●2018年の春闘賃上げ率を2.34%と予測する(厚生労働省「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」ベース)。17年の春闘賃上げ率は2.11%と、2年連続で伸びが鈍化していたが、18年は上向く可能性が高い。また、賃上げ分のうち、定期昇給部分(1.8%程度)を除いたベースアップで見ると0.54%になるとみられる。ベースアップは5年連続となり、伸び率も昨年(0.31%)を上回る見込みだ。
●春闘賃上げ率には物価や企業業績の動向が影響するが、どちらも上向きであり、賃金を取り巻く環境は改善している。17年の春闘は、物価が下落し企業業績も伸び悩んだ16年の経済状況を反映したことで物足りない結果だったが、18年の春闘では、物価が上昇し、企業収益も好調な17年の経済状況をベースに交渉が行われる。低水準の失業率に見られるとおり、労働需給が改善していることも賃上げに繋がる材料だ。加えて、政府からの賃上げ要請圧力が強まっていることも賃上げを後押しするだろう。労働分配率が低水準で、企業の賃上げ余力が存在することもあり、経営側もある程度の賃上げは受け入れるだろう。
●18年度は、春闘による正規社員の賃上げに加え、人手不足感の強まりを背景にした非正規労働者の賃金上昇の動きも続くだろう。非正規社員の正規化の流れが継続するとみられることも、賃金を押し上げる材料だ。18年度の所定内給与は17年度対比で改善する可能性が高い。
●春闘では、月例給与に加え、ボーナスについても交渉が行われることが多い。17年度の好調な企業業績を反映して、18年のボーナスは夏・冬とも増加するだろう。一度引き上げると削減が難しい月例給与に比べて、ボーナスは業績に応じて比較的柔軟に変動させることが可能である。業績さえ良ければ、経営側としても引き上げへのハードルは高くない。このように、18年度は所定内給与、特別給与とも増加が見込まれ、一人当たり賃金で前年比+1%を上回る可能性が高いと予想している。
●もっとも、賃上げ率は昨年対比で改善するとはいえ、政府が要請する3%にはかなりの距離がある。また、労務行政研究所が1月31日に公表した「賃上げ等に関するアンケート調査」によると、18年の賃上げ見通しは2.13%となり、昨年の回答である2.00%を0.13%ポイント上回るにとどまった。外部環境は非常に良好だが、それを大幅な賃上げに繋げようという機運は、実際に交渉を担当する労働側、経営側ともまだ盛り上がっているわけではないようだ。筆者は、昨年の段階では18年の春闘賃上げ率は、ここ数年でもっとも高い伸びだった15年の2.38%を上回り、2.4%台に乗せると考えていたが、こうした状況を踏まえると、15年の伸びを下回る可能性が高そうだ。
●もう一つの懸念材料は物価だ。昨年からの原油価格の上昇がエネルギー価格の押し上げに繋がることを考えると、18年のCPIは鈍化せず、1%程度の推移が続く可能性がある。結果として、実質賃金の伸びは小幅なものにとどまるだろう。マイナスが見込まれる17年度からは改善するが、その度合いは大きなものではない。18年度も緩やかな個人消費の持ち直しが見込めるが、消費が景気を牽引するまでには至らないだろう。17年に続き、18年についても企業部門主導の景気回復となることが予想される。(提供:第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 新家 義貴