スウェーデンから現金が姿を消しつつあることをご存知でしょうか。キャッシュレス化が急速に進むスウェーデンでは屋台の店ですらも「現金お断り」となっており、あらゆる場所でキャッシュレス決済が求められます。
すでに子どもへのお小遣いもスマホを使ってあげるというスウェーデンでは、次なる一手として法定通貨のデジタル化に乗り出しました。クローナからeクローナへ、先進国初のデジタル法定通貨はいつ発行されるのでしょうか。
銀行主導で普及するスウェーデンフィンテックの特徴
スウェーデンの中央銀行「リスクバンク」が2018年に行った支払いに関する統計調査によると、直近の支払いで現金を使った人は13%となっています。2010年の同調査では33%でしたから、スウェーデンのキャッシュレス化はすさまじいスピードで進んでいることがわかります。
スウェーデンのフィンテックが、他の国のフィンテックと異なるのは、銀行が主導しているという点です。多くのフィンテック事業ではスタートアップ企業の活躍が目立ちますが、国民の半数以上が利用している決済アプリ「Swish」は、2012年にスウェーデンの主要銀行が共同で開発したものです。
Swishは固有の電話番号と銀行口座がひもづけられた送金システムで、決済や送金で利用する時には相手の電話番号を入力するか、QRコードの読み取りで手続きが完了します。手数料もかからず、スマートに利用できるのが特徴です。
Swishやデビットカードといったキャッシュレスシステムの普及により、現金を引き出す必要もなくなったことで、スウェーデンでは現金利用にかかるコストを大幅にカットできています。現金が消えたことにより強盗の件数も大幅に減少したといいます。
2018年中に法定通貨のデジタル化「eクローナ」は実現するか?
国民にフィンテックが浸透していく中で、スウェーデンが次に進めているプロジェクトが、法定通貨クローナのデジタル化です。「eクローナ」と呼ばれるデジタル法定通貨の発行については、調査の上2018年末までに判断すると発表しています。
eクローナはスウェーデンの国立銀行が発行し、クローナと同等の価値を持ちます。「国が保証する暗号通貨」の誕生によって、現在利用されている「非中央集権型」の価値担保がない暗号通貨の動きは鈍くなっていくかもしれません。
・ 法定通貨のデジタル化がもたらすもの
法定通貨のデジタル化によって、国にはどのようなメリットがもたらされるのでしょうか。貨幣の製造は、コストもリスクも大きいものです。デジタル化されることによって、このような貨幣の発行に関する問題を解消することができます。
利用者側は、支払いのためにわざわざATMで現金を引き出す必要もなく、決済も現金より迅速になります。デジタル化の際にはそれにともなった経済効果も見込めるでしょう。
・ デジタル化への問題
しかし、法定通貨のデジタル化によって今までにない問題が出てくる可能性も無視できません。世界の中央銀行で構成される国際決済銀行(BIS)は、デジタル法定通貨をあえて発行しても、メリットは限定的であると報告書にまとめています。
すでに利便性の高い決済・送金サービスが世界中に普及している中で、わざわざ法定通貨をデジタルに換える必要があるのか、国側はよく考える必要があるでしょう。デジタル化によって、民間の銀行から大規模な資金移動が起きるのでは、という懸念もあります。
・ デジタル法定通貨一番乗りはウルグアイ
しかしデジタル化の動きは他の国でもみられ、中国やカナダもデジタル法定通貨の発行には前向きです。そのような中で、デジタル法定通貨の実用化一番乗りとなったのは、先進国ではなく南米のウルグアイでした。
ウルグアイの中央銀行は2017年11月に「eペソ」の試験運用を開始しています。今後の動向をみながら、問題がなければ本格運用に乗り出す予定です。先進国に先駆けたウルグアイの動きによって、その他の国の方向性も定まっていくかもしれません。
「eクローナ」プロジェクトの報告で浮かんだ課題について
銀行主導のフィンテックに次いで、政府主導のデジタル法定通貨の導入へ。スウェーデンはキャッシュレス先進国として、先陣を切って金融のデジタル化を進めようとしています。
eクローナプロジェクトの第1回中間報告がリスクバンクによって2017年9月に発表されていますが、その中で、デジタル化に移行できない層への対応や法の見直しが必要だとしています。また、今後現金の需要が増加してしまったとき、金融危機や金融不安の状況下において、即時利用できる現金がないリスクについても考えておかなければならないでしょう。
実際の運用に向けては、まだまだ課題が残されている状況です。第2回の中間報告は2018年秋に発表される予定ですので、デジタル法定通貨の動きが気になる人はチェックしてみましょう。(提供:J.Score Style)
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