2016 年の出生数は100 万人を割った。人口推計では出生数が上方修正されたのに、足許のデータは奮わない。第一子の出生数を増やすには結婚年齢をもっと若くするための働きかけが必要になる。ベビーブーマーの子供たちが結婚・出産の年齢を迎える今後10 年程度が最後のチャンスと思える。

やはり楽観できないのか

 遂に出生数が100 万人を割った。厚生労働省「人口動態統計」によると、2016 年の出生数は976,979 人と初めて100 万人を割り込んでしまった(図表1)。前年比▲2.9%と過去20年間で2005 年(▲4.3%)に次いでマイナス幅が大きい。前年(2015 年)は、前年比0.2%と久々のプラスに転じて、少子化傾向に歯止めがかかりつつあると、やや楽観的だった見方に冷水を浴びせた。合計特殊出生率も、2005 年の1.26 をボトムにして2013 年1.43、2014 年1.42、2015 年1.45 と改善してきたところから2016 年1.44 と足踏みになっている。

出生数の減少をどう止めるか
(画像=第一生命経済研究所)

 先日4月10 日に発表された国立社会保障・人口問題研究所の2017 年推計では、その5年前の推計に比べて出生数の減少見通しを若干上方修正させたばかりだ。これまでの悲観論の上方修正が少しばかり怪しくなってきたのが、2016年の出生データの意味するところだ。

 出生数が減少する理由をデータから読むと、第一子の減少の寄与が大きい。出生数の約半分は第一子であり、前年に比べて第一子は▲3.8%と大きく減っている。第二子は前年比▲2.0%、第三子以上は前年比▲1.8%とマイナス幅は小さい。25~34 歳の母親が生む第一子の減少が特に減っている。政府は、待機児童の解消に力を注いでおり、そうした効果は第二子以上を持つ負担の軽減にはつながるだろうが第一子の減少には相対的に効果が及びにくい。第一子の減少については、2016 年の婚姻数が前年比▲2.3%と大きく減少しているから、結婚が少なくなって第一子の出産も減ったという理解になるだろう。

近未来をイメージする

 今後の出生数は、このまま漸次減少していくのだろうか。それを占うため、若者の人口減のペースをみてみた。確かに、主に子供を産んでいる25~39 歳の年齢層が減っていく流れは存在する。1人の女性が一生のうちに子供を産む人数、すなわち合計特殊出生率が多少上昇したとしても、25~39 歳の人数が減っていくペースが大きければ出生数は増えていかない。

 人口ピラミッドを調べると、2017 年時点で44 歳のゾーンが年齢別人口のピーク(200 万人)となって、それより若い年齢層は暫減となっている(図表2)。ただし、細かくその変化をみると、25 歳から16 歳のところのゾーンは減り方がマイルドになっている。つまり、1992~2001 年生まれの出生数は一時的に減少ペースが鈍っていたのである。彼らは、ベビーブーマーの世代を含んでいる42~50 歳の子供達であるとみられる。しばしば、団塊ジュニアの子供達が次のベビーブームをつくらなかったと言われるが、少なくとも出産減少に歯止めをかけるのには一役買っていることは認めてもよいだろう。

出生数の減少をどう止めるか
(画像=第一生命経済研究所)

 2000 年代後半は、ベビーブーマーを含む世代が40 歳以上へと移行して、25~39 歳の出産が多い年齢層から外れていった時期である。25~39 歳の年齢層の人口は、2009~2015 年にかけて年間▲60 万人以上の大幅な減少を辿っている。このことは、出生数のみならず、結婚する人数をも大きく押し下げたことを意味するのだろう(図表3)。

 問題は先行きである。筆者の計算では、2017 年頃から25~39 歳の年齢層の人口は年間の減少幅が▲50 万人を切って、▲20 万人台へとマイルドになってくる(図表4)。これは、前述の1992~2001 年生まれの若者たちがいよいよ結婚・出産の年齢域へと入ってくる。わが国が人口減少の未来に少しでも歯止めをかけたいと思うのならば、現在(2017 年)から10 年間程度が正念場である。ここで結婚・出生数が増えなければ、人口減少の運命から逃れられない。

出生数の減少をどう止めるか
(画像=第一生命経済研究所)

雇用の壁

 経済分析をする立場から少子化を考えると、結婚・出生数の減少は若者人口減の影響をかなり色濃く受けていると理解できる。さらに見落としてはいけないのは、雇用情勢と若者の所得環境である。90 年代後半から若者の非正規化が著しく進んで、所得が十分に得られないから結婚を躊躇するという事例も加わった。新卒採用時に正社員になれなかった人は、その後、年長になってもなかなか正社員になれない。不本意のまま非正規化すると、ずっとそのまま高い所得を得られない。現在のように、人手不足が深刻化しても、25~54 歳男性の不本意非正規雇用者数は、まさしく岩盤のように減りにくいのである。これまで非正規だったという履歴が現在・将来に亘って影響力を及ぼす。これを是正すべきだという声は当然のように強い。しかし、一般論として是正すべきと主張できても当事者としては答えにくい問題だろう。

 ひとつの対策としては、国や地方自治体が25~54 歳の非正規雇用者を正社員として雇うという方法である。仮に、彼らが仕事が厳しくて中途で辞めたとしても正社員の職歴は残る。また、そこで厳しく鍛えられたスキルは、その後の働き方に必ず好影響を与えるころだろう。こうした思い切った策が用いられなくては、正社員の岩盤は崩れないだろう。引いては、若者の結婚・出産の環境にもプラスの効果を及ぼすだろう。

保育だけでよいのか

 政府が推進する少子化対策は、もっと広範囲に展開してもよいと考えられる。現在は、待機児童ゼロを掲げて、保育の部分だけがピンポイントで拡充されようとしている。保育の拡充には異論がないが、どうしても話題になったところに対応が重点化されて、見えにくい少子化要因は放置されがちだと思える。

 第一子を増やすためには、もっと結婚年齢が若い方がよい。例えば、第一子出産時の母親の平均年齢は、2016年30.7 歳となっている。この平均年齢が5歳前倒しになれば、第二子、第三子の出生数は増える。保育の拡充は、その時にはより大きな効果を発揮するだろう。逆に言えば、保育だけをピンポイントで拡充しても、結婚と第一子出産年齢が若返らないと、少子化対策は十分には効果を高めないだろう。

 反対に、政府が婚活支援の旗を振ろうとすると、反対論が根強く起こる。結婚は個人の自由の領域であり、そこへ介入をすべきではないという意見である。しかし、20~30 年前はどうだったのかを思い出してほしい。企業は、もっとおせっかいだったと思う。独身の社員を早く結婚させた方がよいと考えて、社宅を手厚く供給し、結婚相手を紹介するような人も居た。現在は、昔のように会社の上司を仲人に立てることも少なくなり、結婚式から企業の色がなくなってしまった。昭和の時代の小説を読むと、20 歳代の前半から世帯を持つことへのプレッシャーがかなり強く、それが当時は当たり前だったことを思い出させてくれる。自由の概念は、戦後、様々に拡大解釈されて、家族制度を変容させてきた。結婚年齢が年長になって、子供の数が減ったことは、自由の拡大が伝統文化を変えたことと無縁ではない。当然、単に昔に戻せという主張は、時代錯誤のそしりを免れないので、私たちは子供が多く増えるような新しい文化をつくることしかできない。

 政府が若者の結婚推進を後押しするときは、自由の原則にあまり立ち入らない前提でもっと積極化することが望ましい。因みに、子供がもっと多く産まれ、若者が早く結婚するために何が必要なのかを様々な若い人に尋ねると、あっという間に沢山の個人的意見が集まった。筆者は2019 年に新元号の年が始まるのに合わせて、結婚したい若者の願いを一気に叶える大キャンペーンを打つのが効果的だと考える(2017 年4月11 日のレポートでも触れたが)。そうした筆者のアイデアを上回るような意見が次々に現れてくる。

 ここでは、それらの具体的アイデアを挙げることはしないが、気が付いたのは数多くの婚活・出産促進のアイデアが社会全体で本気になって考えられていないということだ。意見を持った一般人がもっとアイデアを声高に叫べば、促進のための名案はいくつでも出てきそうである。問題は、誰もが慎重になって単にアイデアを集めようとしないだけだと思う。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 経済調査部
担当 熊野英生