要旨
● 政府は自然災害の復旧作業に対応すべく、10月26日に開会予定である臨時国会までに経済対策をまとめるとされている。特に経済対策の規模については、西日本豪雨や台風21号、北海道地震の復旧・復興に対して、大型の補正予算が組まれることが予想される。
● 直近の2017年のGDPギャップ率は、内閣府の推計によれば+0.4%とプラスに転じているが、より各国のインフレ率と関係が深いIMFのGDPギャップ率を見ると、2018年の日本の見通しは依然として▲0.2%のデフレギャップが残存している。IMFのGDPギャップを解消するのに必要な規模の経済対策を前提とすれば、1.2兆円程度の追加の経済対策規模になる。
● ただし、内閣府によれば、前回の熊本地震の被害額を2.4~4.6兆円と試算しており、発生年度に打ち出された補正予算の規模は5.5兆円となっている。被害総額が1.7~3.0兆円と試算された新潟中越地震でも補正予算の規模が4.8兆円にも上ったことからすると、すでに西日本豪雨への対応などで18年度予算から約1700億円の予備費を支出しているが、それに加えて5兆円を上回る規模の復興予算が予想される。
● メニューは、西日本豪雨対応以外にも、台風被害や北海道地震関連対応に加え、学校のブロック塀対策やエアコン設置等も含まれる可能性があるが、国土強靭化関連の歳出も加わる可能性が高い。実際、先般の自民党総裁選において、安倍首相は防災・減災の緊急対策を3年間で集中実施するとしていた。
● 建設技能労働者の過不足率は2014年度以降急速に不足率が縮小して以降は安定しているため、東日本大震災からアベノミクスの初期段階に比べれば、GDPの押し上げ効果は顕在化しやすい可能性がある。日銀の予想に基づけば2019年以降は五輪特需の反動減が懸念されるが、この反動減の部分を今年度補正予算における景気対策により緩和することが期待される。
臨時国会前に打ち出される観測の経済対策
各紙の報道によれば、政府は自然災害の復旧作業に対応すべく、10月26日に開会予定である臨時国会までに経済対策をまとめるとされている。
特に経済対策の規模については、西日本豪雨や台風21号、北海道地震の復旧・復興に対して、大型の補正予算が組まれることが予想される。
そこで以下では、まず経済対策の規模から予測してみよう。
経済対策の規模を設定する際に一般的に参考にされるのが、潜在GDPと実際の実質GDPのかい離を示すGDPギャップ率である。直近の2017年のGDPギャップ率は、内閣府の推計によれば+0.4%とプラスに転じている。
しかし、より各国のインフレ率と関係が深いIMFのGDPギャップ率を見ると、2018年の日本の見通しは依然として▲0.2%のデフレギャップが残存していることになる。従って、IMFのGDPギャップを解消するのに必要な規模の経済対策を前提とすれば、2017年の実質GDP531兆円の0.2%分となる1.2兆円程度の追加の経済対策規模になる。
ただし、6月以降に相次いで発生している地震や豪雨、台風によって、巨額な資本ストックの被害が発生していることが予想される。実際、内閣府によれば、前回の熊本地震の被害額を2.4~4.6兆円と試算しており、発生年度に打ち出された補正予算の規模は5.5兆円となっている。また、資本ストックの被害総額が1.7~3.0兆円と試算された新潟中越地震においても、発生年度に打ち出された補正予算の規模が4.8兆円にも上ったことからすると、すでに西日本豪雨への対応などで18年度予算から約1700億円の予備費を支出しているが、それに加えて5兆円を上回る規模の復興予算が予想される。
また、来年夏の参議院選挙を見据えた景気対策の意図から、災害の復旧・復興の費用に需要不足解消を加えることで、規模がさらに膨張する可能性も十分に考えられよう。
メニューは2016年度の補正予算が参考
一方、経済対策のメニューについては、豪雨や台風、地震といった天変地異が相次ぐ中、過去に大きな震災が起きた年度の補正予算が参考になろう。
具体的には、熊本地震が発生した2016年度において三回に分けて打ち出された補正予算が参考になろう。このメニューでは、第一次が熊本地震の復興予算、第二次が「未来への投資を実現するための経済対策」とされた。そして、第三次が税収下振れにあわせて追加の国債発行を実施することが主目的の補正であった。
特に、二次補正の経済対策では4つの柱が掲げられ、一つ目の柱が「一億層活躍社会の実現の加速」であり、保育・介護の受け皿整備、保育士・介護人材の処遇改善、給付型奨学金、年金受給資格期間の短縮、簡素な給付措置、等が挙げられていた。そして二つ目の柱が「21世紀型インフラの整備」であり、外国人観光客4000万人時代に向けたインフラ整備、農林水産物の輸出促進と農林水産業の競争力強化、リニア中央新幹線や整備新幹線等の整備加速、第四時産業革命(IoT、AI)、イノベーションの推進など生産性向上に向けた取り組みの加速、等が挙げられていた。三つ目の柱が「中小企業・小規模事業者及び地方の支援」であり、中小企業・小規模事業者向けの資金繰り支援、中小企業・小規模事業者の経営協力強化・生産性向上支援、地方創生の推進、等であった。最後の四つ目の柱が「熊本地震や東日本大震災からの復興や安全・安心、防災対応の強化」であり、熊本地震からの復旧・復興、東日本大震災からの復興の加速化、災害対応の強化・老朽化対応等となっていた。
そして、この対策に基づく予算措置により短期的に現れると考えられる実質GDP(需要)押し上げ効果を、おおむね1.3%程度と見込んでいた。
五輪特需の反動減を緩和か
既に、10月26日に開催予定となっている臨時国会冒頭において、西日本豪雨対応の補正を提出すると報道されている。具体的には、西日本豪雨対応以外にも、台風被害や北海道地震関連対応に加え、学校のブロック塀対策やエアコン設置等の歳出も含まれる可能性がある。
ただ、こうしたメニューだけでは事業規模は5兆円に届かないだろう。従って、実際に打ち出される補正予算については、災害対策に加えて国土強靭化関連の歳出が加わる可能性が高い。実際、先般の自民党総裁選において、安倍首相は防災・減災の緊急対策を3年間で集中実施するとしていたため、2次補正にはこれ関連するメニューが加わることが予想される。
なお、公共事業に関しては、建設業界の人手不足の深刻化により工事が予定通り進まないと懸念する向きもある。しかし、国土交通省の建設労働需給調査によれば、建設技能労働者の過不足率は2014年度以降急速に不足率が縮小して以降は安定している。従って、東日本大震災からアベノミクスの初期段階における補正予算に比べれば、GDPの押し上げ効果は顕在化しやすい可能性がある。日銀は、過去のオリンピック開催国のパターンを参考にすると、関連する建設投資は2017~2018 年頃にかけて大きく増加するとしており、この予想に基づけば、2019年以降はその反動減が懸念されるが、この反動減の部分を今年度補正予算における景気対策により緩和することが期待されよう。(提供:第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部 首席エコノミスト 永濱 利廣