要旨

●2017 年度の公共投資は微増に留まりそうだ。2016 年には「未来への投資を実現する経済対策」が策定され、その真水分にあたる第2次補正予算では2.8 兆円の建設投資が追加された。これが17 年度に繰り越されることで公共投資を大きく押し上げると考えられたが、実際の増加は僅かに留まっている。

●その理由は一般会計の外、東日本大震災復興特別会計にあるようだ。関連需要が一巡するもとで、東北地方の公共投資額は減少傾向にある。先を見据えると、2018 年度の復興予算も縮小傾向にあるほか、一般会計における2017 年度補正の小規模化も重なる。2018 年度の公共投資は減少が見込まれ、2018 年度GDPの押し下げ要因となろう。

思いの外増えなかった2017 年度の公共投資

 先般公表された17 年10-12 月期GDP1次速報によれば、実質公的固定資本形成は前期比▲0.5%の減少であった。同項目は、4-6月期に同+4.7%と高い伸びになった後、2四半期連続のマイナスとなっている。

一巡する3.11復興需要
(画像=第一生命経済研究所)

 過去、2017 年度の公的固定資本形成は+4%程度の伸びが見込まれていた。それは、2016 年の夏に策定された「未来への投資を実現する経済対策」の効果が発現するためである(年度途中で成立する補正予算の場合、予算の消化(建設工事の進捗)が年度内に完了せず、翌年度に繰り越されるケースが多い。進捗ベースのGDPでも、補正予算の効果は翌年度に顕れることが多い)。この対策を実施するために策定された2016 年度の第2次補正予算では、追加歳出4.1 兆円、うち建設投資2.8兆円が計上された。資料1は日本経済研究センターのESP フォーキャスト調査のデータを基に、同項目のエコノミストのコンセンサス推移をみたものだ。この対策が策定された2016 年8 月~9月にかけて、民間エコノミストのコンセンサスも上方改定が進んだ。しかしその後の予測値は低下、経済対策効果がはっきりと顕れた2017 年4-6月期のGDP公表後(2017 年8 月)には一時的に再び4%台に戻ったが、直近調査の2月調査におけるコンセンサス予測は1%強まで下方修正されている。

復興需要の一巡がオフセット

 思いの外伸びなかった公共投資の背景には何があるのか。結論から述べると、経済対策の効果が出ていないという訳ではなく、東日本大震災の復興関連事業の減少が、補正予算の増加分を相殺していると考えている。数字で確認していこう。資料2は内閣府の公表している地域別支出総合指数の公的固定資本形成の値をみたものだ。2012 年以降、復興需要の本格化とともに東北地方の数値が上昇しているが、2015 年ごろをピークに減少傾向に入っていることがわかる。

 次に、復興庁資料を基に除染関連の予算額の推移を確認すると、2016 年度をピークに減少に転じている(資料3)。SNA(国民経済計算)上では公的固定資本に計上されると考えられる「中間貯蔵施設の整備」が大きく減少しているのが主因だ。資料4では、公共工事の請負契約の金額(2017 年4 月~2018 年1 月までの累計値の前年差)を地域別にみている。最も減少寄与となっているのが福島県(前年同期差▲2,382 億円)であり、出典元によれば環境省所管の福島地方環境事務所の契約額が大きく減少している(同▲1,294 億円)。福島地方環境事務所は除染や中間貯蔵施設を所管しており、関連する事業の減少が同統計に表れていると考えられる。

 再度、資料4で地域別の公共工事額をみると、東京の工事請負金額は同+1,054 億円増加している。2016年の経済対策には東京オリンピック・パラリンピックの競技施設整備や、羽田空港の機能強化、鉄道駅のバリアフリー化などが盛り込まれている。東京都の公共投資の増加は、経済対策実施によるものと考えられる。

 2017 年度公共投資は、経済対策の効果を背景に東京を中心に増加したものの、東日本大震災の復興需要の一巡がそれを相殺し増加幅は小幅にとどまっていると考えられる。

一巡する3.11復興需要
(画像=第一生命経済研究所)
一巡する3.11復興需要
(画像=第一生命経済研究所)

2018 年度も復興予算は減少へ

 復興工事が一巡するもと、昨年末に策定した2018 年度予算においても、復興関連予算は減少している。財務省の予算資料を基に、復興関連の予算が計上される「東日本大震災復興特別会計」の公共投資額(災害復旧+一般公共事業+施設)の推移をみたものが資料5だ。当初予算額は17 年・18 年と2年連続で減少しており、復興事業の減少が続くことを示唆している。復興庁の公表する「復興の現状」によれば、計画されている工事のうち、道路や土地区画整理、海岸対策などが実施されている中にあるが、水道施設など工事が概ね完了しているものも数多い(資料6)。

一巡する3.11復興需要
(画像=第一生命経済研究所)

 一般会計においても、1月に成立した2017年度の補正予算の建設投資額は1.2 兆円と2016年の経済対策(2.8 兆円)を下回る規模となっている。一般予算・復興予算の動向を踏まえれば、2018 年度の公共投資は減少に転じることが予想され、GDPの押し下げ要因となる公算が大きいと言えるだろう。(提供:第一生命経済研究所

一巡する3.11復興需要
(画像=第一生命経済研究所)

第一生命経済研究所 経済調査部
担当 副主任エコノミスト 星野 卓也