目次

1.共働きで子育てをする社会へ
2.共働き世帯の家事や子育てにおける役割分担
3.配偶者とのコミュニケーションと家事・子育て分担との関係
4.経済的にも家事等の家庭役割においても夫婦が自立した存在へ

要旨

①わが国は今、女性の活躍推進を掲げ、結婚や出産をしても働き続けることを後押しする社会を目指している。こうした中、これから増えるであろう「子どもがいる共働き世帯」に注目し、夫婦関係を表す2つの側面、家事や子育ての分担状況と夫婦間のコミュニケーションの状況について分析を行い、これからの共働き社会における夫婦のあり方について考える。

②家事分担の状況をたずねた結果をみると、「ほぼ全て妻が行い、夫はしない」と「妻が7~8割、夫が2~3割」の合計が男性70.8%、女性86.4%である。子育て分担の状況についても上記の項目が、男性65.0%、女性75.3%である。子育てと両立しながら共働きをしている夫婦であっても、妻の方が家事や子育てを負担していると思っている人が男女ともに多数を占めている。

③配偶者との会話の状況別に家事の分担状況をみると、配偶者とよく会話をしている女性は、家事を「ほぼ全て妻が行い、夫はしない」の回答者が27.3%であるが、あまり会話をしない人では67.3%であった。男性も同様の傾向であり、夫婦間でよく会話をしている人の方が、妻側に家事や子育ての負担が極端に偏っていると思っている人が少ない。

④共働き夫婦にとって、家事や子育てなどの役割の分散化は子どもの年齢にかかわらず、すべてのライフステージにわたって仕事と家庭生活の両立のための一つの条件である。来るべき共働き社会のためには、両立支援策の充実のみならず、夫と妻が経済的にも家事などの家庭役割においても真に自立した存在としてパートナーシップを構築することができるよう、一人一人がそれぞれの立場で、働き方や夫婦のあり方などを見直すことが必要であろう。

キーワード:女性活躍推進、共働き夫婦、ライフデザイン白書

1.共働きで子育てをする社会へ

 わが国は今、女性の活躍推進を掲げ、結婚や出産をしても働き続けることを後押しする社会を目指している。

 実際、一般的に女性が職業をもつことについてどのように考えるか、人々の意識をみても、「子どもができても、ずっと職業を続ける方がよい」の回答割合が2016 年には54.4%と半数以上を占めている(図表1)。1992 年には「子どもができたら職業をやめ、大きくなったら再び職業をもつ方がよい」の回答割合が42.7%と最も高かったが、「子どもができても就業継続」が「子どもが大きくなったら再就職」を上回り過半数となった。この背景には、男女ともに厳しい雇用情勢や経済環境などがあり、夫婦で家計を支えることの必要性を感じていることもあると思われるが、男女ともに自分の持てる力を発揮して活躍できる社会が望ましいとの思いもあるのではないか。

これからの共働き社会における夫婦のあり方
(画像=第一生命経済研究所)

 こうした人々の意識や社会の変化により、子育てをしながら共働きをする人々が増えれば、その夫婦のあり方にも変化が求められる。これまでの男女の役割が固定化された夫婦関係から、家事や子育て等においても経済的にも互いに自立した夫婦関係へと変わっていく必要がある。

 このような問題意識から本稿では、これから増えるであろう「子どもがいる共働き世帯」に注目し、夫婦関係を表す2つの側面、家事や子育て等の分担状況と夫婦間のコミュニケーションの状況について分析を行い、これからの共働き社会における夫婦のあり方について考える。

 使用するデータは当研究所が2017年1月に実施した「今後の生活に関するアンケート」である(図表2)。同調査は人々のライフデザインや生活意識についてたずねており、その結果は1995年から「ライフデザイン白書」として発行されている。第9回目にあたる今回の調査は「『人生100年時代』のライフデザイン-団塊ジュニア世代から読み解く日本の未来 ライフデザイン白書2018」(東洋経済新報社)として出版された。

これからの共働き社会における夫婦のあり方
(画像=第一生命経済研究所)
これからの共働き社会における夫婦のあり方
(画像=第一生命経済研究所)

 本稿では同調査のうち、子どもがいる共働き世帯を分析対象とした(図表3の太枠)。なお、妻がパート・アルバイトとして就業時間の柔軟性の高い働き方をしている場合も本来は共働き世帯であるが、今回は分析の便宜上「妻パート世帯」とし、夫婦ともに正社員同士が多く含まれる「共働き世帯」とは区別している。

 本調査の回答者の属性をみると、既婚者(配偶者がいる人)のうち、子どもがいる共働き世帯は男性では17.8%、女性では12.4%である(図表3)。性・年代別にみると、子どもがいる共働き世帯は、男女とも60代を除き各年代を通じて、男性では20%前後、女性では15%前後となっている。

 子どもがいる共働き世帯の末子の学齢を示したものが図表4である。男女ともに20代、30代は末子が未就学児という人が大多数であり、40代になると末子が小中学生という人が約半数、50代以上になると末子が短大・大学・大学院生や就学終了という人が過半数を占める。

これからの共働き社会における夫婦のあり方
(画像=第一生命経済研究所)


2.共働き世帯の家事や子育てにおける役割分担

(1)家事や子育て分担の状況
 共働きで子育てをするためには、母親のみならず父親も家事や子育てを担う必要がある。子どもがいて共働きをしている人は、夫婦で家事や子育てをどのように分担しているであろうか。

 まず、家事分担の状況をたずねた結果をみると、「ほぼ全て妻が行い、夫はしない」と回答した人は男性18.0%、女性34.8%、「妻が7~8割、夫が2~3割」の回答者(男性52.8%、女性51.6%)と併せると、男性の7割以上、女性の8割以上が妻の方が多く家事を負担していると思っている(図表5)。子育てをしながら共働きをしている夫婦であっても、家事の負担が妻に偏っていると認識している人が多い。

  性・年代別にみると、男性のうち20代、30代の若い年代では妻の方が多く家事負担をしているとの回答割合が相対的に低く、「夫婦で半々」と回答している人が3割を超えている。若い男性の間では、家事の分担意識が広まっているようだ。他方、女性も年代が若い人ほど「夫婦で半々」と回答した人の割合が高い傾向はみられるものの、20代女性でも16.5%と2割にも満たず、同年代の男性との分担意識のギャップがある。若い男性を中心に、家事分担していると自己評価をしている人が多いが、女性はそのように思っている人はあまり多くない。こうした分担意識の男女差は、男性が行う家事内容及び頻度が、女性が期待しているレベルのものではなく、「夫婦で半々」とは女性には認められていないということも背景にあるのかもしれない。

これからの共働き社会における夫婦のあり方
(画像=第一生命経済研究所)

 次に子育て分担の状況をたずねた結果をみると、「ほぼ全て妻が行い、夫はしない」と回答した人は男性11.5%、女性20.2%、「妻が7~8割、夫が2~3割」の回答者(男性53.5%、女性55.1%)を併せると、男性の6割以上、女性の7割以上が妻の方が多く子育てを担っていると思っている(図表6)。家事分担と同様、子育てと両立しながら共働きをしている夫婦であっても、妻の方が子育てを担っていると思っている人が男女ともに多数である。ただ、家事分担の場合よりも「夫婦で半々」の回答割合が男女ともに高い。夫婦で分担していると思っている人は、家事よりも子育ての方が男女ともに多いということだ。

 性・年代別にみると、男性のうち20代~40代では「夫婦で半々」と回答している人が3割を超えている。特に男性の20代~30代は家事分担においても約3割が「夫婦で半々」と回答しており、若い男性の間では家事や子育ての分担意識が広がりつつあることがうかがえる。他方、女性の回答をみると「夫婦で半々」と回答した女性は22.9%であり、男性の「夫婦で半々」の回答割合(32.3%)よりも低い。女性で男性の子育て分担に対する評価が厳しい点では家事の場合と同様である。子どもの成長とともに「子育て」の内容は異なる。多くの人にとって、未就学児を育てているときが最も夫婦が協力して家事や子育てを行うことが必要な時期であろうが、20代、30代の女性の「夫婦で半々」の回答割合はそれぞれ17.4%、24.9%である。他方、子どもが小さい間は子育て重視の生活を希望している女性もおり、それを反映して子育て分担をしている家庭もあることから、必ずしも「夫婦で半々」が全ての夫婦にとって最適な分担であるとは限らない。これらを考慮し、各家庭がともに納得感のある分担で、協力して子育てができるようになることが望まれる。

これからの共働き社会における夫婦のあり方
(画像=第一生命経済研究所)

(2)優先するのは仕事か家庭か
 共働き世帯でも、家事や子育ての分担が妻の方に偏っていると認識している人が多いのが現状であるが、これを踏まえ、仕事と家事などとの両立に対する意識をみる。

 「妻は仕事よりもまずは家庭を優先させるべきだ」という意見に対し肯定的な回答割合は男性45.8%、女性48.0%で女性の方が若干高いが大差はない(図表7)。性・年代別にみると、特に女性の20代の肯定割合が61.8%と他の年代に比べ最も高い。女性の就業が進む中でも、妻は家庭を優先すべきであるという意識をもつ人が男女とも半数近くを占めている。しかも20代の女性でこの意識が強い。これは、「妻だから家庭を守るべき」という旧来の固定観念というよりも、仕事を持っていたとしても、家庭をベースにバランスをとって働きたいという新しい考えの表れではないかと思われる。

 他方、「夫は仕事よりもまずは家庭を優先させるべきだ」という意見に対する肯定回答の割合は男性33.2%、女性24.6%であり、男性の方が女性より高い(図表8)。特に男性は仕事優先の意識を持ちがちであるが、家庭を優先すべきという男性も30代以上で3割前後、20代では約半数を占めている。特に20代で子どもがいる人は未就学児を育てている人が多く、子どもに手がかかる生活を送っていることも、家庭を優先すべきとの意識の背景にあると思われる。この意識が家事・子育て分担に直接関連しているとはいえないものの、男性においても家庭志向が浸透しつつあることの証左ではないだろうか。

これからの共働き社会における夫婦のあり方
(画像=第一生命経済研究所)

3.配偶者とのコミュニケーションと家事・子育て分担との関係

(1)配偶者と会話や相談しているか
 これまで子どもがいる共働き世帯の家事や子育ての分担状況などについてみてきたが、次は夫婦関係のもう一つの側面であるコミュニケーションの状況についてみる。

 まず、「配偶者とはよく会話をしている」と答えた人は男性66.5%、女性71.1%である(図表9)。女性の方が夫とよく会話をしていると答えた人が若干多いが大差はない。性・年代別にみると、よく会話をしていると答えた人の割合が、男女ともに50代までは年代が上がるにつれて低くなり、60代になると上昇している。

 また、「配偶者とは困ったときに相談しあっている」という人は、男性65.1%、女性69.5%である(図表10)。性・年代別にみても、男女ともに全年代を通じてあまり大きな差はないが、「会話」と同様、相談しあっているという人の割合は50代まで緩やかに低下し、60代になると再び上昇している。

 子どもが大きくなるにつれて子どもを通じたネットワークが増えたり、また年齢が上がるとともに仕事上の責任も変わったりするなど、家族がそれぞれの立場で活動を広げる中で、夫婦のコミュニケーションも減るようである。むしろ、こうした時期こそ夫婦が向き合う時間を作ることも必要であろう。そして子どもが成長した60代になると、再び夫婦が向き合う時間が増えるようで、会話や相談しあう人の割合が上昇している。

これからの共働き社会における夫婦のあり方
(画像=第一生命経済研究所)

(2)コミュニケーションと家事・子育てなどの分担状況との関連
 続いて、夫婦間コミュニケーションの状況と家事や子育ての分担状況との関連をみる。

 配偶者との会話の状況別に家事分担の状況をみると、男女ともに、よく会話をする人の方があまり会話をしない人よりも「ほぼ全て妻が行い、夫はしない」の回答割合が低い(図表11)。特に女性については、あまり会話をしない人では67.3%が家事分担を「ほぼ全て妻が行い、夫はしない」と回答しており、よく会話をする人の2倍以上の回答割合である。子育て分担の状況についても同様であり、男女ともに、あまり夫婦で会話をしない人の方が分担がなされていないと思っている人が多い。特に女性でその傾向が強く、あまり会話をしない人では60.1%が子育て分担を「ほぼ全て妻が行い、夫はしない」と回答しており、よく会話をする人の4倍近くの回答割合である。

 配偶者との相談の状況別に家事や子育ての分担状況をみても同様の傾向であり、男女ともに、相談しあっている人はあまり相談しない人よりも「ほぼ全て妻が行い、夫はしない」への回答割合が低い(図表12)。

 夫婦間でよく会話をしたり相談しあったりしている人の方が、妻側に家事や子育ての負担が極端に偏っていると思っている人が少ない。夫婦間のコミュニケーションと家事や子育ての分担には相関関係がみられることから、夫婦間コミュニケーションが家事や子育ての分担を促進させる一つの方法であるとの見方もできるのではないだろうか。

これからの共働き社会における夫婦のあり方
(画像=第一生命経済研究所)
これからの共働き社会における夫婦のあり方
(画像=第一生命経済研究所)

4.経済的にも家事等の家庭役割においても夫婦が自立した存在へ

 以上、これから増えるであろう「子どもがいる共働き世帯」に注目し、夫婦関係を表す2つの側面、家事や子育ての分担状況と夫婦間のコミュニケーションの状況、及び両者の関連について分析を行った。家事や子育ての分担状況については、共働きであるが、家事にしても子育てにしても妻の方が多く負担している人が多い。妻に家事や子育ての負担が偏っている状況が続くと、妻の仕事の継続は難しくなる場合もある。

 男性自身も、若い人を中心に「家庭を優先すべき」と思っている人が一定数いることを踏まえると、多くの人が、その夫婦にとっての最適な分担によって夫婦で協力し、仕事と家庭を両立できるようになることが望まれる。

 そのためには、まず、男性がもっと家事や子育てなどを担えるよう、働く人々が共に協力し職場環境を変えることが重要である。男性が家事や子育てのために早めに帰宅したり休んだりしたいと思っても、それができにくい雰囲気であれば、家事や子育てなどを担うことができない。現在も働き方改革により、長時間労働の解消や有給休暇の取得促進などの取組が行われているが、こうした取組の定着とともに、働く人々が、上司、同僚などそれぞれの立場で、男性社員も家事や子育ての担い手であることを意識し、お互いに理解しあえる職場づくりに変えていくことが必要である。

 もう一つ重要なことは、夫婦間のコミュニケーションによって納得感のある分業が進むことである。夫婦でよく会話をしたり、相談しあったりしている人では、家事や子育てを夫婦で分担しているという意識を持っている人が多い。職業生活を続けている間には、仕事の繁閑もあるし、立場によっては責任の大きな仕事を任されるときもある。夫婦がともに家事と子育てを両立させるには、こうした自分の仕事の状況などを伝え、お互いに理解しあい、相手の仕事の量や責任を考慮しながら、納得感をもって家事や子育ての分担ができることが望ましい。

 調査結果では、40代、50代の共働き夫婦はコミュニケーションが比較的少なく、実際、妻に家事や子育てなどが偏っている傾向がみられた。小さな子どもを育てている間は夫婦で家事や子育てを協力し、それぞれの職業生活を送る必要性があるが、子育てがひと段落した後も家事などの家庭役割は続いていく。子どもが小さい間はどちらかというと子育てに重心を置いて働いていた女性でも、子どもが育った後は仕事にシフトする生活を選択する道も開かれている。家事などの家庭役割の分散化は、共働き夫婦にとって、子どもの年齢にかかわらず、すべてのライフステージにわたって仕事と家庭生活の両立のための一つの条件である。したがって、来るべき共働き社会のためには、両立支援策の充実のみならず、夫と妻が経済的にも家事などの家庭役割においても、真に自立した存在としてパートナーシップを構築することができるよう、一人一人がそれぞれの立場で、働き方や夫婦のあり方などを見直すことが必要であろう。(提供:第一生命経済研究所

上席主任研究員 的場 康子
(研究開発室 まとばやすこ)