2018年度中に四半期データ公表へ。生産側・分配側GDPの開発も

●GDPの精度向上・情報提供拡充の取組みとして、①家計の可処分所得、貯蓄率の四半期速報段階での公表、②生産面、分配面からみた四半期GDP速報の開発、が行われている。

●四半期ごとに公表されるGDP速報では、雇用者報酬の額は公表されるものの、家計可処分所得の額は公表されていない。社会保険料負担の増加や年金生活者比率の高まり等を背景に、雇用者報酬だけで消費動向の分析を行うことは難しくなっており、家計可処分所得の早期公表が求められていた。現在開発が進んでおり、2018年度中の参考値としての公表が計画されている。

●我が国では支出面からみたGDPが中心となっており、四半期別GDP速報でも、基本的に支出側GDPのみの公表となっている。これに加え、生産側、分配側GDPを四半期で作成しようという動きがある。現状ではまだ課題が残っているようだが、2018年度中に取扱いの結論を得るとされている。

●これらの取組みは、GDPの精度向上、情報提供拡充の点で高く評価できる。今後検討を進め、できるだけ早期に公表されることを期待する。

 11月17日発行のEconomic Trends「GDP推計方法の見直しで、家計調査の影響度合いが低下」では、GDP速報の推計において、需要側統計と供給側統計の統合比率を見直す結果、家計調査による撹乱が小さくなる可能性があることを紹介した。本稿ではまた別の、GDPの精度向上・情報提供拡充の取組みとして、①家計の可処分所得、貯蓄率の四半期速報段階での公表、②生産面、分配面からみた四半期GDP速報の開発の二つを紹介したい。

家計の可処分所得、貯蓄率の四半期速報段階での公表

 四半期ごとに公表されるGDP速報では、雇用者報酬の額は公表されるものの、家計可処分所得の額は公表されていない。可処分所得を把握するには年次推計(かつての確報)公表のタイミングまで待つ必要があり、たとえば現時点では可処分所得は2016年1-3月期までしか公表されていない。2017年12月の年次推計値(2016年)により、17年1-3月期までの値が公表される予定だが、いずれにしても足元の可処分所得の動向は把握できない(家計調査において可処分所得は月次で公表されているが、サンプル要因等による振れが大きく、実用性に難がある)。

 雇用者報酬以外にも家計部門が受け取る収入はあり、公的年金や失業給付、預貯金から得られる利息収入や株式からの配当金などがそれに当たる。一方、家計が支払うものとして、税金や社会保険料、住宅ローンの利息支払いなどがある。これらの、家計部門が受け取る収入全体から、税金や社会保険料等の支払い分を差し引いて、最終的に手元に残った金額が可処分所得である。高齢化の影響で年金生活者の比率が高まるなか、単に雇用者報酬を見ているだけでは、消費を取り巻く環境を見誤る可能性があるだろう。

 実際、雇用者報酬が伸びているのになぜ消費が増えないのかという問いに対して、税・社会保険料負担の増加や年金受け取りの伸び悩みが影響しているという意見は多い。ただ、そういった仮説は立てられても、実際の可処分所得のデータが出ていないので分析にも限界があったわけだ。また、可処分所得がないと、貯蓄率が計算できないことも問題となっている。

 家計可処分所得や貯蓄率という重要データが足元まで公表されないことは問題だという意見は以前から多く、ユーザーからも度々公表早期化の要望が出されていた。こうした指摘に応え、現在内閣府では、GDPの四半期速報における家計可処分所得の参考値としての公表を目指して開発が行われている。

 試算結果が下記のグラフである。試算値が作成されているのは16年2Qまで、かつ旧基準の暫定的なものだが、雇用者報酬に比べて可処分所得が伸び悩んでいる状況が伺える。可処分所得をみれば、雇用者報酬が増えているから消費もそれに伴って増えるという単純なものではないことがわかる。

 計画では、この家計可処分所得のデータは2018年度中に参考値として公表されることになっており、それに向けて開発が行われている模様だ。当初は参考値としての扱いになるが、長年要望されてきた可処分所得データの公表が実現する見込みが立ったことは大きな前進といえるだろう。

家計可処分所得の早期公表に向けて
(画像=第一生命経済研究所)

生産面、分配面からみた四半期GDP速報の開発

 三面等価の原則とは、GDPを支出面から見ても生産面から見ても分配面から見ても、すべて同じ値になるというものである。実際には、使用する基礎統計が異なることや推計方法の違いなどから、どうしてもズレが生じるのだが、GDPを多面的に把握することは重要だろう。主要先進国の多くでも、生産面、分配面からのGDPが公表されている。また、日本銀行が昨年7月に、税務データ等を用いて分配側からGDPを試算し、話題になったことは記憶に新しい。

 我が国では支出面からみたGDPが中心となっている。四半期別GDP速報(QE)でも、基本的に支出側GDPのみの公表(支出側以外では、雇用者報酬が別途公表されているが、これは分配側GDPの一部に過ぎない)となっており、生産面、分配面からみたGDPの公表は、年次推計の段階まで待つ必要がある。この生産面、分配面からみた四半期GDP速報を開発しようという動きが進んでいる。

 内閣府による暫定試算値を示したものが次項のグラフである。まず生産側GDPについては、多少の乖離はあるものの、比較的支出側GDPと近い動きをしていることが分かる。むしろ生産側の方が、支出側よりも四半期の振れが小さくなっており、景気の基調を把握しやすいようにも見える。一方、分配側については支出側と乖離することが多く、四半期の振れも比較的大きい。分配側については、営業余剰の基礎統計である法人企業統計の振れが大きいことが影響しているのかもしれない。

 内閣府は今後、法人企業統計における継続標本のみを用いた計数などの利用可能性などについて検討を行っていくとのことである(営業余剰以外に、混合所得(個人企業の所得)についても、基礎統計の選択も含めて検討が必要のようだ)。法人企業統計では、資本金5億円以上の企業は全数調査、5億円未満の企業については毎年4-6月期に半数が入れ替わるのだが、このときにサンプル替えによる断層が生じることがある。サンプル替えのあった企業を除き、前年同期と当期の両方でサンプルとなった企業(継続標本)における結果を用いることで、こうした振れが軽減することが期待されている。また、生産側については、季節調整における異常値処理等が課題として残っているようだ。

家計可処分所得の早期公表に向けて
(画像=第一生命経済研究所)

早期の公表を期待

 この生産面、分配面からみた四半期GDP速報については、「取扱いについて2018年度中に結論を得る」とされている。参考値として公表されるにしても2019年度以降ということだろうし、実はまだ公表されるかどうかも正式には決まっていない(営業余剰以外に、混合所得(個人企業の所得)についても、基礎統計の選択も含めて検討が必要のようだ)。公表に値するだけの精度が確保できるかという問題のほかにも、支出側GDPとの乖離が生じた際のユーザーの混乱が懸念されているようだ。

 たとえば支出側GDPがプラス成長の一方で生産側、分配側がマイナス成長と、符号が異なった場合や、3つそれぞれの数字に大きな乖離がみられた場合などに、ユーザーが混乱する可能性があるかもしれない。その意味において、統計メーカーとユーザーのコミニュケーションの強化は必須だろう。支出側、生産側、分配側それぞれがどういった推計方法で作成されているのかについての解説や、それぞれの系列が持つクセ、動きの違いをもたらした原因などについての丁寧な説明が必要になってくる。

 そもそも基礎統計や推計手法が異なるのだから、出てくる数字に乖離が生じるのは当然のことである。こうした丁寧な説明が実施されていけば、いずれユーザー側の理解も進み、混乱は避けられると思われる。実際、四半期で生産側、分配側GDPを公表している諸外国でも特に大きな問題は起こっていないようだ。

 生産側、分配側からもGDPが把握できるようになることの意義は大きい。単に支出側から見るのではなく、多面的にGDPを把握することは、景気の現状判断を的確に行う上での大きな助けになるだろう。また、作成した結果をそれぞれ比較・照合することで、GDP推計手法の見直し・改善に繋げて行くことも可能になる。

 このように、生産側、分配側の四半期GDP速報が公表されれば、GDPの精度向上、情報提供拡充の面で大きな一歩となるだろう。できるだけ早期の公表となることを期待している。(提供:第一生命経済研究所

参考文献
・高田悠矢、竹内維斗文、吉岡徹哉(2014)「分配側GDP・家計所得支出勘定における四半期速報の検討状況について」内閣府経済社会総合研究所・季刊国民経済計算155号
・統計委員会・国民経済計算体系的整備部会資料
・吉沢裕典、小林裕子、野木森稔(2014)「日本における生産側四半期GDP速報の開発に向けて ─英国・米国における推計の検証と導入に向けた検討」内閣府経済社会総合研究所・季刊国民経済計算155号

第一生命経済研究所 経済調査部
主席エコノミスト 新家 義貴