キャリアアップのための転職が人々の能力開発のモチベーションとなる
「ライフデザイン白書」調査より

 第一生命ホールディングス株式会社(社長 稲垣 精二)のシンクタンク、株式会社第一生命経済研究所(社長 丸野 孝一)では、約17,000人を対象に「ライフデザイン白書」調査を実施しまた。今回、同調査の中から、キャリアアップを意識した転職意向などについて分析を行い、その結果がまとまりましたので、ご報告いたします。

 本リース は、 当研究所ホームページにも掲載しています。
URL http://group.dai-ichi-life.co.jp/cgi-bin/dlri/ldi/total.cgi?key1=n_year

≪調査結果のポイント≫

キャリアアップを意識して転職を希望している人
●「キャリアアップのために転職したい」と思っている人は男性31.6%、女性29.6%

キャリアアップを意識した転職を考えている人の能力開発意欲
●「キャリアアップのために転職したい」と思っている人では、男女ともに8割以上が「仕事を通じて自分の能力を高めたい」と思っている

現在身につけていると自覚している能力
●「キャリアアップのために転職したい」人では、男性58.6%、女性45.7%が「専門分野における知性・技術・技能」を身につけていると回答

今後、身につけたい能力、伸ばしたいと思う能力
●男女ともに「専門分野における知識・技術・技能」「英語などの語学力」「人脈・ネットワーク」が多い

一度仕事を辞めると、自分の望むような再就職は難しい
●「一度仕事を辞めると、自分の望むような再就職は難しい」と思っている人は、男性67.0%、女性65.1%

≪調査の背景≫

 2017 年3月、政府の「働き方改革実現会議」は「働き方改革実行計画」を決定しました。今まさに働き方改革が現在進行形で進められています。

 例えばわが国は、ライフステージの変化に合わせてワークライフバランスを確保し、柔軟に働きたいという人のニーズに応えるために、多様な働き方の推進を目指しています。そのために、短時間正社員制度や在宅勤務制度などを導入して、時間や場所を柔軟に選択して働くことができる環境の整備が進められています。しかし必要な対策はこればかりではありません。転職や再就職がしやすい労働環境を確立することができれば、働く人一人ひとりが自らのキャリアデザインにもとづいた働き方を進めることができます。

 つまり、多様な働き方の実現には、育児や介護などで離職をしても再就職しやすいことや、自らのキャリア形成のために転職することが不利にならないことが重要だと思われます。

 当研究所では従来から多様な働き方の実現に向けた調査研究を進めてきましたが、本リリースでは、キャリアアップを意識した転職に注目し、2017 年1月に実施した「ライフデザイン白書」調査により分析を行いました。これにより、労働移動の促進が働く意欲の向上に与える影響などについて考察し、転職しやすい社会の実現のための課題を示します。

≪調査の概要≫

 使用するデータは当研究所が2017 年1月に実施した「ライフデザイン白書」調査です(調査名:「今後の生活に関するアンケート調査」)。同調査は人々のライフデザインや生活意識についてたずねており、その結果は1995 年から「ライフデザイン白書」として発行されています。第9回目にあたる今回の調査は「『人生100 年時代』のライフデザイン-団塊ジュニア世代から読み解く日本の未来 ライフデザイン白書2018」(東洋経済新報社)として2017 年10 月13 日に出版されました。

働く人々の転職意向と能力開発意欲
(画像=第一生命経済研究所)

 本リリースでは同調査のうち、働いている人を分析対象としました。分析対象者の就業形態は以下の通りです。

働く人々の転職意向と能力開発意欲
(画像=第一生命経済研究所)

キャリアアップを意識して転職を希望している人

「キャリアアップのために転職したい」と思っている人は男性31.6%、女性29.6%

働く人々の転職意向と能力開発意欲
(画像=第一生命経済研究所)

 「キャリアアップのために転職したい」と思っている人(「そう思う」と「どちらかといえばそう思う」の合計、以下「転職したい人」)は男性31.6%、女性29.6%でした(図表1【性・年代別】)。男女を問わず働いている人々の3割前後がキャリアアップのための転職を希望しています。年代別にみますと、男女ともに若い人ほどそのように思っている人の割合が高いです。特に20 代では5割前後、30 代では約4割の働く人々が、前向きな転職を希望しています。

 これを企業規模別にみますと、男性で「転職したい人」の割合は「9人以下」並びに「国、地方公共団体」は2割台ですが、10 人以上ではあまり規模による差はなく3割台で推移しています(図表1【性・企業規模別】)。女性で「転職したい人」の割合は100~299 人の企業まで規模が大きいほど高くなりますが、100 人以上では約35~36%で横ばいです。どちらかというと男性よりも女性の方が、企業規模による転職意向の違いがみられます。

キャリアアップを意識した転職を考えている人の能力開発意欲

「キャリアアップのために転職したい」と思っている人では、男女ともに8割以上が「仕事を通じて自分の能力を高めたい」と思っている

働く人々の転職意向と能力開発意欲
(画像=第一生命経済研究所)

 「仕事を通じて自分の能力を高めたい」と思っている人(「そう思う」と「どちらかといえばそう思う」の合計)は、男女ともに6割以上です(図表2)。働いている人の多くが前向きに仕事に取り組んでいることがわかります。

 中でも、「キャリアアップのために転職したい」と思っている人(図表2【転職したい】における「そう思う」)では、男女ともに8割以上が「仕事を通じて自分の能力を高めたい」と思っています。概ね、意欲的に働いている人が多いですが、キャリアアップを意識した転職を考えている人は特に、仕事を通じて自分の能力を高めたいと思っている人が多いようです

現在身につけていると自覚している能力

「キャリアアップのために転職したい」人では、男性の58.6%、女性の45.7%が「専門分野における知識・技術・技能」を身につけていると回答

働く人々の転職意向と能力開発意欲
(画像=第一生命経済研究所)

 具体的にどのような能力を身につけたいと思っているのでしょうか。

 まず、現在身につけていると自覚している能力についてたずねたところ、「特にない」と回答した人は男性32.8%、女性50.6%でした(図表3)。働いている女性の約半数は能力を身につけていると思っていないようです。

 現在身につけている能力の具体的な内容は「専門分野における知識・技術・技能」が男性54.9%、女性39.1%で最も高いです。次いで男性は「管理職としてのマネジメント能力」「法律・経済・経営学などビジネス全般における基礎知識」など、女性は「人脈・ネットワーク」「英語などの語学力」が続いています。

 次にキャリアアップ意識別にみますと、「仕事を通じて自分の能力を高めたい」や「キャリアアップのために転職したい」と思っている人は、「そう思わない」と回答した人に比べ「特にない」の回答割合が低く、何らかの能力を身につけている人が多いです。特に「転職したい人」では、「専門分野における知識・技術・技能」を男性の58.6%、女性の45.7%が身につけていると回答しています。キャリアアップを意識した転職を希望している人は、専門的能力に裏打ちされた自信がある人が多いようです

今後、身につけたい能力、伸ばしたいと思う能力

男女ともに「専門分野における知識・技術・技能」「英語などの語学力」「人脈・ネットワーク」が多い

働く人々の転職意向と能力開発意欲
(画像=第一生命経済研究所)

 今後、身につけたい能力、伸ばしたいと思う能力をたずねた結果をみますと、男女ともに「特にない」が3割台であり、働いている人の多くは能力開発意欲があります(図表4)。具体的にどのような能力を身につけたいと思っているかをみますと、男女ともに「専門分野における知識・技術・技能」「英語などの語学力」「人脈・ネットワーク」が多いです。

 キャリアアップ意識別にみますと、特に「転職したい人」は男女ともに能力開発に積極的であり、「特にない」と答えた人は17%台です。具体的な内容をみますと、「転職したい人」の方が「能力を高めたい人」よりもいずれの能力についても回答割合が男女とも高いです。全般的に仕事を通じて能力を高めたいと思っている人はそうでない人よりも能力開発意識が高いですが、それ以上に、転職という目的意識をもってキャリアアップを考えている人の方が、漠然と能力を高めたいという人よりも、身につけたい能力をさらに具体的に考えていることがわかります

一度仕事を辞めると、自分の望むような再就職は難しい

「一度仕事を辞めると、自分の望むような再就職は難しい」と思っている人は、男性67.0%、女性65.1%

働く人々の転職意向と能力開発意欲
(画像=第一生命経済研究所)

 「一度仕事を辞めると、自分の望むような再就職は難しい」と思っている人(「そう思う」と「どちらかといえばそう思う」の合計)は、男性67.0%、女性65.1%であり、男女ともに6割以上が再就職の難しさを感じています(図表5【性・年代別】)。特に男女ともに年代が上がるほど回答割合も高くなり、40 代、50 代では約7割を占めています。再就職の難しさを多くの人が感じていることが、転職の一つの壁になっているものと思われます*1。

 ちなみに、転職をしたことがある人とない人の間で「一度仕事を辞めると、自分の望むような再就職は難しい」への回答割合を比較してみると、転職経験ありの人は65.3%であるのに対し、転職経験なしの人は68.1%であり、転職したことがない人の方が難しさを感じている人が若干多いです(図表5【転職経験の有無・年代別】)。転職を経験したことがある人も全体の6割以上が再就職は難しいと答えているものの、一度でも転職をすると精神的なハードルが低くなるのか、転職経験がない人に比べ全年代を通じ、再就職の難しさを感じる人が少なくなっています

*1 ただし60代になると再就職の難しさを感じている人の割合が低下しています。その要因の一つは就業形態の分布が関連していると思われます。50代以前に比べ60代は正社員が少なく、アルバイト・パートなどの非正社員や自営業・自由業が多いです(2ページの就業形態)。非正社員や自営業・自由業の人々は再就職の難しさを感じている人が相対的に少ない(図表省略)ため、そのような就業形態の人が多い60代では回答割合が低くなっていると思われます。

≪研究員のコメント≫

 以上の結果から、キャリアアップのために転職しようとしている人は、専門性、語学力、人脈などを伸ばすことを意識して働いている人が多いことがわかりました。転職が人々の能力開発のモチベーションとなるならば、魅力ある仕事に移りやすい社会に変えていくことによって、能力開発意欲の高い労働者が増えることが期待できます。

 しかしながら現状、「一度仕事を辞めると、自分の望むような再就職は難しい」と思っている人が男女ともに6割以上にのぼっており、職を変える難しさを多くの人が感じています。

 これからわが国は「人生100 年時代」を迎えます。労働寿命の長期化に備え、働く人一人ひとりがライフステージの変化に合わせてキャリアデザインをしながら働くことが求められています。そのためには、自分の生活にあった働き方を求めて転職するという道を誰もが選びやすくするなど、働き方の多様化を進めていくことが必要です。

 本リリースでは、キャリアアップを意識した転職に注目しました。転職には、このほかにも、地元で働きたい、家族との生活を重視したいなど、さまざまな動機があると思われます。場合によっては、転職によってハードワークになったり、職位や賃金が下がったりすることもあるでしょう。このように新たなチャレンジのためにリスクを甘受することも含め、一人ひとりが主体的に職業生活をデザインしていくことが必要です。

 わが国は今、働き方改革の一環として労働移動の促進に取り組んでいます。そのためには、中途採用市場の活性化が求められますが、本調査結果から、まずは、働く人一人ひとりが自らの職業人生を考え必要な知識や技能を身につけることが必要であることが示唆されました。自分が望む仕事に就きやすくなり、人々が能力を最大限発揮して前向きに働けるようになれば、労働生産性が高まり、わが国の経済成長にも寄与するでしょう。こうした社会を実現するためにも、個人の職業能力の向上を支援するような環境整備が必要と思われます

(提供:第一生命経済研究所

株式会社 第一生命経済研究所
研究開発室 上席主任研究員 的場康子


働く人々の転職意向と能力開発意欲
(画像=第一生命経済研究所)

㈱第一生命経済研究所 ライフデザン研究本部
研究開発室 広報担当( 津田 ・関)
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