●17年12月8日に公表される7-9月期GDPの2次速報から、GDP速報(QE)の推計方法が一部改定される。具体的には、個人消費と設備投資の推計において、需要側推計値と供給側推計値を合成する際の比率が見直される。この結果、家計調査を中心とする需要側推計値の動きがGDP個人消費に反映される度合いが低下することになる。
●これまで家計調査のサンプル要因によってGDPが撹乱されることがあったが、今後は家計調査要因による奇妙な振れが生じる頻度は低下する可能性がある。
QE推計において、家計調査の重要度が低下
「家計調査がサンプル要因により実態よりも高く(低く)出過ぎているため、GDPの個人消費が撹乱されている」といったエコノミストのコメントを目にすることは多いだろう。実際、私もよく使う表現だ。だが今後、こうしたコメントを見る機会が少し減るかもしれない。GDP速報(QE)の推計方法が一部改定される結果、GDPの個人消費に対する家計調査の影響力が、今後低下するためだ。この改定は、17年12月8日に公表される7-9月期GDPの2次速報から適用される予定となっている。
家計調査の影響力低下で、GDP個人消費の撹乱が減るかも
ここで一度、QE推計の方法を簡単におさらいしておこう。速報段階のGDPのうち、個人消費と設備投資については、需要側の統計と供給側の統計を合成することで作成されている。個人消費の場合、需要側の統計としては家計調査と家計消費状況調査が主に使われており、供給側の統計としては、生産動態統計や鉱工業指数のほか、サービス産業動向調査や各種サービス関連統計などが用いられている。個人消費に関連する財の出荷や販売が増えていたり、消費関連サービスの売上が増えていれば、個人消費も増えているとみなすわけだ。
家計調査等の需要側統計にはサンプルの少なさからもたらされる月々の振れという欠点があるし、供給側統計には、法人需要が紛れ込んでいる点や、統計がバラバラで一つの統計だけでは消費が把握できず、複雑な加工を行う必要があるという欠点がある。そこでGDP統計では、需要側統計から作成した個人消費と供給側統計から作成した個人消費を合成することで、それぞれの欠点をカバーすることを狙っている。なお、この需要側と供給側統計を合成して作成する部分は「並行推計項目」と呼ばれている。
また、それ以外に、自動車購入費や住宅賃貸料、医療・介護サービス、金融・保険などの項目については別途推計されており、この部分のことを「共通推計項目」と呼んでいる。最終的な個人消費は、この並行推計項目と共通推計項目を合計することで求められる(厳密には、これに授業料などの「財貨・サービスの販売」も加えるが、無視しても差し支えないだろう)。
今回見直されるのは、並行推計項目を求める際の、需要側推計値と供給側推計値を合成するための比率(統合比率)である。2002年にQEの推計方法が大きく変わり、「需要側と供給側を統合」という現行の仕組みが導入されたのだが、統合比率については、2002年当時に決めた比率が現在までそのまま用いられてきた。経済構造の変化や経済統計を取り巻く環境の変化等を踏まえ、今回この比率を改めて見直すことになったということである。
この結果、個人消費の場合、これまでは需要側が0.53、供給側が0.47と、ほぼ1対1の割合で合成されていたものが、これからは需要側が0.31、供給側が0.69に変更されることになった。また、設備投資の場合、これまでは需要側が0.58、供給側が0.42だったものが、これからは需要側が0.49、供給側が0.51に変更される。特に個人消費において、並行推計項目における需要側推計値の影響力が5割から3割と、かなり低下することになる。
ちなみにQEの個人消費推計に占める割合でみると、需要側と供給側を合成して推計される並行推計項目が概ね5割台前半、共通推計項目が4割台後半である(今回の統合比率の変更が影響を与えるのは並行推計項目のみである。よく「個人消費は需要側統計と供給側統計を足して2で割って作成される」といわれることがあるが、共通推計項目も相当大きいため、この表現は適当ではない)。そのため、これまでは需要側統計が影響する度合いが、並行推計項目のウェイト(50~55%)×統合比率(0.53)=25%~30%程度だったものが、今後は、並行推計項目のウェイト(50~55%)×統合比率(0.31)=15%~20%程度になる。要は、家計調査や家計消費状況調査を中心とした需要側推計値の位置づけが、QEの個人消費推計において10%程度低下するということである。
家計調査の極端な振れについては多くのエコノミストが悩まされており、家計調査の精度の問題や、そのことがGDPの個人消費にまで影響することに多くの批判が集まっていた。今回の統合比率の見直しで、需要側統計の比率が低下するという結果が出たことに違和感はない(今回の見直しでもまだ需要側のウェイトが大き過ぎる、いっそのこと供給側統計のみで推計した方が良いという意見もあるかもしれないが、供給側推計は供給側推計で色々問題はある。特に、配分比率が固定されているのは仮定として強い。将来的には供給側中心に移行すべきと考えるが、現時点での供給側統計への一本化は難しいように思える)。需要側統計のGDPへの反映度合いが小さくなることは、歓迎すべき改定だろう。依然として家計調査もQE推計に利用はされるが、利用割合が個人消費全体の15%~20%ということであれば、許容範囲のように思える。これまでと比べると、今後は家計調査要因による奇妙な振れが生じる頻度は低下するのではないだろうか。
なお、この改定は17年12月8日に公表される7-9月期GDPの2次速報から実施されるのだが、その際、この統合比率変更の影響で、過去に遡ってリバイスがかかることになる。たとえば、16年の10-12月期は家計調査が他統計に比べて大幅に下振れ、逆に17年1-3月期は反動で上振れするといったことがあり、GDPにも影響が出た。遡及改定により、個人消費におけるこうした四半期の振れが多少マイルドになる可能性があることに注意しておきたい。(提供:第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 新家 義貴