中小企業の生産性について考えてみた。大企業との違いはどこにあるのだろうか。法人企業統計では、資本金が大きくなるほど1人当たり従業員の資本装備率が高まって生産性は上昇していた。意外なことにこの傾向は、様々な業種で共通している。中小企業が生産性を上げるためのノウハウは、最近はAIやロボットの活用がひとつの流行となっている。

なぜ中小企業が優遇されるのか?

 とかく中小企業は政策的に優遇されがちである。理由は、雇用者数の大半が中小企業に集まっているからである。政治的に多くの人にアピールできた方が良いという配慮が働いているのだろう。しばしば中小企業は弱者だから保護政策が正当化されるという主張も行われる。筆者は、この主張に関しては、少し感覚的だと思う。財務データでみる限り、中小企業の業績はかなり改善してきている。中小企業のグループ内での業績格差は常に存在するので、中小企業の中の業績が低迷している先への配慮はある程度必要という意見には必ずしも反対していない。その場合でも、中小企業全体を保護すべき対象として扱う必要はないと考えられる。本稿では、多くの人が素通りして考えている中小企業の捉え方について、大企業と対置しながら、何が違っているのかを生産性という尺度を使って考えてみたい。

法人企業統計の区分

 まず、中小企業の定義から確認しておこう。定義は、中小企業基本法に基づく。製造業は資本金が3億円以下、または常用の従業員数が300 人以下とされる。卸売・小売・サービス業では、もっと小さい資本金、少ない従業員数が当てはめられる。従って、定義は複雑になる。筆者のみるところ、中小企業を指すときは法人税法における中小企業軽減税率が適用される、資本金1億円以下の企業を指して、中小企業として区分する方が多いのではないかと思う。大企業・中堅企業に至っては、根拠はなく、昔は上場企業を大企業とみなすこともあった。新興企業が資本市場に参加する今日は、上場企業イコール大企業とは言えなくなっている。資本金10 億円以上が大企業、1~10 億円未満が中堅企業というのがだいたいの目処となると筆者は考える。

 財務省「法人企業統計年報」では、資本金別に、1千万円未満、1千~5千万円未満、5千万円~1億円未満、1~10 億円未満、10 億円以上と区分している。これを使うと、大企業=資本金10 億円以上、中堅企業=資本金1~10 億円未満、それ以外が中小企業ということになろう。

 さて、これらの企業区分ごとに、パフォーマンスにどれだけの違いがあるのかを、従業員(含む役員)1人当たり名目付加価値、イコール生産性でみてみた(図表1)。すると、資本金の金額が大きくなるほどに、生産性が高くなる関係が見て取れた。やはり、大企業、中堅企業ほどにパフォーマンスが高くなる関係なのだろうか。こうしたパフォーマンスの差が、「大企業は強く、中小企業は弱い」という感覚をつくり出しているのだろう。

中小企業と大企業の生産性
(画像=第一生命経済研究所)

資本金の相違

 企業規模の違いが資本金によって決まってくると考えると明快である。資本の裏に実物資産があるとすると、中小企業の設備資本ストックは小さく、大企業はそれが大きい。バランスシート上、自己資本が負債・資本側にあり、設備資本ストック(有形固定資産など)が資産側にある。この関係は、企業の様々な経営指標にも表れている。一つは、従業員の1人当たり設備資本ストックである。大企業は、従業員数も多いが、1人当たりの設備資本ストックも相対的に多い(図表2)。

中小企業と大企業の生産性
(画像=第一生命経済研究所)

 この指標は、資本装備率が中小企業では低く、大企業では高い。しかも、様々な業種に亘って並べてみても、資本金が大きくなるほど資本装備率は高くなる点で共通している。

中小企業と大企業の生産性
(画像=第一生命経済研究所)

 この差異が生産性の違いに表れている(図表3)。すなわち、1人当たりの従業員が使える設備インフラが大きくなり、生産性も高くなっているのである。「大企業が強い」ように見えるのは、資本力を活かして、従業員がより資本集約的な仕事の仕方ができるから、生産性も高まるのであろう。つまり、中小企業であっても、資本を増強して積極的に生産性を高めるための設備インフラを増やせば、強くなることも可能である。

 もちろん、何でも設備投資をすれば生産性が上がるのではなく、「生産性を上げるための投資を選ぶ」という点は必須である。

規模によるパフォーマンスの差

 企業の規模が大きくなり、設備資本ストックを増やすと、その分減価償却費などのコストは増える。それでもインプットよりもアウトプットの方がより高まる効果が得られて結果的に生産性は上昇する。相対的にアウトプットが大きく高まるので、従業員の1人当たり人件費(賃金水準)も、中小企業よりも大企業の方が高まっている。

中小企業と大企業の生産性
(画像=第一生命経済研究所)

 では、なぜ設備資本ストックを増やすとアウトプットがより高まるのだろうか。経営指標を調べると、大企業ほど付加価値率(付加価値額/売上)は低下している(図表4)。総資本回転率(総資産/売上)も低下してくる。一見すると、効率は大企業ほど低下しているように直感するが、そうではない。設備資本ストックの総量が増えて売上を大きく増やせるようになって、限界利益(売上-売上原価≒付加価値)を量的拡大しやすくなる。付加価値率が下がるのは、原材料の投入量を大量に増やしたためである。付加価値が減っているのではなく、売上と売上原価が増える作用が、分子の付加価値を見かけ上低下させる。つまり、量で稼ぐことができるのが大企業の強みと言える。

 回転率が低下するのは、資本投入量を増やすと確かに売上は増えるのだが、段々と売上増の伸びが衰えていくからだろう。

 生産性を高めるためには、設備資本ストックを増やすことで、売上拡大の余地を探ることが方法になる。しかし、多くの企業は、可能な限り設備資本ストックをすでに増やし切っていて、売上拡大の余地はなくなっているということなのだろう。この状態は、需要が飽和しているという表現もできる。

 経済学流に言えば、これ以上の資本投入で生産性が高められないので、新しい技術を使って需要開拓を行って、別の種類の資本投入により生産性を高めることが活路となる。全要素生産性を上昇させる方法を探るということだ。

時系列でみた生産性の違い

 資本金別にみた企業の生産性の推移は、大企業も中小企業もリーマンショック後はそれなりに回復している(図表5)。資本金1千万円未満では、2009 年のボトムから18.8%も生産性がリバウンドした。資本金10 億円以上は2008 年のボトムから40.2%の上昇である。

中小企業と大企業の生産性
(画像=第一生命経済研究所)

 細かくみると、2000~2007 年までのリーマンショック前は大企業の生産性は上昇を続けていた。一方、この期間は資本金1千万円未満、1~5千万円未満などの中小企業はじりじりと生産性を低下させている。リーマンショック前は大企業は中国など新興国の成長の恩恵が追い風となり、中小企業は国内のデフレの打撃が大きかった。このことが人々のイメージを「中小企業は弱い」というものにしたのだろう。現在、中小企業の生産性は、2000 年頃のピークにまで回復している。リーマンショック後は、外需の追い風が以前ほどは強くないのだが、中小企業は、企業間取引のデフレが一服して正常化の恩恵を受けている。マクロ経済でみて、労働市場が逼迫するのは、リーマンショック以降、中小企業が雇用拡大を再開してきたからである。

中小企業の生産性上昇

 中小企業であっても、売上増が見込める市場を探し出して、設備資本ストックを増強することで高い生産性を上げることはできる。この10 年間は、デフレ作用が後退しているので、中小企業にもチャンスが広がっている。制約条件は、人手不足によって中小企業が成長しようとするときに、人員確保が難しい点だろう。その点を勘案すると、人手の代わりに新しい技術を活用した省力化投資も鍵になってくる。

 中小企業の生産性上昇について考えていると、日本銀行のさくらレポートの別冊で「非製造業を中心とした労働生産性向上に向けた取り組み」という事例集が発表されていた(2017 年12 月1日)。それを参考にして、中小企業の生産性上昇の課題と実例に基づく応用を考えてみたい。

 まず、投資による生産性上昇が解になるのだが、その実現が難しいという声は根強い。例えば、「資金やノウハウが不足している」とか、「投資負担が大きい割に効果が不透明」という声である。これは、中小企業が有する人的リソースの制約、リスクテイク能力の限界、資金力の不足という問題点である。こうした制約は常になくなることはないが、最近の変化点としてAIやシステムを活用した企業のサポート・ビジネスが以前よりも格段に普及していることが挙げられる。しかも、ノウハウ自体にアクセスするコストが格安になり、中小企業の経営者が強い意欲をもって挑戦すればかなりのことができるようになっている。

 さくらレポートで紹介された事例のいくつかを紹介してみよう。

・ 飲食:自動釣銭機を導入し、会計の時間短縮と釣銭ミスを削減。
・ 卸売:FAX受注をメールEDIの受注に切り替え、システム内で倉庫への出荷指示まで行う。
・ 卸売:無人搬送車を導入。
・ 小売:セミセルフレジの導入により会計作業時間は4割削減。
・ 小売:顔認証技術を使い、来店客の顔をロボットがみて、受付事務をシステムが代行できるようにした。
・ 不動産:モデルルームを建設する代わりにVRによって完成後のマンションのイメージを体感できるシステムをつくった。
・ 農業:野菜の水耕栽培で、画像データから自動で水やりや収穫のタイミングをAIが判断して伝えてくれる。
・ 運輸:AIを使って30 分後にタクシー需要が見込まれる地域を予測して、タクシーの稼働率を向上させた。
・ 建設:リフォームの見積りで、顧客の希望の間取りや予算を入力することで、回答を5分で出せるシステムを導入した。
・ 金融:業務の中で、入力・転記の定型作業をRPA(ロボテック・プロセス・オートメーション)を使って自働化することを検討中。

 こうした事例集を一覧すると、AIやロボットを使った省力化は一つの流行になりつつあると感じる。これは、単なる人的作業の置き換えではなく、顧客に対するサービス向上につながる点で、企業のアウトプットを増やすチャンスを秘めていると考えられる。大企業にはノウハウがあって、中小企業にはそれが不足していると感じられるのは錯覚だろう。なぜならば、AIなどの新技術は誰にとっても知見が乏しいものであり、かつそれを活用しようとすれば多くの場合、サポート・ビジネスに接触するしかない。筆者の経験では、地方であっても、ノウハウと興味を持ったビジネスマンは意外に多く、上手くニーズと技術の提供者がマッチングすれば、中小企業であってもそれなりの生産性上昇ができそうだと思える。大企業と中小企業の本質的な格差は、技術のパラダイムが劇的に変化しようとする中で、あまり大きくなくなっているのだろう。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 経済調査部
担当 熊野英生