学び直しのための情報提供や相談など、企業によるサポート強化が求められる
「人生100 年時代の働き方に関するアンケート調査」より
第一生命ホールディングス株式会社(社長 稲垣 精二)のシンクタンク、株式会社第一生命経済研究所(社長 丸野 孝一)では、2,000 人を対象に「人生100 年時代の働き方に関するアンケート調査」を実施し、民間企業で正社員として働く男女の職業能力開発(学び直し)の実施状況について分析をおこないました。このほどその結果がまとまりましたので、ご報告いたします。
本リリースは、当研究所ホームページにも掲載しています。 URL http://group.dai-ichi-life.co.jp/cgi-bin/dlri/ldi/total.cgi?key1=n_year
調査結果のポイント
学び直しの実施状況 ●学び直しを「現在おこなっている」は約1割、「おこなうつもりはない」が約半数
学び直しの実施状況別にみた就業意識 ●「長く働き続けるためには、学び直しが必要である」に男女とも、学び直し経験者は7割以上、学び直しをおこなうつもりはない人は約3割が回答
なぜ学び直しをしていないのか(将来的に学び直しをしようと思っている人) ●「学ぶための時間がない」が47.9%で第1位。次いで「学ぶための費用がない」が40.3%、「どこで教育を受けたらいいのかわからない」が32.2%。
なぜ学び直しをしていないのか(学び直しをおこなうつもりがない人) ●「自分には関係ない」が33.3%で第1位。次いで「学ぶための時間がない」が28.5%、「学ぶための費用がない」が24.5%。
学び直しをするために勤務先に期待すること ●学び直し経験者と将来学び直しをおこないたい人は「情報提供」、おこなうつもりはない人は「昇進や昇給など処遇に反映してほしい」が第1位
調査の背景
わが国では、労働力人口の減少や技術革新の進展などの社会環境の変化により、雇用や人材教育などの社会政策の変革のみでなく個人の就労意識の変革も求められています。すでに企業の多くは今後も続くであろう人手不足の状況に対応するため、中途採用や新卒採用の強化などを図っていますが、中には社内人材の再教育や多能工化(教育訓練・能力開発)に注目している企業もあります(図表)。テクノロジーの進化に対応できるよう、社員の職業能力を高めることに取り組んでいる企業も少なくありません。
政府においても2017 年9月に「人生100 年時代構想会議」を立ち上げ、わが国経済の活力を維持するためには人材の質向上が重要であるという観点から、「何歳になっても学び直しができるリカレント教育」についての検討を進めています。
このように人生100 年時代を迎え、国や企業レベルで様々な対策が議論されている中、実際に働く人々は、自らの職業生活において「職業能力開発」(学び直し)をどのように考えているでしょうか。人生における労働期間の長期化に備え、技術革新など社会の変化に合わせ、職業能力開発を重視して働くことが必要とされていますが、そのように考えている人はどのくらいいるでしょうか。
当研究所では、2018 年3月に実施した「人生100 年時代の働き方に関するアンケート調査」結果をもとに、民間企業で正社員として働く男女の職業能力開発(学び直し)の実施状況について分析をおこないました。この中から本稿では、特に学び直しを実施していない人に焦点を当てて、どのような人が実施していないのか、なぜ実施しないのか、さらに多くの人が実施するために何が必要なのかを探ります。このことを通して、労働環境が変わる中、自己のパフォーマンスを維持しつつ長期的に働くにあたり学び直しの重要性を社会的に浸透させるための課題について考えます。
調査の概要
1.調査対象 全国の20 歳~59 歳の民間企業で働く正社員男女1,000 人ずつ合計2,000 人。 (性・年代別に各250 サンプル、合計2,000 サンプルを抽出) 2.調査方法 インターネット調査(株式会社クロス・マーケティングのモニター) 3.調査時期 2018 年3月 4.回答者の属性(勤務先の企業規模別内訳)
学び直しの実施状況
学び直しを「現在おこなっている」は約1割、「おこなうつもりはない」が約半数
アンケート調査では、「職業能力開発」を「職業に関する能力を自発的に向上させるための学習」とみなし、これを「学び直し」と表現して、現在の実施状況をたずねました。具体的には、大学等の教育機関やe ラーニング等による通信教育の受講、書籍等による自学・自習により、仕事を続ける上で必要な技術や知識、教養を習得することを示しています。
こうした「学び直し」の実施状況をみると、「現在、おこなっている」と回答した割合は11.3%、「現在はおこなっていないが、過去におこなっていた」(以下「過去におこなっていた」)は14.6%であり、これらを合わせた「学び直し経験者」は約4人に1人でした(図表1)。「これまでおこなったことがないが、将来的におこなおうと思っている」(以下「将来おこないたい」)という実施希望者が27.7%、「おこなうつもりはない」(46.6%)と回答した人が約半数にのぼります。
学び直しの実施状況別にみた就業意識
「長く働き続けるためには、学び直しが必要である」に男女とも、学び直し経験者は7割以上、学び直しをおこなうつもりはない人は約3割が回答
学び直しの実施状況別に、様々な就業意識をみたものが図表2です。これをみると、「出来る限りこの会社で働き続けたい」への回答割合は、実施状況による差があまりないことがわかります。また、「自分はどのような仕事をしたいかわかっている」人の割合は、学び直し経験者には及びませんが、「学び直しをおこなうつもりはない人」でも男女とも半数以上おり、「仕事を通して自分を高めたい」と思っている人も同様に男性は約5割、女性は5割弱います。「自分の仕事にやりがいを感じている」人の割合も、学び直し経験者や将来おこないたいといった学び直しに前向きな人ほどではありませんが、おこなうつもりはない人でも4割以上であり、大差はありません。
学び直し経験者や将来おこないたいと思っている人と、おこなうつもりはない人との間で大きく差がみられたのは、「長く働き続けるためには、学び直しが必要である」と「長く働き続けるために学び直しをしたい」です。
学び直しをおこなうつもりがない人でも、出来る限り現在の会社で働き続けたいと思い、現在の仕事に前向きに取り組んでいる人は少なくありませんが、「長く働き続けること」と「学び直しをすること」が意識として結びついておらず、長く働き続けるにあたり学び直しの必要性を感じていない人が多いようです。
なぜ学び直しをしていないのか(将来的に学び直しをしようと思っている人)
「学ぶための時間がない」が47.9%で第1 位。次いで「学ぶための費用がない」が40.3%、「どこで教育を受けたらいいのかわからない」が32.2%。
学び直しを「将来おこないたい」という人について、学び直しをしていない理由をみたものが図表3です。「学ぶための時間がない」が47.9%、「学ぶための費用がない」が40.3%であり、時間や費用といった物理的な理由から実施していないという人が多くを占めています。
次いで、「どこで教育を受けたらいいのかわからない」が32.2%、「どのような知識・技能が必要かわからない(何を学べばいいのかわからない)」が28.4%など、学び方がわからない人が約3割です。
こうした理由への回答割合は特に高い年代で比較的多く、「どこで教育を受けたらいいのかわからない」に50 代男性の36.5%、50 代女性も35.6%が回答しています。また50 代女性の35.6%が「どのような知識・技能が必要かわからない(何を学べばいいのかわからない)」と回答しています。将来的に学び直しをしたいという人が実際に行動に移せるようにするには、「時間」や「費用」面の対策のみでなく、学び直しの方法をわかるようにすることが重要と思われます。
なぜ学び直しをしていないのか(学び直しをおこなうつもりがない人)
「自分には関係ない」が33.3%で第1位。次いで「学ぶための時間がない」が28.5%、「学ぶための費用がない」が24.5%。
学び直しをおこなうつもりがない人の学び直しをしていない理由の1位は「自分には関係ない」(33.3%)です(図表4)。これに「学ぶための時間がない」(28.5%)や「学ぶための費用がない」(24.5%)が続いていますが、「学ぶことに関心がわかない」(15.3%)が4位となっています。
「時間」や「費用」面を理由に挙げる人もいますが、そもそも学び直しを自分事としてとらえておらず、学ぶ必要性も関心もないことを理由としている人も少なくないことが全体の傾向としてわかります。
学び直しをするために勤務先に期待すること
学び直し経験者と将来学び直しをおこないたい人は「情報提供」、おこなうつもりはない人は「昇進や昇給など処遇に反映してほしい」が第1位
実施状況別に学び直しをするにあたり、勤務先に期待することをたずねたところ、「特にない」の回答割合が学び直し経験者では男性14.7%、女性18.5%、将来おこないたい人では男性10.4%、女性17.3%といずれも2割以下ですが、おこなうつもりはない人では男性64.7%、女性57.7%を占めていました(図表省略)。学び直しをおこなうつもりはない人では6割前後が特に期待することはないとしていますが、残りの約4割は「期待すること」を回答しており、その具体的内容が、学び直しに消極的な人々のインセンティブにつながる一つのヒントを示すものと考えられます。
期待することが「特にない」と回答した人を除いて、期待することの具体的な内容を、男女それぞれ学び直しの実施状況別にみたものが図表5です。男女ともに、学び直し経験者と将来おこないたい人では「社員が職業能力開発をしやすいように、教育機関や内容についての情報を提供してほしい」(以下「情報提供」)、「社員に必要な教育訓練のプログラムを教え、計画的に育成をしてほしい」(以下「計画的育成」)、「職業能力開発のための費用を援助してほしい」(以下「費用援助」)を回答している人が多いです。
他方、おこなうつもりはない人は、男女ともに「職業能力開発の成果に応じて、昇進や昇給など処遇に反映してほしい」(以下「処遇に反映」)が1位であり、学び直し経験者などが上位に挙げた「情報提供」や「費用援助」を上回る回答割合となっています。学び直しに関心がなく、自分事と捉えていない人には、学び直しによる成果を昇進や昇給など「処遇に反映」させることが、学び直しをする一つのインセンティブになるということが示されました。
≪研究員のコメント≫
人生100 年時代に向け、長く働くことで生計を維持するため、AI(人工知能)など技術の進展に対応し、新しい技術や知識と共存することを模索しなければならないとされています。しかしながら本調査では、自ら学び直しをしている人は少数派であり、学び直しをおこなうつもりはないと回答した人が、調査対象である正社員男女の約半数を占めました。
ただし就業意識をみると、学び直しをおこなうつもりはないという人も、学び直し経験者と同様、自分の仕事にやりがいを感じており、現在の職場で出来る限り働き続けたいと思っている人が少なくありません。学び直し経験者と異なるのは、学び直しをおこなうつもりがない人は「長く働き続けるためには学び直しが必要である」との認識が低い人が多いということです。学び直しをしても処遇に反映されるわけではないし、学び直しをしなくても働き続けることができると思っているため、学び直しに関心がなく自分事として捉えていない人が多いということが推察されます。
他方、情報技術の進展と人口構造の変化に対応し、厳しい国際競争の中で生き抜くには人材能力を高め、労働生産性を向上させることの必要性を認識している企業は多いです。企業にとっても社員の職業能力の開発・強化は課題であるとされています。したがって、これからは「長く働き続ける、ないし生産性を高めるためには学び直しが必要である」という認識を、働き手と企業の双方が持つことが求められます。その際、まずは企業から社員に求めるキャリアやそのために必要な職業能力を示し、学び直しの必要性を伝えることが重要です。その上で、学ぶ意欲がある人々には情報提供や相談、教育費用などのサポートを強化することが必要ですが、他方、学び直しに消極的な人々については、学んだ成果を昇進や昇給など処遇に反映させることが一つのインセンティブになるということも示されました。
なお今回は、学び直しの実施状況を踏まえ、学び直しをしていない人に焦点を当て、学び直しの壁となっている意識などについてみてきましたが、学び直しを普及させるための具体的方法や社会的支援のあり方については次稿で論じていくことといたします。
株式会社 第一生命経済研究所 (ライフデザイン研究部 主席研究員 的場康子)
お問い合わせ先 ㈱第一生命経済研究所 調査研究本部 ライフデザイン研究部 広報担当(津田・井川) TEL.03-5221-4772 FAX.03-3212-4470 【URL】http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/ldi