ベストタイミングは2016年度前半だった可能性

マイホーム, 購入, 経済
(画像=PIXTA)

実は、マイホームを購入するときの判断はかなり複雑である。なぜかというと、景気というのは良い時か悪い時かの二つに分かれるが、良い時でもマイホーム購入にとってはプラスの面もあればマイナスの面もあり、逆に悪い時でもプラスの面もあればマイナスの面もあるからである。

というのも、景気が良い時というのは、収入が増える、もしくは将来増えるだろうという期待が高まる。更にその後も景気が良くなれば、地価の上昇等もあり、住宅を早めに買えば、その後の価格も上がるだろうという期待が高まる。そこはプラスである。

ただ一方で、景気が良くなれば当然金利も上がりやすくなるため、住宅ローン金利も上がってしまう。35年の長期固定ローンなどで組めば金利はずっと変わらないが、変動金利にした場合は上がってしまう可能性がある。

一方で、住宅価格そのものが高くなりすぎるというマイナス面もあるが、景気が悪い時はその逆である。ローン金利は低いし住宅価格も安くなっている可能性がある。ただ、景気が悪い状態が続くと、収入が更に減ってしまう可能性もある。そして、自分が買った時よりも住宅価格が下がってしまえば、次に売るときに損が出る可能性もある。

買い時かそうでないかは、どのように判断すれば良いか。その際に、経済指標が一つの参考になる。住宅を購入する際には、できるだけ住宅価格が安く金利も低い時が良い。そして住宅価格だけで単純に考えると、2003年頃が一番の買い時だったということがわかる。

では、今はどうなのか。下のグラフを見ると、東京区部の住宅地の地価は、2003年頃のボトムを打っているときほど安くなってはいない。むしろ、近年は反転して上がり続けている。

東京都区部の住宅地の地価は、2012年度まではほぼ横ばいだったのがそれ以降は若干上がっている。その一方で、長期金利(新発10年債利回り)を見ると(半年平均のデータ)、2016年度前半が最低の水準にあったことがわかる。足元での長期金利は0・1%台で、過去を振り返っても、反転の局面にある。

しかも、現状の金融政策は長期金利の目標を0.2%程度としていることからすれば、長期金利が再びマイナスに転じる可能性は低いだろう。さらに、2019年10月に消費増税が控えているということを考えれば、2016年度の前半あたりが間違いなく住宅を買ういいタイミングの一つであったことが、このデータから判断できる。

ただ、これはあくまでも東京都区部の地価の話であって、ほかの地域では当然違ってくる。また、いろいろな店で同じ物を売っている家電などと違って、土地も違えば、それぞれ建てられる住宅も異なってくる。そのような意味からも、住宅は経済環境だけで購入を判断するものではない。

さらに細かいところまで考えると、消費税の増税に合わせて、住宅ローン減税が拡充される予定であるため、その内容次第では2019年10月以降に買ったほうがいいという可能性もある。ただし、金利や不動産価格だけで考えれば、住宅購入のベストタイミングは一旦過ぎたということがいえる可能性があり、このように経済指標が活用できるということである。

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経済の予測は、天気予報と近い

このように、住宅の購入について比較的単純な判断をする上でも、地価と金利という指標が参考になってくる。このため、全体の経済動向を見る場合には、より幅広い指標が必要になる。

それだけ幅広い指標を見るとなると、我々のようなエコノミストの間でも、皆の意見が一致しないということがよく起こる。色々な経済指標の中の何を重視するかによって、予測が違ってくるからである。

筆者は、経済の予測というのは天気予報と非常に近いと考えている。なぜなら、天気予報は、気温、気圧、湿度、風向、天気図、気象衛星写真等、様々なデータを把握して次の日の天気を予想しており、天気を予報するには幅広いデータが必要だということである。その点は経済予測も同じであり、様々な経済指標を総合的に判断することで、予測が出来るようになる。

ただ、一つだけ経済予測が天気予報と大きく違うところがある。天気予報というのは自然科学である。自然科学においては、概ね法則どおりに合理的に動くものである。しかし経済予測の場合は、人間の心理が入ってくるところが異なる。人間というのは必ずしも合理的には動くとは限らず、そこが難しい。

経済データを見れば、余程のことがない限り2、3か月ぐらい先の経済予測は可能だが、先行き半年とか1年後となると、予測が難しくなる。人の心理がどうなるかということが大きなポイントになってくるからである。

マーケットでは特にその傾向が強く、短期的にも心理で動いていくことが多いため、予測が非常に難しくなっている。しかし、実体経済を見る場合には、経済指標の正しい読み方さえわかれば、ある程度は予測できようになる。その意味でも経済指標が重要だということがわかる。

永濱利廣(ながはま としひろ)
第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト
1995年早稲田大学理工学部卒、2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年4月第一生命入社、1998年4月より日本経済研究センター出向。2000年4月より第一生命経済研究所経済調査部、2016年4月より現職。経済財政諮問会議政策コメンテーター、総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事兼事務局長、あしぎん総合研究所客員研究員、あしかが輝き大使、佐野ふるさと特使。