定年を迎える女性の増加

 これまでは定年まで働き続ける女性が少なかったが、今後は女性の活躍推進に伴い、男性のみでなく女性も「定年」を迎える人が多くなることが見込まれる。

 本稿では、当研究所が定年退職前後の男女を対象に実施したアンケート調査をもとに、男女の違いに注目しながら、定年退職前後の人々は定年を迎えるにあたり生活の変化をどのように捉え、定年退職後どのような生活をしたいと思っているかについて考える。

将来の不安を感じているか

 定年退職前後の人々は将来の生活をどのように感じているか。男女ともにいずれの年代も「特に不安を感じていない」と回答した人は3割程度である(図表1)。残り約7割は何らかの不安を感じているということだ。具体的には、「生活費が少なくて不安である」と回答した人が男女ともに4割前後であり、収入面での不安を抱いている人が多いことがわかる。

定年退職前後の生活の変化
(画像=第一生命経済研究所)

 次いで、「できるだけ長く働きたいが、体力的に働き続けることができるか不安である」と「できるだけ長く働きたいが、会社が雇ってくれるかどうか不安である」を合わせると、「できるだけ長く働きたい」とする回答割合が男女ともに約2割となっている。性別にみると、両者を合わせた「できるだけ長く働きたい」への回答は、いずれの年代も女性のほうが男性を上回っている。女性の方が高齢になっても働く意欲が高く、働き続けることが可能かどうかを不安に思っている人が多いことがわかる。

定年退職前後での生活や意識の変化

 「定年」という人生の節目を経験した人は、その前後で生活にどのような変化を感じているだろうか。

 定年退職を経験した人に、生活や意識の変化をたずねたところ、「長年勤め上げたという達成感を感じる」や「自分らしい生活を取り戻した」といった項目が男女ともに高く、半数前後が回答している(図表2)。達成感と共に「自分らしい生活」を取り戻した安堵感を多くの人が感じているようだ。

定年退職前後の生活の変化
(画像=第一生命経済研究所)

 性別にやや差がみられたのは、「生活のリズムが取りにくい」や「定年後、どのように1日を過ごしてよいかわからない」への回答割合が男性に多く、「孤独感を感じる」が女性に多い。男性の方が会社を中心に生活してきため、時間の使い方の見直しに戸惑う人が多いようだ。女性の場合は、婚姻状況が関連している可能性がある。本調査では、定年まで働き続けてきた人のうち未婚者の割合は男性よりも女性のほうが高い。未婚者の場合、人とのつながりを職場に求める傾向があるため、定年と共に人とのつながりも薄くなってしまう可能性もある。そのような未婚者が女性に多いため、「孤独感を感じる」への回答割合に差が見られたと思われる。

定年退職後の望む生活

 定年前後の人々は、定年退職後、どのような生活をしたいと思っているか。

 男女ともに「趣味の活動を楽しみたい」が最も多く、8割以上が回答している(図表3)。次いで「自分の親の介護や世話をしたい」や「体力維持のために、スポーツクラブに通うなど、スポーツを楽しみたい」が男女ともに5割以上である。多くの人は、定年退職後、趣味や体力維持のための活動をしたいと思っている。

定年退職前後の生活の変化
(画像=第一生命経済研究所)

 また、「介護」に直面している人も多いようだ。自分の親の介護のみならず、「配偶者の介護や世話をしたい」にも4割弱が回答している。さらに、「自分の子どもの子育てを手伝いたい」という人も多く、女性では51.6%と半数以上が回答している。定年退職後は介護や孫育てなど、家族の世話のために時間を使いたいという人が、男女ともに少なくないことがわかる。

 他方、地域における社会貢献活動にも目を向けようとしている人もいる。「子育て家庭を支援する仕事をしたい」は男女ともに2割弱、「介護支援の仕事をしたい」は約1割であるが、「子育てや介護以外の分野で社会貢献活動を行いたい」という人は男女ともに約3割である。今後、わが国は高齢化が進み、生産年齢人口が減少するとされている中で、介護や育児の分野のみならず、国際交流、環境問題など地域の課題解決のために活躍できる人材も求められている。男女ともに働く意欲のある人々がこうした社会貢献の分野でも活躍できるよう、地域における受け皿作りも必要と思われる。(提供:第一生命経済研究所

主席研究員 的場 康子
(ライフデザイン研究部 まとば やすこ)