要旨
● 3月短観における今期の収益計画によれば、17 年度上期に増収増益になるものの、下期は増収減益に転じることになる。ただ逆に慎重な計画であれば、夏場に向けて4-6月期の企業業績が見え始め、収益回復への市場の期待が高まることで、株式相場の押し上げ要因となることが期待される。
● 2017年度に前年度比で最大の増収率計画を立てている業種は「非鉄金属」であり、それに続くのが「はん用機械」、「鉄鋼」、「生産用機械」「造船・重機、その他輸送用機械」と、金属や機械関連業種が連なる。16 年度は対事業所サービスやや不動産といった非製造業の増収が目立ったが、17 年度は景気対策効果による公共事業に加えて、五輪等による建設投資の恩恵を受けやすい金属や機械関連の増収が期待される。
● 2017年度に最大の増益率計画を立てている業種は「鉄鋼」であり、それに続くのが「はん用機械」、「宿泊・飲食サービス」、「生産用機械」、「木材・木製品」となる。売上高と同様に経済対策などに伴う公共事業やインバウンド増加の恩恵を受けやすい鉄鋼や機械、宿泊・飲食サービス、木材等に関連する企業がけん引役として注目される。ただし、これらの業種は商品市況や為替の影響も受けやすいことには注意が必要。
● 大企業製造業の想定為替レートは2017年度108.6円/㌦だが、足元のドル円レートは111円台。中でも足元よりも円高で今期為替レートを想定している業種は、「紙・パルプ」の106.76円/ドル、それに続くのが「木材・木製品」の107.06円/ドル、「電気機械」の107.57円/ドル、「繊維」「はん用機械」の107.86円/ドル、自動車の107.88円/ドルとなっている。
● 今後は、トランプ政権の不透明感や北朝鮮情勢等に伴う円高のリスクもあるが、景気回復を受けて米国で利上げやFRBのバランスシート縮小観測が高まる一方で、日本がイールドカーブコントロールの姿勢を維持して更なる円安が進むようであれば、こうした今期の為替レートを円高方向で想定している電気機械やはん用機械、自動車等の輸出関連産業に属する企業を中心に今期業績の上方修正が期待される。
今年度は増収減益の見込み
4月3~4日にかけて公表された3月短観の大企業調査は、3月下旬にかけて金融・保険を除く資本金10億円以上の大企業約2千4百社に対して行った調査であり、今期業績予想の先行指標として注目される。そこで本稿では、同調査を用いて、堅調な今年度収益が見込まれる業種を予想してみたい。
資料1は、3月短観の調査対象大企業(全産業、除く金融)が計画する半期別売上高・経常利益前年比の推移を見たものである。まず売上高を見ると、16年度下期は依然として前年比マイナスの計画となっており、前回調査からは1.0%の下方修正となっているが、17 年度に至っては上期から前年比プラスに転じる計画となっている。
一方、経常利益は16 年度下期から前年比で増加に転じており、前回調査からの修正率も+12.3%となっている。しかし、17 年度の経常利益は減益計画となっており、前年比で▲0.2%の微減見込みとなっている。このことから企業は、今年度は昨年度と比べてコストが増加しやすいと想定していることが推察される。
結局、産業全体で見れば、売上高、経常利益とも半期ごとの伸び率は17 年度上期に増収増益になるものの、下期は増収減益に転じることになる。ただ逆に慎重な計画であれば、夏場に向けて4-6月期の企業業績が見え始め、収益回復への市場の期待が高まることで、株式相場の押し上げ要因となることが期待される。
大幅増収期待の資源、機械、素材関連
続いて、3月短観の売上高計画を基に、2017 年度において前年度比で大幅な増収が見込まれる業種を見てみたい。資料2は2017 年度の業種別売上高計画を上期と下期に分けて、前年同期比の状況を見たものである。
結果を見ると、製造業では「電気機械」、非製造業では「物品賃貸」「通信」「鉱業・採石業・砂利採取業」を除く全ての業種で増収計画となる中で、最大の増収率計画を立てているのが「非鉄金属」の前年比+7.9%である。それに続くのが「はん用機械」の同+4.4%、「鉄鋼」の同+4.0%、「生産用機械」「造船・重機、その他輸送用機械」の同+3.4%であり、金属や機械関連業種が連なる。
従って、17 年度の業績見通しにおいては、こうした業種に関連する企業についてどれほど増収になるかが注目されよう。特に、16 年度は対事業所サービスやや不動産といった非製造業の増収が目立ったが、17 年度は景気対策効果による公共事業に加えて、五輪等による建設投資の恩恵を受けやすい金属や機械関連の増収が期待される。
増益のけん引役は電気機械、鉄鋼、機械
続いて、3月短観の経常利益計画から17 年度の業績を牽引することが期待される業種を見通してみよう(資料3)。
結果を見ると、増益率が最も大きいのは「鉄鋼」の+91.0%となる。それに続くのが高い増収計画を立てている「はん用機械」の+12.2%、「宿泊・飲食サービス」の+10.9%、「生産用機械」の10.8%、「木材・木製品」の+10.0%となる。
このように、今期の経常利益計画では、全産業の増益幅を牽引する業種として、売上高と同様に経済対策などに伴う公共事業やインバウンド増加の恩恵を受けやすい鉄鋼や機械、宿泊・飲食サービス、木材等に関連する企業がけん引役として注目される。ただし、これらの業種は商品市況や為替の影響も受けやすいことには注意が必要だろう。
厳しめの為替レート想定で業績上方修正期待も
なお、3月短観の収益計画では、企業の想定為替レートも公表されることから、業種別の想定為替レートも今期業績見通しの修正の可能性を読み解く手がかりとして注目したい。資料4にて実際に今期の想定為替レートを確認すると、大企業製造業における事業計画の前提となる想定為替レートは、16 年度下期:107.84 円/ドル、2017 年度上期108.6 円/ドル、下期108.66円/ドルとなっているが、足元のドル円レートは111 円台となっている。
そして、中でも足元のドル円レートよりも円高水準で今期の為替レートを想定しているのが、「紙・パルプ」の106.76 円/ドル、それに続くのが「木材・木製品」の107.06 円/ドル、「電気機械」の107.57 円/ドル、「繊維」「はん用機械」の107.86 円/ドル、自動車の107.88 円/ドルとなっている。
以上の結果を踏まえれば、今後はトランプ政権の不透明感や北朝鮮情勢等に伴う円高のリスクもあるが、景気回復を受けて米国で利上げやFRB のバランスシート縮小観測が高まる一方で、日本がイールドカーブコントロールの姿勢を維持して更なる円安が進むようであれば、こうした今期の為替レートを円高水準で想定している電気機械やはん用機械、自動車等の輸出関連産業に属する企業を中心に今期業績の上方修正が期待される。(提供:第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 永濱 利廣