第一生命保険株式会社(社長 渡邉 光一郎)のシンクタンク、株式会社第一生命経済研究所(社長 矢島 良司)では、聴覚障がい者123 名、および聴覚障がい者と一緒に働く健聴者476名に対し、職場でのコミュニケーションに関するアンケート調査を実施し、そのうち、聴覚障がい者の職場でのコミュニケーション方法に関する希望とその伝達についての調査結果がこのほどまとまりましたのでご報告いたします。
ホームページ(URL:http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/ldi/ldn_index.html )にも掲載しましたので、併せてご覧ください。
≪調査結果のポイント≫
1.聴覚障がい者調査の結果
聴覚障がい者の職場での希望とその伝達状況 ● 聴覚障がい者は職場の健聴者に対し「筆談してほしい」(75%)をはじめコミュニケーション方法に関してさまざまな希望を持っているが、必ずしもそれを伝えていない。
聴覚障がい者が職場での希望を伝えた手段・伝えた結果 ● 健聴者に希望を伝えた聴覚障がい者の78%はコミュニケーションがしやすくなったと評価。
職場での希望を伝えることに対する聴覚障がい者の意識 ● 聴覚障がい者の94%は希望を「伝えることは大切」と認識する一方、過半数は「伝え方が難しい」「伝えても理解してもらえない」「伝えることには遠慮がある」とも思っている。
2.健聴者調査の結果
聴覚障がい者の職場での希望に関する健聴者の認知状況 ● 一緒に働く聴覚障がい者のコミュニケーション方法に関する希望を本人から聞いていない健聴者は過半数、知らない健聴者は35%。
聴覚障がい者の職場での希望に関する健聴者の認知希望 ● 一緒に働く聴覚障がい者のコミュニケーション方法に関する希望をもっと知りたい健聴者は34%。
聴覚障がい者の職場での希望を聞くことに対する健聴者の意識 ● 一緒に働く聴覚障がい者に対し、コミュニケーション方法に関する希望を「遠慮なく言ってほしい」と思う健聴者は85%。一方、「聞きにくい」「聞く機会がない」と思う健聴者も半数近い。
≪調査の実施背景≫
近年、企業で働く障がい者は増加しており、その就業環境を整えることの必要性は今後さらに高まると予想されます。障がい者のうち聴覚障がい者は、音声の情報の入手が難しいことなどから、職場でのコミュニケーションにさまざまな支障が生じていることがこれまでにも指摘されてきました。
そこで、企業等で働く聴覚障がい者と健聴者に対するアンケート調査(以下ではそれぞれを「聴覚障がい者調査」「健聴者調査」と表記)を実施し、その結果の一部を2014 年4月発行のNews Release「聴覚障がい者が働く職場でのコミュニケーションの問題」に掲載しました。今回は、職場でのコミュニケーションの問題を改善するためには、コミュニケーションに関する聴覚障がい者の希望をともに働く健聴者に伝えることが重要であるという観点から、それに関連する調査結果をご紹介します。
※本稿は、当研究所の季刊誌『Life Design Report』(Summer 2014.7)に掲載したレポート「聴覚障害者の希望を職場で伝えることの重要性」をもとに作成したものです。当該レポートは、ホームページ(http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/ldi/report/rp1407d.pdf )にて全文公開しております。
聴覚障がい者の職場での希望とその伝達状況
聴覚障がい者は職場の健聴者に対し「筆談してほしい」(75%)をはじめコミュニケーション方法に関してさまざまな希望を持っているが、必ずしもそれを伝えていない。
聴覚障がい者に対し、健聴者と仕事の話をする時や会合(打ち合わせ、会議、研修など)に参加する時に、健聴者にどのようなことをしてほしいか、またそのうちどのようなことをしてほしいと伝えたか質問しました。図表1でその結果をみると、してほしいと希望する割合は、「筆談してほしい」(74.8%)をはじめ7項目ではそれぞれ過半数を占めています。一方、健聴者に伝えた割合は、「筆談してほしい」(58.5%)と「口をはっきり動かしてほしい」(51.2%)以外の項目では半数未満です。
それぞれを希望する人に占める、伝えた人の割合(伝達率=図表1の右)をみると、「手話を覚えて使ってほしい」「会合に要約筆記者を呼んでほしい」では4割に達していません。これらは聴覚障がい者が希望していても伝えにくい事項といえます。
聴覚障がい者が職場での希望を伝えた手段・伝えた結果
健聴者に希望を伝えた聴覚障がい者の78%はコミュニケーションがしやすくなったと評価。
前頁で述べたいずれかのことを健聴者にしてほしいと伝えた聴覚障がい者111 人(「特にない」と答えた人・無回答の人以外)に対し、どのような手段で伝えたか質問しました。
その結果、図表2の通り「口頭で個別に話した」(68.5%)が最も多く、次が「メールで伝えた」(44.1%)となりました。
また、希望を伝えた結果、コミュニケーションがしやすくなったか質問しました。図表3の通り「しやすくなった」(21.6%)と「ややしやすくなった」(56.8%)を合わせると78.4%となります。希望を伝えた聴覚障がい者の多くは、その効果を感じていることがわかります。
なお、図表は省略しますが、希望を伝える時にどのような工夫をしたか、また、どのような伝え方が効果的だと思ったかを自由回答形式で質問した結果、口頭だけでなくメールで伝える、具体的・継続的に伝える、採用面接時や配属時、あるいはトラブル発生時などのタイミングで伝える、積極的に伝える、などの回答がありました。
職場での希望を伝えることに対する聴覚障がい者の意識
聴覚障がい者の94%は希望を「伝えることは大切」と認識する一方、過半数は「伝え方が難しい」「伝えても理解してもらえない」「伝えることには遠慮がある」とも思っている。
聴覚障がい者全員に対し、職場でのコミュニケーション方法に関する希望を健聴者に伝えることについてどう思うか質問しました。
その結果を図表4でみると、「伝えることは大切である」と思う(「そう思う」+「ややそう思う」)人は93.5%と大半を占めています。一方、「伝えなくても理解してほしい」と思う人も60.2%います。
希望の伝達をめぐる問題としては「伝え方が難しい」(66.7%)と思う人が特に多く、「伝えても理解してもらえない」(58.5%)、「伝えることに遠慮がある」(53.7%)と思う人も半数を超えています。コミュニケーション方法に関する希望を伝えることの重要性は十分認識している一方で、その難しさを感じている聴覚障がい者が多いといえます。
聴覚障がい者の職場での希望に関する健聴者の認知状況
一緒に働く聴覚障がい者のコミュニケーション方法に関する希望を本人から聞いていない健聴者は過半数、知らない健聴者は35%。
続いて、健聴者調査(聴覚障がい者と一緒に働いたことがある健聴者対象の調査)の結果をご紹介します。
健聴者に対しては、聴覚障がい者の職場での「コミュニケーション方法に関する希望」について、誰かから話を聞いたり何かから情報を得たりしたことがあるか質問しました。図表5の通り、「その人本人から聞いた」割合は46.2%です。裏を返せば、過半数の健聴者は本人から聞いていません。「一緒に働いている人から聞いた」割合は22.5%、「人事担当者から聞いた」割合はわずか4.6%であり、「話を聞いたり情報を得たりしたことは特にない(なかった)」と答えた健聴者も34.9%、すなわち3分の1を占めます。
また、聴覚障がい者の「コミュニケーション方法に関する希望」についてどの程度知っている(知っていた)か質問したところ、図表6の通り「あまり知らない(知らなかった)」「ほとんど知らない(知らなかった)」と答えた割合は合わせて34.7%でした。
聴覚障がい者の職場での希望に関する健聴者の認知希望
一緒に働く聴覚障がい者のコミュニケーション方法に関する希望をもっと知りたい健聴者は34%。
聴覚障がい者の職場での「コミュニケーション方法に関する希望」をもっと知りたい(知りたかった)か健聴者に質問したところ、図表7の通り、知りたいと答えた割合は33.6%でした。回答者(健聴者)の立場別にみると、その人(一緒に働く聴覚障がい者)を管理・指導する立場の健聴者がもっと知りたい(知りたかった)と答えた割合は40.9%であり、それ以外の健聴者に比べてかなり高いです。
なお図表は省略しますが、健聴者が具体的にもっと知りたい(知りたかった)ことを自由回答形式で質問した結果の中では、一緒に働いている聴覚障がい者がどのような聞こえの状況なのかを知った上で適切なコミュニケーション方法を知りたいという回答が多かったです。また、情報が確実に伝わったかどうか、どのようなことが理解されていないかを知りたいという意見もありました。
聴覚障がい者の職場での希望を聞くことに対する健聴者の意識
一緒に働く聴覚障がい者に対し、コミュニケーション方法に関する希望を「遠慮なく言ってほしい」と思う健聴者は85%。一方、「聞きにくい」「聞く機会がない」と思う健聴者も半数近い。
4頁で述べたように、聴覚障がい者調査では、コミュニケーション方法に関する自身の希望を健聴者に伝えることに対してどう思うか尋ねました。一方、健聴者調査では、聴覚障がい者のコミュニケーション方法に関する希望を聞くことなどについてどう思うか質問しました。
その結果を図表8でみると、思う(「そう思う」+「ややそう思う」)と答えた割合は「希望があれば遠慮なく言ってほしい」(84.7%)が最も高く、「どのような希望があるのか言われないとわからない」(64.7%)がこれに続きます。また、「こちらからは希望を聞きにくい」(45.8%)、「希望を聞く機会がない」(44.7%)も半数近くなっています。希望を聞く機会がなくこちらからは聞きづらいが、言われないとわからないという気持ちが、遠慮なく言ってほしいという気持ちにつながっていると考えられます。一方、「希望通りにすることは難しい」(31.5%)、「一人の希望を特別扱いすることはできない」(27.5%)、「希望の伝え方が一方的である」(23.7%)といった否定的な意見は比較的少ないです。
≪研究員のコメント≫
聴覚障がい者および健聴者を対象に実施したアンケート調査では、聴覚障がい者が職場でのコミュニケーション方法に関する希望を周囲の健聴者に伝えることに対する意識などを双方に尋ねました。その結果、聴覚障がい者の多くは、ともに働く健聴者に対してコミュニケーション方法に関する希望を伝えることが大切であり、伝えたことによりコミュニケーションがしやすくなったと評価しました。また、8割以上の健聴者は、聴覚障がい者に希望を遠慮なく言ってほしいと答えました。聴覚障がい者側は自身の希望を伝える大切さを実感し、健聴者側も伝えてほしいと思っていることがわかります。
ただし、半数程度の聴覚障がい者は健聴者へ希望を伝えることに遠慮があり、同じく半数程度の健聴者は自分から聴覚障がい者に希望を聞きにくいと感じていました。また、希望を伝える機会がないと思う聴覚障がい者、聞く機会がないと思う健聴者もそれぞれ半数近くいました。お互いが希望を伝えること・聞くことに対して遠慮しすぎないことや、伝える・聞く機会を設けることが、コミュニケーションを良くするためにはまず重要でしょう。
また、半数以上の聴覚障がい者は、希望の伝え方が難しい、伝えても理解してもらえないとも思っていました。聴覚障がい者が自身の希望を効果的に伝えられるよう、3頁の自由回答であげられた事例などを参考に、伝える手段や内容、タイミングなどを工夫することなども必要と考えられます。(提供:第一生命経済研究所)
(研究開発室 上席主任研究員 水野映子)
㈱第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部 研究開発室 広報担当(津田・新井) TEL.03-5221-4771 FAX.03-3212-4470 【URL】http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/ldi