シンカー:FRBは今年、後1回の利上げに踏み切り、来年も利上げを続ける見通しのようだ。ECBも年内に緩和政策を終了させ、来年には利上げに踏み切る姿勢を示している。BoEはBrexitの影響が出始める前に金融政策の正常化を進めようとしている。一方で、PBoCは、引き続き、国内の金融規制の見直しが続く中、政策で景気減速を早めないよう慎重な姿勢を維持している。日銀も2%の物価安定目標を達成するために、緩和政策の長期化へ備え始めている。中央銀行関係はグローバルに財政拡大が続く中、貿易戦争の実体経済への悪影響やグローバルに景気サイクルが減速に転じる可能性は小さいと見ているようだ。マーケットも堅調なマクロファンダメンタルスを背景にリスクオンの動きが続いており、経済指標も景気拡大は当面は続く可能性を示している。ただ、マーケット参加者は貿易紛争による悪影響やグローバルな景気減速に対する警戒感も維持している。今後、各国中央銀行が見通しどおりに金融政策の引き締め・正常化を進められないとの見方が強まると、リスクオンの動きが一時的に後退する可能性が出てくるだろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

金融政策見通しの変要

FOMCは12月に今年あと一回の利上げに踏み切るだろう。FFレートの誘導目標は2.25%-2.50%になると予想している。2019年には2回(3月と6月)の利上げに踏み切るだろう。9月のFOMCで景気見通しや政策ガイダンスが更新された。ドットチャートは 6月に比べるとハト派的になっており、 2020年のレート見通しを、数名の委員が引下げていた。また、2021年見通しを数名の委員が下方修正している。声明では、金融政策は「緩和的」という文言が削除されたが、それ以外の変更は無かった。

ただ、SGはFRBの利上げは2019年中頃には終了すると見込んでいる。その頃には景気減速の兆しが出ており、FRBに引締めサイクルの終了を促す主因になるだろう。またイールドカーブのフラット化(場合によっては逆イールド)が第2の要因になるとみられる。インフレリスクは景気トレンドが基になるが、世界的にみると、中国や新興国での景気減速が、米国にとって(下方=インフレ率を押下げる)リスク要因になる可能性がある。

ECBは2018年12月にQEを終了する方針を示した。ECBは、QEプログラム最後の3カ月に、月150億ユーロの資産買入れを行うことを「想定している」。ECBは、初回利上げ時期のガイダンスを「2019年中頃の後」(「2019年夏の間は」金利を変更しない)に変えることに、満場一致で合意した。意図するしないにかかわらず、利上げ開始時期が不確実なこととの共存が、市場には必要となろう。量的緩和(QE)が終了すれば、来年初めに(利上げを巡る)議論が再び白熱しても驚きではない。ECBは2019年6月に「中銀預金金利だけが15bp引上げ」と「テクニカルな」調整を行うだろう。その後、2019年9月には全ての種類の政策金利が25bp引上げられ、中銀預金金利は従来と同じゼロに達する可能性があるだろう。

7月の展望レポートで日銀は物価の予測を下方修正し、2%の物価目標への到達は更に遅れる見通しとなった。また、日銀は「0%程度」の誘導目標から長期金利が離れるバンドの若干の拡大を許容することを示した。ただ、バンド拡大の容認はあくまで、グローバルな金利上昇や日本の物価上昇についていく形のみの許容という形となり、それ以外の緩和の早期出口の思惑などでの上昇には予定外の国債買入オペなどで抑制するという姿勢は維持している。一方で、グローバルに金利上昇圧力が強まっている中、国債利回りが低下し続けている場合には、買い入れ額の減額などで円債市場の活性化を図っている。日銀は、「当分の間、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持することを想定している」というフォワードガイダンスを新たに導入したことなどから、今回の日銀の措置は、早期の緩和の出口ではなく、長期化への備えであると考えられ、日銀の政策は、積極的な緩和から、我慢の緩和に転換したようだ。日銀の長期金利の誘導目標自体の引き上げは消費税率引き上げによる景気底割れが回避されたことが確認できる2020年度中頃まで先送りされることになるだろう。

PBoCは景気減速を避けながらも、金融規制の見直しを続けていくだろう。既に金融政策は緩和的になっているが、景気後退の可能性が更に強まるとRRR(預金準備率)の追加引き下げを行うなど、景気動向に注視しながら金融規制改革を進めていくなか、金融システミック・リスクの回避のために複数のツールを使い追加緩和政策を行うだろう。

BOEは8月に利上げに踏み切り、次回の利上げは2019年2月だろう。ただ、その後は2020年末まで利上げが停止される可能性がある。

米国(Fed)

FFレート(予想:2018年はあと1回の利上げ、2019年には2回の利上げを予想):

FOMCは12月に今年あと一回の利上げに踏み切るだろう。FFレートの誘導目標は2.25%-2.50%になると予想している。2019年には2回(3月と6月)の利上げに踏み切るだろう。

9月のFOMCで景気見通しや政策ガイダンスが更新された。ドットチャートは 6月に比べるとハト派的になっており、 2020年のレート見通しを、数名の委員が引下げていた。また、2021年見通しを数名の委員が下方修正している。声明では、金融政策は「緩和的」という文言が削除されたが、それ以外の変更は無かった。

ただ、FRBの利上げは2019年中頃には終了すると、弊社では見込んでいる。その頃には景気減速の兆しが出ており、FRBに引締めサイクルの終了を促す主因になるだろう。またイールドカーブのフラット化(場合によっては逆イールド)が第2の要因になるとみられる。インフレリスクは景気トレンドが基になるが、世界的にみると、中国や新興国での景気減速が、米国にとって(下方=インフレ率を押下げる)リスク要因になる可能性がある。

FOMCメンバー(予想:中間選挙後に新しい議会が開かれる前に駆け込みで承認が進むかもしれない)

リチャード・クラリダ氏のFRB副議長への任命はは議会で承認され、9月17日に就任した。クラリダ氏は講演や学界での発言を基にすると、FRBが現在実行している「(政策正常化を)徐々に進める」アプローチに反対するとは考えづらい。2017年11月にFRB理事に任命されたマービン・グッドフレンド氏、4月にFRBのコミュニティバンク担当理事に任命されたミシェル・バウマン氏の両氏は上院の承認待ちとなっている。中間選挙後、2019年に議会の顔ぶれが変わる前に、駆け込みでの承認があるかも知れない。

ニューヨーク連銀総裁に就任したジョン・ウィリアムズサンフランシスコ連銀総裁の後任にはメアリー・デイリー副総裁が昇格した。同氏は賃金動向など労働市場の研究で知られており、雇用の逼迫がどこまで物価を押し上げる可能性があるのか、FRB内で見解が問われることになるだろう。SF連銀の労働経済学者だった同氏は段階的なペースでの利上げを支持する可能性がある。FOMCのメンバー構成は、2019年にはよりタカ派とハト派のミックスになるようだ。非常にハト派の連銀総裁(セントルイス連銀ブラード総裁)と非常にタカ派の連銀総裁(カンザスシティー連銀ジョージ総裁)がFOMC委員として参加する。ここ最近に来て、パウエル議長などFOMCの常任委員たちは引き続き、段階的なペースでの利上げを支持していることなどから、FOMCが大幅にタカ派的になる可能性は限定的だろう。

ユーロ圏(ECB)

金融緩和政策(予想:2018年末に量的緩和終了。):

ECBは6月14日の政策会合で、2018年12月にQEを終了する方針を示した。ECBは、QEプログラム最後の3カ月に、月150億ユーロの資産買入れを行うことを「想定している」。ECBのバランスシートの拡大は非常に急速で、2017年末には、バランスシート規模がGDP比40%に達している。ドラギ総裁がこの(再投資に関する)方針は非常に重要だと6月に述べたことで早期発表への期待が過度に高まった可能性がある。しかし、再投資の満期、行うタイミング、資産クラスの変更は主にテクニカルなもので、各国への影響はほとんど無いとだろう。今秋にユーロ圏長期債利回りの上昇がさらに目立ち始めるなら、比較的長期債への再投資が可能だと外部に伝えることへの興味が、ECBでは深まるかも知れない。ECB関係者からキャピタルキーを再投資債の選定基準のひとつにする可能性への言及が増えている。

政策金利(予想:2019年6月には「テクニカルな」利上げを行い、9月にすべての政策金利の利上げに踏み切るだろうが、その後はいったん利下げを行うようになるだろう):

今年のQE終了(が予定されていること)に伴い、 ECBの焦点は、金利フォワード・ガイダンスと発表される経済指標に移っているだろう。量的緩和(QE)が終了すれば、来年初めに(利上げを巡る)議論が再び白熱しても驚きではない。ECB理事の一部はマイナス金利を快く思っておらず、「早期利上げ」と「金利の道筋のフラット化(利上げは緩やかに進める)」の間で妥協が成立すれば、満足するとみられる。いずれにせよ、来年の初回利上げが近づくにつれ、ECBが考える金利パス(金利の道筋)の見通しがますます興味深くなるだろう。

ECBは2019年6月に「中銀預金金利だけが15bp引上げ」と「テクニカルな」調整を行うだろう。その後、2019年9月には全ての種類の政策金利が25bp引上げられ、中銀預金金利は従来と同じゼロに達する可能性があるだろう。ただ、その後は、米国のリセッションがが始まると見ているため、2019年遅くの追加利上げは無いと見込んでいる。想定している2019年後半の米国リセッション入りの後、ECBが小幅利下げを実施し、2020年には預金金利がマイナス0.15%になると見込んでいる。その後、2020年後半に利上げサイクルが再開するにつれて、中銀預金金利、主要リファイナンシング・オペ金利、貸出金利のコリダーは、最低の50bpに戻ると見込んでいる。

日本(日銀)

誘導目標(予想:政策は、積極的な緩和から、我慢の緩和に転換。次の政策変更は2020年中頃に長期金利の誘導目標を引き上げ。):

7月の展望レポートで日銀は物価の予測を「経済・雇用情勢に比べて弱めの動きが続いている」との判断と整合的な水準まで大きく下方修正し、2%の物価目標への到達は更に遅れる見通しとなった。そうなると累積的な副作用への懸念が大きくなるリスクにマーケットは敏感となるため、日銀は「0%程度」の誘導目標から長期金利が離れるバンドの若干の拡大を許容することを示した。ただ、バンド拡大の容認はあくまで、グローバルな金利上昇や日本の物価上昇などファンダメンタルスの回復についていく形のみの許容という形となり、それ以外の緩和の早期出口の思惑などでの上昇には指値オペなどを使い抑制するという姿勢は維持された。

日銀は成長率について「2019年度以降は下振れリスクの方が大きい」とし、消費税率引き上げのリスクが大きいと意識している。日銀が、「0%程度」の長期金利の誘導目標自体を引き上げでることができるための最も重要な必要条件は、展望レポートのでの経済と物価のリスク判断が「下振れリスクの方が大きい」という下方から中立化されることであるだろう。日銀は、「当分の間、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持することを想定している」というフォワードガイダンスを新たに導入した。今回の日銀の措置は、早期の緩和の出口ではなく、長期化への備えであると考えられ、日銀の政策は、積極的な緩和から、我慢の緩和に転換したとみられる。日銀の長期金利の誘導目標自体の引き上げは消費税率引き上げによる景気底割れが回避されたことが確認できる2020年度中頃まで先送りされることになるだろう。

マイナス金利政策(予想:2%の物価上昇を達成する2022年に解除):

日銀は長期金利の誘導目標を徐々に引上げ、長期国債の買入額は減少していく。日銀は2%の物価目標達成が確認でき、短期金利の引き上げに踏み切るのは、かなり先の2022年となろう。

中国(PBOC)

銀行間金利(予想:緩和は既に始まっており、今後追加緩和に踏み切る可能性もあるだろう):

PBoCは緩和的な流動性状況を維持するだろう。システミックな金融危機の回避が、PBoCの優先事項の1つだ。そのためには、銀行にとっての比較的安定した流動性状況を維持する必要がある。また、景気が減速して信用リスクが上昇する中で、PBoCはより緩和的なスタンスに移ってきた。7月初めのRRR(預金準備率)引下げに続き、銀行間金利も従来のレンジを下回っており、事実上の利下げとなっている。弊社見込み通りに景気がいっそう減速するならば、金融政策の次の一歩は、RRRの追加引下げや銀行間金利の低下を通じた、銀行間流動性のさらなる緩和になるだろう。PBoCの様々なツール(リバースレポ、SLF/常設貸出ファシリティ、MLF/中期貸出ファシリティ)での金利引下げ(はるかに強力な緩和策となる)はその後に、場合によっては2018年末に実施される可能性がある。その結果、銀行融資伸び率が現状よりも高くなると弊社は見込んでいる。

為替政策(予想:人民元は下落圧力を受けることになるだろう)

FRBとPBoCの政策には差があり、市場も貿易戦争を恐れている。PBoCは、為替ボラティリティの拡大を許容する意向を示してはいる。とはいえ、金融政策を通じたコミュニケーションと介入により、人民元に対する強い下落圧力を弱める努力を続けており、今後も続けるとみられる。

英国(BOE)

政策金利(予想:次回の利上げは2019年2月。ただ、その後は2020年末まで利上げが停止される可能性がある。):

8月のMPCは、事前に市場にシグナルを示していた通り、政策金利を正式に25bp引上げ0.75%とした。票決が満場一致だったことはサプライズだった(最近の講演を受けてカンリフ氏、とラムスデン氏は、現状維持に票を投じるとみていた)。MPCは少しずつ緩やかに利上げを進めるだろう。第1四半期(Q1)のGDP成長率は少し落ち込んだことは異常な結果であり、第2四半期以降は見込み通り前期比0.4%での安定成長ペースに戻ると自信を持っているようだ。また、BoEは、労働市場のタイトさやそれがインフレに及ぼす潜在的インパクトを、強めにみる傾向がある。現在見込みどおりに安定成長が続くと、MPCが推定する潜在生産力の成長率を少し上回り続けることになる。その場合、MPCは今まで示してきた年1回の利上げより速いペースで引締めを進める意向のようだ。

現時点で、次回利上げが2019年2月になると見込んでいる。これは6カ月後という意味では従来と同じだが、それが金利のピークになる可能性があるだろう。今サイクルでの最後の利上げは、少し遅れ、2019年5月になるリスクもある。また、利上げに踏み切るためには、MPCも適切に強調している通り、ブレグジットを巡る騒動が発生しないことが条件になる(ブレグジット交渉は、今年後半に終盤に入る予定)。予期しない結果となるリスクも依然として高いが、SGの想定する基本シナリオは「メイ首相が非常に穏やかな交渉のかじ取りに成功して、ハード・ブレグジット(強硬なEU離脱)派は激怒するが、英国経済にはベターな結果になる」で変わらない。

その後2019年末までは、米国がリセッション入りするという見方が強まることで、BoEは追加利上げを控えると弊社は見込んでいる。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト