シンカー: PBOCが預金準備率を引き下げる金融緩和に踏み切った。今回の動きは流動性には中立要因で、人民元下落圧力は強まらないとみられている。一方、5,000億ドルを超す中国から米国への輸出の全額に、25%の関税が課される恐れが出ている。このため中国がこうした関税引上げの影響を相殺するには、対ドルで25%の人民元切下げが必要になるのか、という疑問がマーケットに生じている。実際には、それほどの人民元の下落にはならないとみられる。しかし、下落圧力がかなり高まれば、物価上昇が加速し、財政政策などによる景気下支えが困難になりかねない。中国の政策当局は、貿易紛争などによる景気下押し圧力の緩和と、物価上昇圧力の押さえ込みの難しいバランスを保たなければならなくなっているようだ。関税の引き上げを含む物価上昇圧力にどれだけ政策当局が寛容でいられるかが、各国の経済・マーケットのパフォーマンスを左右していくように思われる。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

最新のSGグローバル・レポートと要約

●中国経済(10/9):預金準備率引下げ…元安圧力にならないと当局はみるが

PBOCは、預金準備率を100BP引下げる(10月15日から実施)と発表した。ただしこれは、中期貸出ファシリティを通じた資金の引き揚げにより一部相殺され、ネット(純額)の流動性注入効果は7,500億元になる見込み。PBOCでは、今回の動きは流動性には中立要因で、人民元下落圧力は強まらないとみている(ただ弊社は、必ずしもそれには同意できない)。いずれにせよ今回の動きは、景気減速抑制には(手助けとはなるが)不十分だとみられる。

●中国経済(10/4):米国の関税と人民元下落による経済への影響は

5,000億ドルを超す中国から米国への輸出の全額に、25%の関税が課される恐れが出ている。このため中国がこうした関税引上げの影響を相殺するには、対ドルで25%の人民元切下げが必要になるのか、という疑問が生じている。だが、弊社はそうは考えていない。(忘れがちであるが)貿易加重ベースの人民元下落で、多くの貿易相手国に対して中国の価格競争力は上昇するからだ。本レポートでは極めてシンプルな枠組みを通じ、関税と為替変動が原因の相対的な価格調整から生じると見込まれる、経済への潜在的なインパクトを示したい。

●欧州経済(10/5):「ノンコア」インフレへの対応余地は軽視できない

先週にECBのドラギ総裁が、コアインフレ見通しを「比較的力強い」と表現したことは驚きであった。直近のスタッフ予測も強弱入り混じっており、原油価格とコアインフレ率見通しを引下げたにもかかわらず、総合インフレ率は据え置いた。では、フィリップス曲線に対する疑問が長期間消えないにもかかわらず、(ドラギ総裁の考える)コアインフレ率見通しが力強い理由は何だろうか。弊社は、純粋なインフレ懸念が利上げサイクル開始につながるというよりは、金融政策を実体経済の状況に近づけて非伝統的な政策を終わらせることを急ぐべき、という感触を持っている。その結果、来年は金利パス(非常にフラットな動きが依然として見込まれている)が焦点になるだろう。だが出発点が低いことから、短期金利に対してタカ派的なトーンが強まる可能性も否定はできない(特に、原油価格上昇が続き、生産能力の制約が深刻化した場合は)。ECBの過去の対応パターンを考えると、ノンコア・インフレ率への反応が金融政策を左右する可能性を、過小評価することはできない。

●債券市場(10/8):攻撃にさらされて

ここ数日間で債券市場の弱気相場に弾みがつき、米国債利回りは直近のピークを更新した。我々が確認した金利上昇要因が引き続き作用している現状を踏まえ、弊社は投資戦略の観点からデュレーション・ショートのスタンスを維持している。欧州中央銀行(ECB)は資産買い取り策の終了を予定し、2019年の金利正常化を目指して準備を進めている。これが今後もベリー・セクター主導の債券売りを後押しする要因となる。そのため、弊社はユーロ圏の債券市場で2年-5年スティープナーを堅持する一方、ロングエンドにおいてはベア・フラット化を想定したポジションをとる。デュレーション・ショートの投資スタンスにとって波乱要因となるのはイタリア情勢だが、世界的なリスク・センチメントの改善は、ショート・ポジションの投資家がついにはタオルを投げ入れて利回りの確保に向かう可能性を高める・・・そう期待したいものだ。

●HEDGE FUND WATCH (10/8): 熱狂的期待(EXUBERANT EXPECTATION)を表す7つのサイン

熱狂(EXUBERANCE)が戻る:投資家は、市場のモメンタムに服従するか、それとも市場が上昇を続けるなかで株式をアンダーウェイトしていることによる痛みを被るか、という厳しいジレンマに直面している。ポジショニングから判断する限り、多くの場合、投資家は市場に降伏しているようである。本稿では、市場の熱狂的期待を表す7つのサインに脚光を当てる。それらはドットコム・バブル末期との気掛かりな類似性を帯びている。

ショート・ボラティリティ戦略が復活:2月にVIX指数のショートポジションが突然の大損失に見舞われ、多くの有名ヘッジファンドが廃業に追い込まれてから8ヵ月しか経っていないが、ショート・ボラティリティ・トレードの残高は過去最高まであと僅かに迫っている。同様に、S&P500のネットロングポジションは不安を覚えるほどの高水準にある(弊社は2019年末のS&P500のターゲットを2200としており、これは現水準から30%の下落を意味する)。

原油に関しては一段の高値追い、しかし金とスイスフランをショート:ヘッジファンドは金またはスイスフランである程度のプロテクションを確保しようとするよりも、原油のロングポジションを大きく積み上げており、原油価格の大幅なアップサイドを見込んでいるようである。政治的要因による急騰の可能性は否定できないが、現在の水準は魅力的なエントリーポイントとは言い難い。

債券利回りの大幅上昇とイールドカーブのスティープ化:5年および10年物米国債に対する現在の歴史的なショートポジションは、成長加速への期待とイールドカーブのスティープ化の可能性を反映していると思われる。弊社はそうしたシナリオには全く賛同しない。コンセンサス予想では2019年の米GDP成長率は2.5%と見込まれているが、弊社は1.6%と予想している。そもそも現在の米イールドカーブはパンケーキのようにフラットであり、年内にFRBの追加利上げが見込まれていることを勘案すると、イールドカーブの逆転の方がより可能性の高いシナリオに思える。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司