要旨

●10月下旬以降の長雨や台風、気温の急低下や積雪といった要因を背景として野菜価格が高騰しており、物価が大きく押し上げられている。1月の東京都区部CPIでは、生鮮食品を含まないコア指数では前年比+0.7%にとどまる一方、生鮮食品を含む総合指数では+1.3%に達した。季節調整値でみても、1月の総合指数の水準は10-12月期を0.7%Pt上回っている。こうした物価上昇による購買力の低下が、1-3月期の個人消費の抑制要因になる可能性が高い。また、野菜は生活に身近で価格上昇を意識しやすいため、マインドの悪化に繋がりやすい点にも注意が必要だ。

●天候不順による消費下押しも懸念される。1月は記録的な寒波の襲来と積雪により、外出の手控えが生じたとみられ、景気ウォッチャー調査などでも消費悪化が示唆されている。17年10-12月期の個人消費(GDPベース)は前期比増加が予想されているが、1-3月期については、野菜価格上昇と天候不順による下押しで、再び前期比マイナスに転じる可能性がある。

野菜価格の高騰により、CPIの総合指数が大幅上昇

 野菜価格の高騰が長引いている。野菜価格は、昨年10月中旬までは豊作の影響により安値で推移していたが、10月下旬以降の長雨や台風に伴って痛みが多発、出荷数量が大幅に減った。また11月以降も気温の急低下による生育の低下が続くなどの悪材料があり、野菜価格は高騰した。当初は、1月にはこうした状況も落ち着くとみられていたが、厳しい寒さや下旬以降の積雪の影響により入荷量は思うように回復せず、野菜価格は高水準で推移している。2月に入っても各地で積雪が続いており、価格の高止まりが長期化する可能性があるだろう。

野菜価格の高騰が消費を下押し
(画像=第一生命経済研究所)

 こうした状況は消費者物価指数でも確認できる。東京都区部の動向をみると、生鮮野菜価格は17年10月に前年比▲26.8%となったあと、11月は▲11.4%、12月は+9.4%、18年1月は+24.5%と急上昇している。CPI総合への寄与度でみても、10月の▲0.68%Ptが1月に+0.53%Ptとなるなど、僅か3ヶ月で1.2%Ptもの押し上げ要因となっている。季節調整値でも同様に急上昇しており、17年10月から18年1月にかけて43.4%上昇している。仮に2、3月も1月の水準を維持した場合、生鮮野菜だけでCPI総合を前期比で+0.34%Ptも押し上げることになる。2月に入っても天候不順が続いているため、十分あり得る想定だろう。

野菜価格の高騰が消費を下押し
(画像=第一生命経済研究所)

 こうした生鮮野菜価格の押し上げにより、CPIの総合指数はコア以上の上昇となっている。具体的には、1月の東京都区部のコア指数は前年比+0.7%であるのに対し、総合指数は+1.3%、季節調整値でみても、17年10月から18年1月にかけての上昇率は、コアが+0.3%にとどまるのに対し、総合指数では+1.2%もの上昇となっている。一般的に、CPIは生鮮食品を除いたコアで見ることが多いが、これはあくまで物価の基調を把握するために振れの大きい生鮮食品を除いているだけであり、消費者の現実の生活に直結するのはコアではなく総合だ。個人消費への影響を見る上では総合指数を見る必要がある。

野菜価格の高騰が消費を下押し
(画像=第一生命経済研究所)

 もともと、原油価格上昇に伴ってエネルギー価格は上昇し、物価押し上げ要因となっていた。そこに野菜価格の高騰が加わったことで、消費者への負担は一段と増している。野菜にしてもエネルギー価格にしても生活に必要不可欠であり節約が難しい。その分、他の消費を削らざるを得なくなるというわけだ。なお、東京都区部のCPI総合指数を季節調整値でみると、仮に2、3月が1月の水準を維持した場合、1-3月期は前期比+0.7%もの上昇となる。こうした物価上昇による購買力の低下は、1-3月期の個人消費にとって大きな痛手となるだろう。特に、野菜への支出比率が高い高齢者層への影響は大きくなりそうだ。

 また、野菜は生活に身近で購入頻度が高いため、他の財と比べて価格上昇を意識しやすいという特徴をもっている。こうした体感物価の上昇がマインド悪化を通じて消費に悪影響を及ぼす可能性にも注意したいところだ。

寒波による外出手控えも。1-3月期の個人消費は前期比減少の可能性あり

 こうした価格上昇による購買力押し下げに加え、天候不順による消費への悪影響も懸念される。1月中旬以降、記録的な寒波により気温が急低下し、積雪量も増えた。気温低下は冬物商品の需要を増やす面もあるが、今回は気温低下が激しく、積雪も重なったことで、外出機会が奪われた悪影響の方が大きかったものと思われる。特にサービス消費への下押しが大きくなるだろう。実際、1月の景気ウォッチャー調査は現状判断DIが前月差で▲4.0ポイントもの大幅低下、特に家計部門での落ち込みが大きくなっている。ウォッチャーのコメントでも、寒波の襲来や降雪の影響による来客数の減少、野菜価格高騰の悪影響などに言及するものが多くみられた。1月の個人消費は慎重にみておいた方が良さそうだ。

 もちろん、野菜価格の高騰がいつまでも続くわけではないし、寒波による悪影響もいずれは解消される。これらの消費下押しは一時的で、春以降は再び元に戻ることが予想される。個人消費は緩やかな増加傾向という評価を変える必要はないだろう。もっとも、1-3月期に限っていえば、これらの悪材料による下押しを意識せざるを得ず、個人消費は前期比で再び減少に転じる可能性を見ておいた方が良いと思われる。

 個人消費は最近、天候要因によってアップダウンを繰り返す展開が続いているが、1-3月期についてもそれは当てはまりそうだ。個人消費は均せば緩やかな増加基調とはいえ、天候次第で振らされる程度の強さでしかないともいえる。足元の景気は好調な推移が続いているが、それはあくまで輸出と設備投資を中心とした企業部門主導の回復という状況は変わっていない。(提供:第一生命経済研究所

野菜価格の高騰が消費を下押し
(画像=第一生命経済研究所)

第一生命経済研究所 経済調査部
主席エコノミスト 新家 義貴