シンカー:貿易紛争などの先行き不透明感がまだ強く、目先は生産者が在庫管理を緩めることを妨げるとみられる。鉱工業生産指数は1-3月期の前期比-1.3%の8四半期ぶりの低下の後、4-6月期には同+1.3%とリバウンドしたが、貿易紛争と自然災害の影響もあり7-9月期は若干の低下となり、しっかりとした持ち直しは10-12月期となろう。米国と中国ともに、政権基盤が弱体化する景気の底割れを覚悟してでも、貿易関連の対立を深め、相手国より利益を引き出そうとまでは考えていないとみられる。貿易紛争が燻り続けるながらも更に悪化はしなければ、堅調な内外需を背景に、生産の増加トレンドは徐々にしっかりしてくるとみている。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

8月の鉱工業生産指数は前月比+0.7%となった。

誤差調整後の経済産業省予測指数の同+1.2%を若干下回った。

鉱工業生産指数は5-7月に前月比-0.2%・-1.8%・-0.2%と3ヶ月連続で低下していた。

4月までの生産増加の牽引役であったIT関連財、電気機械、輸送機械などの在庫調整の動きが、生産の増勢を抑えていたようだ。

6-8月の3ヶ月で実質輸出は3ヶ月前比-0.7%と停滞気味で、貿易紛争が企業活動の心理的な重しとなっているようだ。

更に、6月は大阪北部地震、7月は西日本豪雨の影響などにより、物流が滞り、生産が先送りされたとみられる。

8月には、猛暑対策の需要拡大もあり、生産の大きなリバウンドが見込まれたが、二つの台風が上陸するなど自然災害の影響が続き、生産は引き続き抑制され、5-7月の落ち込みからのリバウンドは弱かった。

一方、4-6月期には在庫指数は前期比-1.9%と3四半期ぶりに低下し、7・8月も前月比-0.2%・-0.4%低下をし、在庫調整は順調に進捗しているとみられる。

IoT・AI・ロボティクス・ビッグデータなどの産業変化もあり、データセンターや車載向けの部品などの需要は増加を続けているとみられる。

雇用市場の改善と財政政策を背景として米国の需要は堅調で、グローバルに企業の設備投資モメンタムは強くなってきているようだ。

日本でも、設備投資の実質GDPに対する割合がなかなか打ち破ることのできなかった16%の天井を2007年3月期以来はじめて上回り、設備投資サイクルの明確な上振れが確認できている。

日本が比較優位を持つ資本財の生産には追い風が吹いているようだ。

8月の資本財(除く輸送機械)出荷は前月比+4.7%と強かった

競争力の改善と米中の貿易紛争を反映して世界貿易に対する日本のシェアも上昇しているとみられ、生産拠点の国内回帰の動きもある。

国内でも、需給の大幅な改善や賃金上昇に対して伸び悩む物価による実質所得の拡大を背景とした消費の増加が、引き続き強くなっていくとみられる。

8月の耐久消費財出荷は猛暑の影響もあり、前月比+7.0%と強かった

安倍首相が自民党総裁選で勝利し、2021年までの新たな任期を得たことで、2025年度のプライマリバランスの黒字化目標に抑制されず、デフレ完全脱却を目指し財政政策を拡大するとみられることも、内需の拡大と生産の後押しとなるだろう。

しかし、貿易紛争などの先行き不透明感がまだ強く、目先は生産者が在庫管理を緩めることを妨げるとみられる。

更に、9月には北海道での地震などの影響もあり、サプライチェーンが一部で寸断され、生産の増加はしばらくは強くはならないだろう。

経済産業省の予測指数は9月の+0.5%から+2.7%へ上方修正され、災害からの復旧もあり10月には同+1.7%へのリバウンドがみられる。

7・8月の実質輸出は前月比+0.3%・+2.1%と持ち直しの動きがみられる。

鉱工業生産指数は1-3月期の前期比-1.3%の8四半期ぶりの低下の後、4-6月期には同+1.3%とリバウンドしたが、貿易紛争と自然災害の影響もあり7-9月期は若干の低下となり、しっかりとした持ち直しは10-12月期となろう。

米国と中国ともに、政権基盤が弱体化する景気の底割れを覚悟してでも、貿易関連の対立を深め、相手国より利益を引き出そうとまでは考えていないとみられる。

貿易紛争が燻り続けるながらも更に悪化はしなければ、堅調な内外需を背景に、生産の増加トレンドは徐々にしっかりしてくるとみている。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司