シンカー:景気動向に大きく左右されるコア財政収支(除く社会保障費と消費税)は既に黒字化していることが分かった。一方、企業貯蓄率が示す現在の景気動向を前提とした財政収支の推計値はまだ赤字であり、企業活動はまだ弱く、デフレ完全脱却に向けて財政政策で景気の下支えを続ける必要があることが分かる。現行の財政政策は過度に緊縮的になっている。その幅は9兆円程度となる。安倍首相が自民党総裁選で勝利し、2021年までの新たな任期を得た。2020年度から2025年度に先送りしたプライマリーバランスの黒字化目標に抑制されず、デフレ完全脱却を目指し財政政策を拡大することがようやくできるようになった。今回の総裁選の最も重要なインプリケーションは、景気拡大の実感を早く国民に感じてもらう必要があるため、財政政策の緩和方向への動きが強くなることだろう。市場経済の失敗の是正、教育への投資、生産性の向上や少子化対策、長期的なインフラ整備、防災対策、地方創生、そして貧富の格差の是正と貧困の世代連鎖の防止などを目的とした総合パッケージとして財政政策が実施されるとみられる。ミクロの会計ではなく、マクロの分析では、その財政的な余裕は十分にある。
企業活動の動きが、景気サイクルを決めていると考えられ、企業貯蓄率はその代理変数となっていることを指摘してきた。
そして、税収などを通じた景気自動安定化機能により、企業貯蓄率と財政収支は逆相関の関係にある。
企業のデレバレッジやリストラなどで企業貯蓄率が上昇すれば、景気動向が悪化し、税収が減少するなどして財政収支も悪化する。
企業の設備投資や雇用拡大などで企業貯蓄率が低下すれば、景気動向は改善し、税収が増加するなどして財政収支も改善する。
逆相関を維持していることは、企業貯蓄が財政赤字をファイナンスする力となっていることも意味し、マクロの国債需給は財政赤字だけではなく、財政赤字と企業貯蓄のバランスで判断しなければならないことを意味する。
消費税は、消費の増加幅ではなく水準にかかるため、景気動向に大きく左右されない安定財源とされる。
そして、社会保障費は人口動態に大きく左右されるため、景気動向に大きく左右されない恒常的な支出である。
消費税と社会保障費を控除してコア財政収支とすれば、景気循環要因の財政収支がより正確に把握できることになる。
そして、1985年からのかなりの長期時系列で、コア財政収支は企業貯蓄率(GDP比率)でうまく推計できることがわかった。
コア財政収支(除く社会保障費と消費税)=1.18-0.70企業貯蓄率-4.00ダミー(小泉政権以前=1、小泉政権以降=0)、R2= 0.83
小泉政権前後では、財政収支のトレンドが4.0%(GDP比率)も上方に変化がある。
小泉政権による財政構造改革で、景気を下支えする財政のセーフティーネットが縮小されたことにより、財政収支には大きな改善の力が加わった。
一方、過度な緊縮財政が、国民の生活を圧迫し、将来への不安につながってきた可能性も否定できない。
2018年4-6月期の資金循環統計ベースのコア財政収支は+0.4%(GDP比率)と、既に黒字化している。
+3.4%である企業貯蓄率が示す現在の景気動向を前提として、コア財政収支の推計値は-1.2%とまだ赤字であり、企業活動はまだ弱く、デフレ完全脱却に向けて財政政策で景気の下支えを続ける必要があることが分かる。
赤字である企業貯蓄率による推計値に対して、実際のコア財政収支は黒字になっており、現行の財政政策は過度に緊縮的になっている。
その幅は1.6%(GDP比率)となり、額として9兆円程度となる。
安倍首相が自民党総裁選で勝利し、2021年までの新たな任期を得た。
2020年度から2025年度に先送りしたプライマリーバランスの黒字化目標に抑制されず、デフレ完全脱却を目指し財政政策を拡大することがようやくできるようになった。
今回の総裁選の最も重要なインプリケーションは財政政策の緩和方向への動きが強くなることだろう。
自然災害の多発と国土強靭化を主張する二階幹事長が留任し、防災対策とインフラへの投資を増加させるだろう。
貿易赤字の縮小を目指す米国のトランプ大統領を説得するためには、政府は財政を拡大してでも内需を拡大し、デフレ完全脱却を成し遂げ、米国の製品・サービスの輸入を増加させるコミットメントが必要だ。
来年の統一地方選挙と参議院選挙での勝利のためには、景気拡大の実感を早く国民に感じてもらう必要がある。
総裁選の地方票で石破氏に追い上げられたことを考えても結果を出すことが急務となるだろう。
市場経済の失敗の是正、教育への投資、生産性の向上や少子化対策、長期的なインフラ整備、防災対策、地方創生、そして貧富の格差の是正と貧困の世代連鎖の防止などを目的とした総合パッケージとして財政政策が実施されるとみられる。
ミクロの会計ではなく、マクロの分析では、その財政的な余裕は十分にある。
図)ネットの国内資金需要
図)コア財政収支(除く社会保障費と消費税)と企業貯蓄率による推計値
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司