通勤・通学の時間は案外長い

 通勤・通学時間は思ったより長い。昨今の世界的な異常気象により夏が異常に暑いこともあり通勤・通学は以前よりも大変なものになってきている。真面目な国民性もあり通勤・通学の満員電車にもじっと耐えるのがサラリーマンである。勤めている会社にもよるだろうが、転勤になった場合、多少遠くても通えるのであれば頑張って通勤する人もいる。仮にドアツードアで片道1時間かかっている人だと、1日に往復2時間つまり一日の8.3%を通勤に要していることになる。当然住んでいるところにより10分の人も入れば1時間以上かかっている人もいる。総務省統計局が発表した「通勤・通学時間が長いランキング」によると、神奈川県が往復105分で最長、鳥取県が往復56分となっており、地域によってばらつきがあることがわかる(図表1)。

バーチャルオフィスの衝撃
(画像=第一生命経済研究所)

アメリカで出現したバーチャルオフィス

 通勤をなくした会社がアメリカで登場している。2018年5月にはナスダックにも上場したeXp Realtyという会社はリアルオフィスを捨ててバーチャルオフィスを利用している(図表2)。バーチャルオフィスはバーチャルリアリティ(仮想現実)を利用し実現している。社員がパソコンからログインを行いアバターが出社することになる。最近、日本にも出社しなくていい会社はある。また、テレワークが導入されている会社であれば会社からパソコンが貸与されインターネットを用いた通話などのコミュニケーションツールで会議を行い、業務進捗はクラウドサービスを通じて実施しているのではないだろうか。

 バーチャルオフィスは家で仕事ができるということではなく、バーチャルオフィスに出社し社員が集まっている。バーチャルオフィスには社員のアバターが集い、会議や研修が開かれる。社員間のコミュニケーションもバーチャルの世界で行われる。バーチャルオフィスに入るためには、専用ソフト「eXp World」をダウンロードすれば準備完了であり、ソフトを使うための高額なバーチャルヘッドセットや高機能なPCを使って出社することも可能であるが、使っている社員はほぼいないのが現状である。ボードメンバーであるCEOはワシントン州、CTOはニューヨーク州、COOはアリゾナ州、CFOはネバダ州とバラバラに居住しているもののバーチャルオフィスであるためボードミーティング等を円滑に進める上での支障はない。「物理的にオフィスを構えていたら、この成長はありえなかった。」とSingularity HubのインタビューでCTOのScott Petronisはコメントしている。共同作業は必要なため集まることは必要であるが、バーチャルオフィスでよかったのである。またネット環境さえあれば、住んでいるエリアを問わず人材を採用できることもバーチャルオフィスの利点だと述べている。通勤がなくなればその分だけ時間の節約ができることもメリットである。また、会社はリアルにオフィスを構えることによって発生する様々なコスト、例えば賃料や電気代や諸々の設備を用意する必要がなくなる。

バーチャルオフィスの衝撃
(画像=第一生命経済研究所)

日本におけるテレワークの導入状況

 日本でのテレワークの導入状況であるが、導入している企業は13.9%に留まっている(図表3)。企業がテレワークを導入しない理由から見えてくることは「テレワークに適した仕事がない」ということになる(図表4)。確かに営業を中心としたお客様との接点が中心の仕事はテレワークに適さないかもしれないが、営業であっても報告資料等の作成やそれ以外の社内で完結する資料作成や打ち合わせについてはテレワークでも代替できるのではないだろうか。あるいは未だに紙を中心とした仕事が多くあることや打ち合わせは対面でないとだめだと思っている人がいるため、ICTを活用したテレワークを使っていないのかもしれない。

 テレワークが進んでいる企業では、業務の棚卸や業務の可視化を図り、テレワークに適した業務と、テレワークに適さない業務の分類を行っている。日本テレワーク協会の調査では、在宅勤務中の業務について「資料や情報の収集」、「報告書・日報・月報等の作成」、「データの入力」、「原稿執筆・編集・校正」、「企画書・見積書等の作成」が上位を占めている。個人の担当業務をブレイクダウンしてみれば、テレワーク可能な仕事を多く取り出すことが可能なのではないだろうか。

バーチャルオフィスの衝撃
(画像=第一生命経済研究所)
バーチャルオフィスの衝撃
(画像=第一生命経済研究所)

バーチャルオフィスの効用

 今回のアメリカのバーチャルオフィスのアイデアに近しいものは以前から存在している。今から10年前既に「セカンドライフ」という仮想世界(メタバース)が誕生していた。リリース当初のメタバースでは世界中の人とアバターを通じた交流や、メタバース内での土地取引や商取引もできる仕掛となっていた。商取引の分野では日本からは広告代理店や自動車会社が参入したものの、当時の脆弱なネットワーク環境やパソコンの性能では仮想世界(メタバース)を運営することが難しくなり、あっという間にブームが廃れ今に至っている。しかし、メタバースが誕生してから時代が進み脆弱なネットワーク環境やパソコンの性能は10年前に比べ大幅に進化している。

 筆者もバーチャルオフィスの空間をデモ体験してみたが、全くストレスなく操作出来た。日本の多くの企業はテレワークのための環境構築や制度設計に注力し、かつオフィスが物理的にあることが当たり前と考えている。「リアルオフィスに出勤しないと仕事ができない」という既成概念を取り払い実現したバーチャルオフィスはテレワークの未来の姿なのかもしれない。

副主任研究員 柏村 祐
(企画総務部 かしわむら たすく)