要旨

● 世界的に異常気象を招く恐れのあるラニーニャ現象が発生している。ラニーニャ現象の日本への影響として、梅雨入りと梅雨明けが早まることで夏の気温は平年並みから高めとなり、冬の気温は平年並みから低めとなる傾向がある、ということ等が指摘されている。

● 過去のラニーニャ現象発生時期と景気回復局面の関係を見ると、90年代以降全期間で景気回復期だった割合は73.9%となるが、ラニーニャ発生期間に限れば89.5%の割合で景気回復局面に重なる。

● 実際、2005年のラニーニャ発生局面では記録的な寒波に舞われ、10-12月期の東京の平均気温は前年より1.37℃低くなった。この寒波効果で2005年10-12月期の消費支出(家計調査)は前年比+1.3%の増加に転じた。2005年10-12月期の実質国内家計最終消費支出も前年比+2.3%と伸びが加速し、家庭用機器の支出額が大幅に増加し、冬のレジャーの活況により娯楽・レジャー関連でも寒波が追い風となった。

● 厳冬で業績が左右される業界としては冬物衣料関連や百貨店関連がある。また、ガス等のエネルギー関連のほか、医薬品やマスク等のインフルエンザ関連も過去の厳冬では業績が大きく左右されている。自動車等の防寒や凍結対策関連といった業界も厳冬の年には業績が好調になりがちとなる。鍋等冬に好まれる食料品を提供する業界や外食、コンビニ等の売り上げも増加しやすい。冬物販売を多く扱うホームセンターや暖房器具関連、冬のレジャー関連などへの好影響も目立つ。

● マクロ的には、10-12月期の気温が▲1℃低下すると、同時期の家計消費支出が+0.54%程度押し上げられる関係がある。これを金額に換算すれば、10-12 月期の平均気温が▲1℃低下すると、同時期の家計消費支出を約+3,235 億円程度押し上げることになる。

● ただ、年明け以降の厳冬は、豪雪に伴う交通機関の乱れや農作物の生育などへの悪影響を通じて経済活動に悪影響を与える可能性があることには注意が必要。また、世界的なラニーニャ現象により穀物価格が高騰すれば、2008 年当時のように我が国の食料品の値上げラッシュをもたらし、家計の購買力低下を通じて経済に悪影響をもたらしかねないことにも注意が必要。

厳冬をもたらすラニーニャ

 世界的に異常気象を招く恐れのあるラニーニャ現象が発生している。気象庁が12月11日に発表したエルニーニョ監視速報によると、ペルー沖の海面水温が低くなるラニーニャ現象の影響等で厳冬となる見込みとされており、気象庁が11月24日に公表した向こう3か月の予報でも、東日本と西日本を中心に気温が低くなりがちと予想している。

 ラニーニャ現象とは、南米沖から日付変更線付近にかけての太平洋赤道海域で、海面水温が平年より1~5度低くなる状況が1年から1年半続く現象である。ラニーニャ現象が発生すると、地球全体の大気の流れが変わり、世界的に異常気象になる傾向がある。近年では、2016年夏から2017年春にかけて発生し、北海道を中心とした8月の長期的な大雨・豪雨 となった他、1951年に気象庁が統計を取り始めて以来、初めて東北地方の太平洋側に台風が上陸した。また北日本では平年より7~10日早い初雪・初冠雪を観測し、関東甲信越では2016年11月に初雪・初冠雪を観測した。このほか、2017年1月中旬と2月中旬、3月上旬は日本国内のみならず、国外の多くで10数年に1度の北半球最大規模の大寒波が襲来した。

 気象庁の過去の事例からの分析では、ラニーニャ現象の日本への影響として、梅雨入りと梅雨明けが早まることで夏の気温は平年並みから高めとなり、冬の気温は平年並みから低めとなる傾向がある、ということ等が指摘されている。

ラニーニャ発生時期の9割近くが景気回復

 実際、ラニーニャ現象の発生時期と我が国の景気局面の関係を見るべく、過去のラニーニャ現象発生時期と景気回復局面を図にまとめてみた。すると、90年代以降全期間で景気回復期だった割合は73.9%となる。しかし驚くべき事に、ラニーニャ発生期間に限れば89.5%の割合で景気回復局面に重なる事がわかる。

ラニーニャが冬の経済に及ぼす影響
(画像=第一生命経済研究所)

 実際、2005年のラニーニャ発生局面では記録的な寒波に舞われた。気象庁の発表によると、10-12月期の東京の平均気温は前年より1.37℃低くなった。この寒波効果で2005年10-12月期の消費支出(家計調査)は前年比+1.3%の増加に転じた。特に、家具家事用品が暖房器具の売り上げが好調に推移したことから、同+9.4%の伸びを記録した。また、冬物衣料を見ても、寒波効果は明確に表れた。同時期の被服及び履物支出は寒波の影響で季節商材の動きが活発化し、大型小売店でも冬物商材が伸長したことで回復が進んだ。保険医療の支出動向もインフルエンザ関連がけん引し、全体として好調に推移した。

 国民経済計算ベースで見ても、寒波の恩恵が及んだ。2005年10-12月期の実質国内家計最終消費支出は前年比+2.3%と伸びが加速し、家計調査同様に家庭用機器の支出額が大幅に増加した。また、冬のレジャーの活況により娯楽・レジャー関連でも寒波が追い風となった。

ラニーニャが冬の経済に及ぼす影響
(画像=第一生命経済研究所)

幅広い寒波効果

 以上より、仮にラニーニャ現象により今年の冬も厳冬となりつつあるため、各業界に恩恵が及ぶ可能性がある。

 事実、過去の経験によれば、厳冬で業績が左右される代表的な業界としては冬物衣料関連や百貨店関連がある。また、ガス等のエネルギー関連のほか、医薬品やマスク等のインフルエンザ関連も過去の厳冬では業績が大きく左右されている。そのほか、車等の防寒や凍結対策関連といった業界も厳冬の年には業績が好調になりがちとなる。更に、鍋等冬に好まれる食料品を提供する業界や外食、コンビニ等の売り上げも増加しやすい。冬物販売を多く扱うホームセンターや暖房器具関連、冬のレジャー関連などへの好影響も目立つ。

ラニーニャが冬の経済に及ぼす影響
(画像=第一生命経済研究所)

10-12月期の気温▲1℃低下で家計消費+3,200 億円程度増加

 そこで、過去の気象の変化が家計消費全体にどのような影響を及ぼしたのかを見るべく、国民経済計算を用いて10-12月期の実質家計消費の前年比と東京・大阪平均の気温の前年差の関係を見た。すると、10-12月期は気温上昇や日照時間が増加した時に実質家計消費が増加するケースが多いことがわかる。従って、単純に家計消費と気温の関係だけを見れば、厳冬は家計消費全体にとっては押し上げ要因として作用することが示唆される。

ラニーニャが冬の経済に及ぼす影響
(画像=第一生命経済研究所)

 そこで、1995年以降のデータを用いて10-12月期の東京・大阪平均気温前年差と家計消費支出の関係を見ると、10-12月期の気温が▲1℃低下すると、同時期の家計消費支出が+0.54%程度押し上げられる関係がある。これを金額に換算すれば、10-12 月期の平均気温が▲1℃低下すると、同時期の家計消費支出を約+3,235 億円程度押し下げることになる。

 従って、この関係を用いて今年10-12月期の気温が94 年および2010 年と同程度となった場合の影響を試算すれば、平均気温が前年比でそれぞれ▲0.6℃、▲0.7℃低下することにより、昨年10-12月期の家計消費はそれぞれ前年に比べて+2,098 億円(+0.3%)、+2,430 億円(+0.4%)程度押し上げられることになる。このように、厳冬の影響は経済全体で見ても無視できないものといえる。

 なお、2005年の時のように年明け以降の厳冬は、豪雪に伴う交通機関の乱れや農作物の生育などへの悪影響を通じて経済活動に悪影響を与える可能性があることには注意が必要だろう。

 また、異常気象は世界的な現象であることから、海外にも影響が及ぶことにより、穀物価格高騰を通じた悪影響も考えられる。世界的なラニーニャ現象により穀物価格が高騰すれば、2008 年当時のように我が国食料品の値上げラッシュをもたらし、家計の購買力低下を通じて経済に悪影響をもたらしかねないことにも注意が必要だろう。

ラニーニャが冬の経済に及ぼす影響
(画像=第一生命経済研究所)

第一生命経済研究所 経済調査部
首席エコノミスト 永濱 利廣