要旨
●2017年の労働力調査の結果をみると、労働力人口、就業者数の増加、失業者数、失業率の減少、低下が続くなど、アベノミクス以降みられる労働市場の改善は5年間続いている。2017年の結果では、雇用者数増加要因として、男性正規雇用者数の増加が目立ち、男性でも非正規比率が低下に転じた。
●年齢階級別に見ると、40・50代男性の正規雇用者数が増加している。また、団塊世代が70歳を迎えたことで、60代の非正規雇用者数の増加ペースが大幅に減速した。
●正規雇用者数の増加を、①労働力人口が増えた要因、②雇用者比率(雇用者数/労働力人口)が上昇した要因、③正規比率が上昇した要因(正規雇用者数/雇用者数)の3つに分解してみると、いわゆる雇用の質の改善が明確なのは、40~44歳と50~59歳である。40~44歳については、近年の若年雇用改善の影響が波及したものと見られる。50~59歳については、60歳以降の雇用継続を睨んだ正規化の流れがでていると考えられる。
●これまで男性雇用の課題となっていた不本意非正規雇用者についても減少し始めた。人口減少による人手不足の深刻さが増したことで、こうした層に改善が及び始めたことは、生活基盤の安定や能力開発機会の増加など中長期的にも効果は大きく、喜ばしい。一方で、いまだに不本意非正規労働者が140万人もいる。こうした不本意非正規労働者の力を生かしきれるようになり、2018年が労働市場にとって大きな変化の年になるか、大いに期待し、注目して行きたい。
とうとう男性正規雇用が牽引役に
2017年の労働力調査が公表された。人口減少、高齢化のもとでも、労働力人口は5年連続で増加した。労働市場に参入した人を受け入れる環境も改善が続いており、就業者数や雇用者数も5年連続の増加、失業者数や失業率も減少、低下が続いた。
牽引役となったのは、引き続き女性であるが、2017年の結果をみると、男性正規雇用者が牽引役に躍り出てきた(図表1)。非正規雇用者の減少もあいまって、男性でも非正規比率がとうとう低下した。世帯主であることの多い男性雇用者の待遇改善は消費などに与える影響も大きい。本稿では、男性労働市場に焦点をあて、2017年の労働市場を見て行きたい。
40・50 代の男性正規雇用者数増加
男性の正規雇用者数の増分について年齢階級別にみると、人口ボリュームの大きな団塊ジュニア世代が2016 年頃から45 歳を越え始めたこともあり、45~54 歳の増加と35~44 歳の減少が続いてきた(図表2)。35~54 歳でみると、正規雇用者の前年差は14 年が▲3万人、15 年が+4万人、16 年が+8万人、17 年は+14 万人と、改善ペースは緩やかに高まっており、35~54 歳が2017 年正規雇用者数増加の牽引役だ。また、2017 年については55~64 歳の正規雇用者数増加も目立つ。内訳を見ると、55~59 歳が前年差+8万人、60~64 歳が同+4万人となっており、総じて40 代、50 代の男性正規雇用者が増加したと言える。
非正規雇用者数についてみると、人口ボリュームの大きな団塊世代が70 歳を迎え始めたこともあり、これまで増加を牽引していた65~69 歳が増加に寄与しなくなった(図表3)。代わりに70~74 歳の増加寄与が拡大しており、団塊世代がこれまでの世代以上に70 歳を超えても労働市場に残っていることが示されている。それでも、65~74 歳合計でみた増加寄与は低下しており、団塊世代が70 歳を迎え、人手不足が一段と厳しくなることが想定される。
40 代前半と50 代後半に人手不足の好波及
次に、正規雇用者が増加した40 代、50 代について、もう少し詳細に見てみたい。2016 年以降、45~49 歳男性の正規雇用者増が続いていることに加えて、2017 年には50~54 歳や55~59 歳の50 代男性の正規雇用者が増加幅を拡大しており、広く40 代、50 代男性の正規雇用者数が拡大していることがわかる(図表4)。
しかし、人口ボリュームの大きな団塊ジュニア世代が同時期に40~44 歳から45~49 歳に移行したり、バブル時の大量採用で正規雇用者比率の高いいわゆるバブル入社世代が45~49 歳から50~54 歳に移行したりしており、世代ごとの人数の変化が大きい。ボリュームが増えたから、正規雇用者数が増えただけであれば、それは質の改善とは言いくい。そこで、40~59 歳の各世代について、正規雇用者数の増加要因を、①労働力人口が増えた要因、②雇用者比率(雇用者数/労働力人口)が上昇した要因、③正規比率が上昇した要因(正規雇用者数/雇用者数)の3つに分解してみてみたい(図表5)。この3つの要因のうち、労働力人口増加要因(グラフ内細い斜線)はボリュームであり、質の改善とは言いにくいため、残りの2つの要因に注目すると、改善が目立つのは40~44 歳と55~59 歳である。
40~44 歳については、当然のことながら、この中では最も若い。2017 年5 月のレポートでも指摘した通り(詳細は、2017 年5 月26 日発行の弊社レポート Economic Trends「改善遅れる男性雇用」をご覧ください)、2016 年時点で34 歳以下の男性については既に改善が見え始めていた。こうした若年層労働市場改善の波が届き始めたとみられる。55~59 歳については、正規比率に加えて労働力人口増加も目立ち、質量そろった改善となっている。アベノミクス以降、同世代では労働力率が明確に上昇しており(図表6)、好景気を背景に雇い止めが減少したことや、60 歳以降も働ける環境整備が進んだことなどの効果が大きかったのだろう。正規比率上昇については、こうした環境改善を背景に、55 歳以降も正規雇用者として働き続ける人が増えたと見られる。55~59 歳の労働環境の好転は、その世代が60 歳以降になった時の好スタートに繋がるため、影響は大きい。ただし、労働力率が上昇したとはいえ、未だ50~54 歳からの低下幅は大きく、今後も一層の改善が期待される。
不本意非正規は減少も道のりは遠い
男性40 代というと、これまで新卒時の就職活動時期が不景気だったため、仕方なく非正規雇用者になり、その後も正規雇用の職に就けないなどの不本意非正規雇用者が問題となっていた。今回40~44 歳の正規雇用比率が上昇したことで、こうした不本意非正規雇用者の問題が解決したのか見てみたい。
「正規の職員・従業員の仕事がないから」という理由で非正規雇用として働いている雇用者数の推移を見ると、アベノミクス前に170 万人だった不本意非正規雇用者数が足元では140 万人にまで減少した(図表7)。特に2016 年後半以降、契約社員での減少が目立っており、契約社員の待遇改善や契約社員から正規登用されるなどしたものと見られる。年齢階級別に見ても、各年齢層で万遍なく減少している(図表8)。人口減少による人手不足の深刻さが増したことで、こうした層に改善が及び始めたことは、生活基盤の安定や能力開発機会の増加など中長期的にも効果は大きく、喜ばしい。
ただし、減少したとはいえ、いまだに不本意非正規労働者が140 万人もいる。アベノミクス以降、女性、シニアと来た労働市場の改善が、本丸である男性労働市場に波及する兆しが見え始めたに過ぎない。男性労働市場の改善が本格化していくとなれば、硬直的といわれた日本の労働市場が大きく変化することになるだろう。折りしも、正社員の求人倍率が高まるなど、追い風は吹いている。労働力が益々貴重となる中、残されてきた不本意非性雇用者の力が有効に活用されるようになり、硬直的だった労働市場が変わるのか、2018年が労働市場にとって大きな変化の年になるよう、大いに期待し、注目して行きたい。(提供:第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所 経済調査部 担当 主任エコノミスト 柵山 順子