要旨

●22日の衆議院選挙では与党が全議席の3分の2を上回る議席を獲得し勝利。財政政策についてもこれまでの政府方針が継続することが見込まれる。年末にかけての予算編成に関しては、2017年度補正予算は小規模に、18年度予算も従来の「歳出抑制の目安」が維持される見込みであり、結果として財政拡張色は薄くなるだろう。

●従来の財政再建目標、基礎的財政収支の黒字化目標時期は2020年度から先送りへ。安倍政権は従来通り財政再建を急がずゆっくりと進める方針を継続する見込みである。来年度には2015年度に決定した財政再建計画の中間検証が行われ、新たな財政再建計画の方向性が決まる。「歳出抑制の目安」の厳格化などが俎上に載るとみられ、歳出抑制のタガが強まるかどうかが焦点である。

今後の財政運営のポイントを整理

 22日の衆議院選挙において、与党が全議席の3分の2を上回る議席を獲得、安倍政権の継続が決定的となった。今後の財政政策の行方について、ポイントをまとめる。基本的にはこれまで政府が示してきた路線が継続することとなろう。

①2017年度補正予算(年末にかけて)

 年末にかけて、2017年度補正予算の編成が決定される見込みである。内容としては、政府の掲げてきた「人づくり革命」の推進や日欧EPA対策などが盛り込まれるとみられる。ただ、その規模は小規模に収まる公算が大きい。最大の理由は財源の問題(弊著Economic Trends「2017年度補正予算の行方を考える」(2017.7.6))。過去の補正予算編成の際に財源として利用してきた税収の上振れについて、今年度は多くを見込みにくい状況にある。それゆえに、まとまった額での補正予算編成には追加の国債発行が必要になるが、今般の選挙で自民党は財政再建との両立を公約に掲げており、大規模補正予算の編成はそれに相反する。足もとの景気の足取りが力強いことも、追加の補正予算編成不要論につながりやすい。2016年度は経済対策実施のために追加歳出4兆円の補正予算が編成されたが、この数値ははっきり下回ることになるとみられる。

衆院選後の財政政策を考える
(画像=第一生命経済研究所)

②2018年度当初予算(年末にかけて)

 従来の緩やかな歳出抑制が続けられる見込みだ。9月25日開催の経済財政諮問会議において加藤厚生労働大臣から、現在の財政健全化計画に掲げられている歳出目安(一般歳出の伸びを3年間で1.5兆円[0.5兆円/年]とする方針)に取り組む姿勢が明確に示されており、これが遵守される見通しだ。予算編成を前に各省庁の予算要求を集計する概算要求においても、その方針は既に確認されている。

 なお、2019年10月の消費税率10%への引き上げとともに実施される予定の幼児教育無償化の開始時期については「2019年度から5歳児、2020年度から3~5歳児の無償化を行っていく」と、安倍首相が明言している。仮に18年度から開始となれば、消費税率引き上げまでの間にタイムラグが生じ、消費税率引き上げまでの財源欠損期間に「つなぎ国債」を追加で発行する可能性も考えられたが、それは避けられそうだ。

 また、注目されるのは今年度に実施される医療・介護報酬の改定の行方。医療費については、薬価改定などに伴う調剤医療費の減を主因に2016年度の概算医療費が14年ぶりに減少している。引き続き薬価は歳出抑制の対象になりやすいだろう。一方、介護報酬に関しては、同様に人手不足が問題となっている保育関連の給与を引き上げる方向にある中で、介護報酬を引き下げることにはなりにくいだろう。近年は、これまで育児休業給付よりも低かった介護休業給付の支給率を育休と同等に引き上げる改正が実施されるなど、保育と介護の平仄をとるような制度改正が実施されている。介護報酬の増加に対し、その他の経費を抑える形で歳出抑制の目安を遵守するような予算編成が行われると考えている。

 総じて補正予算は小規模に抑制、当初予算も歳出の伸びを抑えることが主軸になるとみられる。結果として、年末にかけての予算編成における財政拡張色は薄くなるだろう。

③政府の財政中長期試算と財政目標(来年1月~2月ごろ)

 今回の消費税率引き上げ分の使途変更によって、従来財政赤字の縮減に充てられる予定だった2兆円程度/年が歳出増に回ることになる。政府が7月に公表した最新の財政試算ではこの点は織り込まれていないため、この2兆円がほぼそのまま将来の財政収支の赤字拡大要因となるだろう。現在、政府試算(経済再生ケース)においては2025年の基礎的財政収支の黒字化が見込まれているが、これが1~2年程度遅れる要因となる。

 次回、来年1~2月に公表される新試算が一つの注目点となるが、報道等によればこの試算の前提自体(例えば、歳出抑制の実施を織り込む(現在の試算では長期の歳出を消費者物価の伸び率に合わせており、歳出抑制を考慮していない(社会保障は高齢化要因も考慮)))を見直す議論もあるようで、新試算における財政収支の着地点は見通しにくい状況だ。ただいずれにせよ、これまで2020年度に据えていた基礎的財政収支の黒字化時期の目標時期については後ズレ、現実的な財政目標への修正が行われることになるだろう。

○来年度の新・財政再建計画の焦点は「歳出目安の厳格化」

 基本的に今後の安倍政権下での財政政策は、従来通り当初予算における歳出の伸び抑制を続ける形で、ゆっくりと財政再建を進めるスタンスが続けられるだろう。また、2018年度は2015年度に策定した財政再建計画の中間検証の時期にあたり、新たな財政再建目標に関する議論が今後活発化する見込みだ。

 筆者が注目しているのは歳出目安-1年当たり5,000億円の伸びに抑える方針の2019年度以降の扱いである。9月25日の経済財政諮問会議議事録によれば、民間議員から社会保障関係費抑制の目安を2,000~3,000億円に抑えられるのではないか、と具体的数値を含めて問題提起が発せされている。実際に、団塊世代の高齢化影響一巡などにより、社会保障給付費の伸びそのものが鈍化する傾向(弊著Economic Trends「思ったより増えなかった社会保障給付費」(2017.8.18))にあり、「歳出の伸びを5,000億円に抑える」目標自体のハードルが下がっていく可能性が考えられる。この点は、歳出上限をより引き下げることが可能、との議論に繋がりうるだろう。歳出抑制のタガが強まるのかどうかの重要な分岐点であり、今後の議論に注目しておきたい。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 経済調査部
担当 副主任エコノミスト 星野 卓也