衆議院選挙は、結局、与党が引き続き、全体の3分の2以上(310 議席以上)を確保する大勝となった。希望の党は伸び悩み、立憲民主党は躍進した。野党が大勢を味方にできなかった理由は、経済政策の安定感が与党に比べてなかったからだろう。例えば、内部留保課税とは、いくら何でも多数の支持は得られない。今後の焦点は、安倍政権が経済活性化を最優先課題とするかである。
首相不支持でも自民党
10 月22 日に投票が行われた衆議院選挙は、自民党が公示前とほぼ同じ程度の議席数を確保して、与党が3分の2以上を得る大勝に終わった。安倍首相が突然解散宣言をして、野党は小池百合子氏を代表に立てた希望の党を立ち上げてこれに応じたが、結局は安倍自民党の優位を崩せなかった。野党は、台風の目の希望の党よりも、そちらに移れなかった議員たちが中心となった立憲民主党の方が第一党となった。この再編劇が成功しなかったことで、安倍首相の率いる与党の安定感を再認識させた。首相自身の不支持率が高まっても、選挙を行えば自民党が勝つことを首相が知って、首相は以前より自信を強めたことだろう。今後、安倍首相は、このパワーを使って憲法改正を最優先に置いた政策に進むのか、もしくは経済活性化を再加速させるのかが注目される。
政策の安定感が好まれる
各党の公約がある程度選挙結果に反映したと考えるのならば、希望の党が敗北した原因は、経済政策に安定感がなかったことだろう。なぜ、2019 年10 月の消費税の引き上げは、ダメなのか。まだ、2年も先であるのに、経済が不安定だと言う。どうして、経済を強くすると宣言できなかったのか。何よりも、財源として内部留保課税を掲げたのは実務的発想の未熟さを露呈した。
自民党も、2019 年10 月の増税分の中から教育などの無償化に充てるとした点で、真剣に財政再建を考えていないのではないかと心配させた。それでも、希望の党よりは十分に安定していると有権者はみたのだろう。恐ろしいのは、野党がすべて消費税の増税反対でまとまったことを、安倍首相がじっと眺めていて、民意は2019 年10 月の増税を嫌っていると感じた可能性があることだ。首相自身は2019 年10 月の増税は「法律に書いてある」と話すが、この増税の判断を別にまた行うという見方もある。安倍首相は、選挙前に「リーマンショック級の大きな影響、経済的な緊縮状況が起これば判断しなければいけない」と増税判断に条件をつけた。また、前回の消費税延期の時はリーマンショック級の不況が来る予感がすると述べていたことも思い出される。2019 年10月の増税を中止して、無償化だけを決行するというシナリオは、以前よりも可能性を高めたと考えられる。政治勢力の中に誰も財政再建の優先順位を上に置こうという者がいなくなれば、日本の財政は歯止めを失ってしまう。この点は選挙後の最大のリスクであろう。
株価上昇は続くのか
選挙期間中に、与党有利の観測が強まると、日経平均株価は上昇した。記録的な前日比上昇の連続は、選挙要因だけでなく、ダウ上昇の追い風を受けている。また、株価の推移でみると、7月初の東京都議会選挙で自民党が劣勢になると、株価下落と安倍政権の不安定化がシンクロし始めた。今回は、その巻き戻しとみることもできる。注目は、安倍首相の力が強まると先読みして起こった株価上昇が、選挙後も長続きするかどうかにかかっている。マーケットが期待するスピード感と、安倍政権が経済分野で具体的な行動を示すまでのスピードにはかなり差があるような気がする。目先、米国でトランプ政権が新しいFRB議長を選ぶことが株式市場の材料になりそうである。現在の日経平均株価は、ドル円レートとの連動性がなくなったように見えるが、視点を変えると、為替水準に比べて株価が上昇しすぎているとみることもできる。
筆者は、安倍政権の経済活性化の優先度合いによって、イメージ先行で上昇してきた日経平均株価がさらに上昇するかどうかが試されているとみている。
今後の展開
メディアの性格として、選挙のときは過剰に政治のニュースをクローズアップする。このことは、裏返しにみれば、選挙期間中は北朝鮮リスクやトランプ政権の迷走が大きく取り上げられなかっただけで、選挙後は以前と同じように問題視されるだろう。つまり、安倍政権に有利になったという情報は、海外のリスク要因によって減殺されるだろう。
もうひとつ、あまり重視されていないが、長雨のような天候不順が今年はあまりにひどい。選挙の投票日も台風と重なった。すでに7 月から悪天候は個人消費の重石になっていて、それが10 月一杯まで続きそうだ。10 月初の日銀短観では、個人消費への悪影響は限定的だったが、それが長引いていることは悪影響の広がりを感じさせる。この点も、選挙後に多くの人が気付くことだろう。
最後に繰り返すと、これから安倍政権がどのくらい経済活性化を優先しようとするかが、景気の持続的拡大とマーケットの好感継続の焦点になる。安倍政権は、7月初の東京都議会選挙で不利な情勢となり、一時は支持率低下に苦しんだ。今回の衆議院選挙はそうした悪材料を一旦リセットすることになるだろう。
気になるのは、選挙前は教育などの無償化が前面に出て、本当にビジネスマンたちが望んでいる経済政策が実質的に後退したことだ。働き方改革、人づくり革命ばかりが強調されることは、段々と経済活性化から離れていることを印象づけるものだ。
2018 年度予算編成が視野に入って、社会政策を手厚くする構えがみて取れる。規制緩和を主軸とした成長戦略は、少し昔話のようになっているのは残念である。(提供:第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所 経済調査部 担当 熊野英生