消費税対策として挙げられたキャッシュレス決済への2%のポイント付与は、どのくらいの恩恵がありそうか。中小企業の範囲を資本金1億円以下とすると、1世帯当たり約7,400 円と計算できる。10%時の追加負担の21.7%に相当する割引となる。なお、これはキャッシュレス決済をすべてポイント付与の対象に振り向けた場合、つまり家計が最大限に新制度を利用した場合の計算である。

ポイント付与の対象

 安倍首相は、10 月15 日に消費税率10%への引き上げを改めて表明し、そのための対策をまとめるように指示した。その中で、目を引くのは、中小小売店で商品購入時にキャッシュレス決済を行ったときに、ポイントを還元するという内容である。その狙いと効果はどのくらいあるのだろうか。

 まだ、制度の概要はよく判明していない。そこでいくつかの仮定を置いて、その恩恵が家計にどのくらいあるのかを検討してみることとした。

 まず、いくつかの前提条件を確認しておこう。キャッシュレス決済は、クレジットカード、電子マネーなどが挙げられる。非現金決済という点では、口座振替、割賦販売やインターネット取引が頭に浮かぶ。経済産業省は、キャッシュレス決済の比率が2016 年20.0%と調査しているので、決済手段の内訳にはあまり踏み込まずに、この20.0%を消費支出に乗じた部分が対象になると考える。

※2017 年データを経産省と同じ方法で加工計算(試算を含む)すると、21.3%となった。この割合は、持家の帰属家賃を含むので、含まないベースの家計最終消費支出に対する割合は、2017 年26.3%となる。

 次に、キャッシュレスのポイントが付く対象品目は、おそらくは消費税の課税品目・軽減税率の対象品目となるだろう。総務省「家計調査」(2017 年)では、全世帯ベースで81%がこうした品目の割合となっている。1世帯当たり292 万円のうち、237 万円の消費支出に対して、ポイントが付与されることになろう。

 そして、問題は中小小売店の定義・範囲である。おそらく、小売店だけでなく、個人サービス、飲食・宿泊サービスも含むと考えられる。中小企業の対個人向け事業者が対象になるだろう。

 中小企業の定義を資本金1億円以下にするという見方がある。そうした範囲は財務省「法人企業統計年報」(2017 年)では、売上全体に占める資本金5,000 万円以上の企業の売上シェアは小売業56.8%、生活関連サービス業65.9%、宿泊・飲食サービス業69.6%となっている。3業種売上の合計では59.8%となる。この割合は、業種の売上に占める資本金1億円以下の企業の売上の構成比である。

1世帯の恩恵は5,700 円

 こうした前提に基づいて、全世帯平均のポイント対象消費支出(2017 年)を推定すると、次のようになる。

消費支出292 万円×品目に占める課税・軽減割合(81%)×中小企業割合(59.8%)
        ×キャッシュレス決済比率(26.3%)=37.3 万円

 年間37.3 万円の消費支出にポイント2%が付与されると考えられる。すると、1年間の恩恵は、7,452 円という計算になる。来年、消費税率が10%になると、そこで追加負担となる金額は1世帯当たり34,280 円とみられる。従って、ポイントによって還元される約7,400 円は、追加負担増の21.7%に相当すると考えられる。

 ただし、そこでの問題は必ずしも低所得対策にはならないことである。直感的に、キャッシュレス決済を多用しているのは、若者や中高所得者だと思われる。現金決済は、小口決済の手段であり、大型耐久消費財を購入する場面ではあまり使わない。従って、大口の消費財購入の頻度が多い中高所得者に恩恵が偏る可能性がある。

 また、マクロでポイント付与を通じた家計負担の軽減額を推計すると、家計最終消費支出(除く持家の帰属家賃)245.2 兆円(2017 年)に対して、約6,300 億円となる。家計はこの金額すべてをポイント付与して利用するとは限らないので、あくまで上限としての軽減額と考えるべきであろう。

キャッシュレス促進の狙い

 消費税対策の一環として、キャッシュレス決済のポイント付与が盛り込まれたことは、反動減対策や低所得対策ではないと考えられる。むしろ、消費促進策であり、中小企業へのキャッシュレス決済ツールの普及が目的であろう。キャッシュレスだと使いすぎるという声は多い。反動減に対して、キャッシュレス化は消費押し上げを狙っているという見方はできる。

 もっと大きいのは、東京五輪対応である。東京でさえ、中小事業者のキャッシュレス・ツールの普及は遅れている。中国人などのインバウンドは、スマホ決済が一般化していて、東京五輪でそうした需要を取り逃がしてしまうことも心配される。

 さらに、その先には2023 年のインボイスの導入が控えている。中小企業の間に、キャッシュレス・ツールが普及すると、帳簿管理をしっかりして会計が明朗になる。インボイスとも相性も良いだろう。そうしたインフラ整備の意味合いもあると考えられる。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
首席エコノミスト 熊野 英生