要旨

● 最近、家計調査におけるつきあい費(親睦または交際的要素のある支出)の支出が増えている。景気が良くなるとつきあい費のような嗜好的な要素が高い支出が増えることが予想され、この関係は家計支出にも当てはまる可能性がある。

● 実際、家計のつきあい費支出は株価と連動性が高い。この背景には、株価が上昇すると嗜好的要素の強いつきあい費の支出が増えやすくなることが指摘できる。

● 総務省「家計調査」に基づく家計のつきあい費の支出データによれば、日経平均株価が+10%上昇すると家計のつきあい費が+4.2%程度増加する関係がある。

● 内閣府「消費者態度指数」の消費者態度指数や「景気ウォッチャー調査」の先行き判断DI(家計)を消費者心理とすれば、消費者心理とも家計のつきあい費支出は明確な正の相関関係がある。消費者態度指数と先行き判断DIがそれぞれ1%上がれば、家計のつきあい費支出がそれぞれ1.37%、0.36%増加することになる。

● 足元の株価調整が継続する局面になれば、家計の選択的支出の割合が低下することで、家計のつきあい費支出が減少に転じる可能性がある。

● ただ、株価の調整が短期間で落ち着けば、選択的支出の割合が上昇し、結果的に家計のつきあい費がそれほど減少しない可能性もある。家計のつきあい費支出が景気のバロメーターとして機能するかどうかは、今後の株価次第といえる。

持ち直す家計のつきあい費

 このところ、家計における「つきあい費」の支出金額が増えている。家計調査における「つきあい費の」品目定義は、「親ぼく又は交際的要素のある支出」となっている。

 事実、近年の「つきあい費」の支出動向を前年比で見ると、2015年11月分から2017年7月分まで21か月連続で減少を続けていたが、2017年8月から増加に転じている(資料1)。

株価に連動するつきあい費
(画像=第一生命経済研究所)

 しかし、過去をさかのぼれば、家計の付き合い費支出の前年比は、2014年10月から2015年10月まで13か月間増加している。2014年の秋以降といえば、日銀が追加金融緩和を打ちだし、そこに解散総選挙で与党が圧勝し、株価上昇に拍車をかけた時期と重なる。一方、2015年の秋以降といえば、その夏から発生したチャイナショックによって株価が大きく調整した時期と重なる。

 従って、家計におけるつきあい費の支出金額は、その時期の株価と関係することが推察される。

家計のつきあい費は株価と連動

 一般に、親ぼく又は交際的要素のある支出等の「つきあい費」のような支出は、景気が良くなると増加しやすく、景気が悪くなると抑制されやすい傾向にある、といわれている。この背景には、つきあい費には嗜好的な要素が強いことがある。従って、同じく景気が良くなると上昇しやすく、景気が悪くなると下落しやすい株価とも統計的に有意に関係する可能性がある。

 そこで、家計におけるつきあい費の支出と景気の関係を調べるために、総務省「家計調査」の農林漁家含む二人以上の世帯におけるつきあい費支出と日経平均株価の推移をみると、正の相関関係がある様子がうかがえる(資料2)。つまり、つきあい費の支出金額は株価と統計的に有意な関係があり、今年秋以降の株価上昇は年末のつきあい費支出の増加に好影響を与えた可能性がある。そして、2015年以降の関係に基づけば、日経平均株価が10%上昇すると、家計のつきあい費が4.3%程度増加するといった関係がある。

株価に連動するつきあい費
(画像=第一生命経済研究所)

 この背景としては、一般的に親睦または交際的要素のある支出は、嗜好的な要素が強い一方、株価は基本的に将来の企業業績に対する期待で決まる要素が強いとされる。つまり、企業業績が拡大する環境下は、株式を保有していない消費者についても、雇用所得環境の改善の期待が高まりやすいだろう。こうした関係が、家計の所得環境とも関係する株価と家計のつきあい費との連動性を生み出しているものと思われる。

消費者心理とも関係する家計のつきあい費

 以上のように、昨秋以降の株価上昇とともに家計における「つきあい費」の支出金額は増えている。しかし裏を返せば、たまたま近年に株価とつきあい費の関係が連動しているだけで、見せかけの相関の可能性もあり、景気とつきあい費との関係があるわけではないと考えることもできなくない。

 では、こうした家計のつきあい費は、景気の変化が直接作用するとされる家計の消費者心理とどのような関係にあるのだろうか。そこで以下では、消費者心理のデータを用いて、家計のつきあい費支出とどの程度関係があるかを調べた。

株価に連動するつきあい費
(画像=第一生命経済研究所)
株価に連動するつきあい費
(画像=第一生命経済研究所)

 代表的な消費者心理のデータとされる内閣府『消費動向調査』の消費者態度指数と「景気ウォッチャー調査」の先行き判断DI(家計動向関連)を用いて、家計のつきあい費支出額との関係を見ると、株価との関係ほどではないが、いずれもつきあい費と統計的に有意な正の相関関係があることが確認される。そして、消費者態度指数と景気ウォッチャー調査の先行き判断DI(家計動向関連)がそれぞれ1%ポイント上昇すれば、家計のつきあい費がそれぞれ+1.37%、0.36%程度増加する関係にあることがわかる。

 近年は、消費者心理のデータがいずれも2016年12月から前年比プラスで推移していることから、2017年以降の消費者心理の改善が、間接的に2017年8月以降のつきあい費支出の増加に結びついた格好と言えよう。今後も消費者心理や株価の好調が続けば、嗜好性の高いつきあい費の支出が高水準を維持する可能性が高い。

 ただ一方で、株価が軟調に推移すれば、いくら消費者心理が高水準を維持しても、結果的につきあい費がそれほど増えないという可能性もある。従って、つきあい費が景気のバロメーターとして今後も機能するかは、今後の株価次第と言えよう。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 経済調査部
首席エコノミスト 永濱 利廣