改革下のサービス残業時間
(画像=第一生命経済研究所)

 2017年の統計を用いて、この再推計を行った。2017年の平均一人当たりサービス残業時間は195.7時間/年で、2016年(195.8時間/年)とほぼ変わらずであった。2010年代前半の減少傾向から、16年は増、17年はほぼ横ばいとなっており、減少傾向が止まりつつある。

 ここで用いているサービス残業時間推計の基本的な考え方はシンプルだ。総務省の「労働力調査(詳細集計)」における平均労働時間から、厚生労働省「毎月勤労統計」の平均労働時間を差し引いた値を、平均サービス残業時間と定義する。着目するのは、総務省「労働力調査」が各世帯、個人に調査票を配布して行う調査であるのに対し、厚生労働省「毎月勤労統計」は事業所(企業)に対する調査である点だ。毎月勤労統計には、労働時間のほかに所定外賃金(残業代)も記載するが、賃金支払の発生しないサービス残業は計上されないと考えられる。一方で、個人調査では労働者が実態に近い労働時間を記載すると考えられる。その差分を未申告の労働時間として「サービス残業」とみなしている。

業種別にみると、増加業種・減少業種が分かれる

 産業別にみると、前年に引き続き最も推計値が大きかった業種は「教育・学習支援業」(370.8時間/年)だ。2016年(390.0時間)からは減少しているが、引き続きワースト業種である。昨今問題視されている教職員の長時間労働を映じていると考えられる(公立学校教員の給与については、労働基準法とは別の「給特法」という法律において時間外勤務手当を支給しない旨が定められている。例外として、生徒の実習関連業務など4項目の事情が発生した場合には、基本給の4%に相当する「教職調整額」を固定で支払う仕組みとなっている。萬井(2009)は、この給特法の運用に問題があることで、手当のない長時間労働に繋がっている点を指摘、教師の労働時間制については抜本的な改革が不可欠、としている)。

 方向感に着目すると、前年から減少している業種は「運輸・郵便業」や「建設業」などだ。運輸業では大手企業におけるサービス残業削減の動きを映じている可能性がありそうだ。一方、増加したのは「宿泊・飲食サービス業」や「金融・保険業」などであった。宿泊・飲食サービス業は人手不足が深刻な業種の一つであり、生産性の向上が難しい結果として未申告労働時間が増加している可能性が考えられる。

 現在国会審議中の労働基準法の改正、施行を見据え、表面上の労働時間減の裏でサービス残業が増える可能性がある。推計値の動向を引き続き注視したい。(提供:第一生命経済研究所

働き方改革下のサービス残業時間
(画像=第一生命経済研究所)

(参考文献)
萬井(2009)「なぜ公立学校教員に残業手当がつかないのか」 日本労働研究雑誌 No.585 労働政策研究・研修機構

第一生命経済研究所 経済調査部
担当 副主任エコノミスト 星野 卓也