医師は定年後も開業医や非常勤として活躍できる職業であるため、適切な定年退職時期が明確ではありません。日本では50代で内科へ転科する外科医が多いようですが、国によって医師の定年退職に対するアプローチは異なります。米国では、平均的な定年退職年齢を超えても現役として活躍し続ける医師が増えているようです。

米国の「理想の引退年齢」は68歳?

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(写真=StockLite/Shutterstock.com)

連邦準備制度のデータによると、米国における定年退職年齢の中央値は公的年金の支給開始年齢である62歳。平均は 59.88歳です。

ところがアメリカ家庭医療学会の調査からは、2010~2014年に退職した医師 の平均年齢は、専門分野や勤務地に関係なく65歳だったことが明らかになっています。またコンプヘルスが2017年に実施した調査では、50歳以上の現役医師400人が選んだ「理想の引退年齢」の平均は68歳だったそうです。

なぜ米国の医師は引退よりも働き続ける道を選ぶのでしょうか。65歳を超えても医師として働き続けたい理由として、回答者の58%は「医学の実践が楽しい」、56%が「仕事の社会的側面が楽しい」、50%が「現在の生活スタイルを維持したい」と答えています。つまり、医療分野や社会に多大な貢献をしているという充実感が、のんびりした年金生活に勝るのです。

医師は他の職業よりも、キャリアのスタートが遅いことも関係しているかも知れません。大学からインターンシップを経て、一人前の医師として働き出すまでに11~16年かかります。そのため、30歳を超えてから独り立ちする医師も珍しくありません。したがって、一般人のように62歳で退職すると、キャリアの長さは随分短くなってしまいます。

「仕事への満足度」と「現役への執着心」は比例する?

様々な分野の医師の中で外科医が最も仕事への満足感が高く、88%が「仕事に満足」しており、72%が「退職せず、ずっと現役でいたい」と願っています。そのため、「定年退職する心の準備が出来ている」のは半分以下の40%で、「引退するのが楽しみ」なのは32%しかいません。「完全退職後の見通しは明るい」と答えたのは53%です。

仕事への満足度と、体力が続く限り現役で活躍したいという気持ちは比例するのかも知れません。

高齢退職・退職後の不安

高齢化社会にともない定年退職後も仕事を継続する人が増えていますが、老後の経済的不安がその理由であることも珍しくありません。しかし高所得の医師には該当しないようで、83%が「定年退職に向けて老後の貯蓄をしてきた」、70%が「確定拠出年金(401k)を利用している」、62%が「パーソナル・ファイナンシャルアドバイザーに相談している」と、着実に準備を進めています。

定年退職への葛藤はあるものの、多くの医師は老後、旅行や趣味にもっと時間を費やすことを楽しみにしています。

ほとんどの回答者にとっては「経済的な安定性(88%)」と「自由時間(85%)」が理想的な退職のカギとなる要素です。40%が何らかの任務やボランティアを通して社会に貢献し続けたいと考えています。

「いつまでも元気で働きたい」「早く引退したい」と医師にもいろいろな考え方があるでしょう。いずれにせよ、健康とお金の心配はしないで済むよう、早くから身体とお金の管理を始めておく必要があるのは医師も同じです。(アレン琴子、英国在住のフリーライター / d.folio