要旨

●消費が回復してきたと思ったのも束の間、天候不順をきっかけに夏場の消費の行方に暗雲が立ち始めた。今般の消費回復は、所得ではなく、消費性向の高まりによるものだったが、株価上昇の恩恵を受けた高所得層と食料品価格上昇一服の効果を受けた低所得層で、マインドが改善し消費性向が高まった。

●ところが、8月の天候不順により、ナス、きゅうり、ピーマンなど、夏野菜の価格が高騰している。過去の関係からすれば、8月の実質消費は前年比で▲0.1%pt押し下げられそうだ。

●所得に回復感が乏しい中、こうした天候不順が一過性のものに留まらない場合、マインドや消費性向に悪影響を与え、再び消費は停滞することになる。今後の動向が注目される。

消費回復に暗雲

 回復の遅れていた消費が4-6月のGDPでは前期比+0.9%と高い伸びとなるなど、持ち直してきたと思ったのも束の間、天候不順をきっかけに夏場の消費の行方に暗雲が立ち始めている。そもそも、今般の消費回復は所得ではなく、消費性向の持ち直しによるものであり、ちょっとしたショックで再び落ち込む脆弱な基盤の上に成り立っている。

 消費性向の改善を所得階級別に見ると、最も所得の低い層と、所得の高い層が牽引役となって改善している(図表1)。背景には、低所得層では食料品価格上昇の一服が、高所得層では株価など資産価格の上昇があると考えられる。

天候不順で野菜がまた高騰
(画像=第一生命経済研究所)

 ところがここに来て、天候不順の影響で再び野菜価格が高騰し始めている。本稿では、足元までの野菜価格の動向を確認するとともに、それが消費に与える影響を考えてみたい。

天候不順で夏野菜価格が高騰

 猛暑予想が一転、雨が多く、気温の低い夏となった。それを受けて8月以降、夏野菜の価格が上昇し始めている。農林水産省が公表している青果物卸売市場調査(旬別、日別)によれば、7月までは安定していた野菜価格が、8月上旬に上昇、その後中旬に入っても上昇ペースは速まっている。

天候不順で野菜がまた高騰
(画像=第一生命経済研究所)

 具体的に見ると、きゅうり、ナス、ピーマンなど、夏野菜の価格が高騰している(図表2、3)。例えば、きゅうりは7 月の前年比▲24.6%から、8 月上旬は+9.3%に急上昇、8 月中旬についても上旬から50%以上も上昇している。上中旬のデータから推計すると8 月上中旬の平均きゅうり価格は前年比+50%を超える模様だ。同様に、ナスやピーマン、インゲンなどの夏野菜でこうした急上昇が見られる。東京都区部の7 月中旬速報からみれば、7 月の野菜価格は消費者物価前年比への押し下げ寄与が▲0.2%pt 程度と6 月(同▲0.1%pt)から拡大する見込みであるが、仮に足元の状況が8 月末まで続くとすれば、8 月は一転して同+0.2%程度の押し上げ寄与に転じる見込みである。

 こうした価格上昇は消費にも影響を与える。野菜価格と野菜への実質支出はかなり強い相関関係が見られ(図表4)、消費にも影響を与えるだろう。こうした、過去の関係を利用すると、足元の野菜価格の高騰が続けば、8 月の野菜への実質支出を前年比で▲3%pt 程度押し下げ、実質消費を▲0.1%pt 押し下げることになる。

 世帯で見れば、野菜の消費金額が多い高齢者での影響が特に大きくなると予想される。年金世帯では物価上昇率の停滞などを背景に年金支給額が削減されており、17 年度の年金支給額は前年比▲0.1%となった。所得の基盤である年金額が減少する中、必需品であり、消費額も大きい野菜価格の上昇は、高齢者世帯の生活を直撃することになるだろう。そもそも、年金額の引き下げや年金支給開始年齢の引き上げなどにより、年金世帯の消費マインドは給与所得世帯の消費マインドを下回っており、中でも暮らし向きに対するマインドの差が開いている(図表5)。高齢化が進む中、年金世帯が消費に与えるインパクトは大きくなっており、過去の関係以上に野菜価格高騰が実質消費やマインドを押し下げる可能性もある。

天候不順で野菜がまた高騰
(画像=第一生命経済研究所)

消費者マインドへの影響が懸念

 上述のような野菜への支出の減少に加えて、各種報道によれば、8月は特に東日本で天候不順を理由にレジャー支出や外食費用も減少した模様であり、総じて8月の消費は厳しい状況になった可能性が高い。ただし、8月の消費が悪化したとしても、それが天候不順である限りは、一時的なものであり、天候が戻れば消費も回復することになるため、過大な懸念は不要である。しかし、身近であり、生活必需品である野菜価格の上昇は、家計の体感物価上昇率を高めやすく、生活苦を意識させやすい。そもそも、足元の消費は所得の回復ではなく、消費者マインドの回復による消費性向の上昇によるものであり、磐石な基盤の上にあるものではない。所得の回復が明確な中では受容できる程度の野菜価格の上昇でも、所得の伸びが停滞する中ではマインドの悪化に繋がる可能性が高い。折りしも、これまで食料品価格の上昇一服とともに消費者マインドの回復を支えてきた株価の回復も、ここへ来て足取りが鈍い。

 先日のGDP発表後に公表された各シンクタンクの見通しでは、4-6月期の消費の前期比+0.9%という高い伸びには一時的要因もあるとしつつも、雇用所得環境や消費者マインドの改善を背景に消費は緩やかな回復基調を辿るとの見方が多く、7-9月期の消費は前期比+0.0%と高水準での横ばいが見込まれている。こうした見通し通り、7-9月期も消費が回復基調を辿ることが出来るのか、今後の野菜価格や消費者マインドの動向に注意が必要だ。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 経済調査部
担当 主任エコノミスト 柵山 順子