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(画像=野村不動産アーバンネット・資産コンサルティング部 宮澤大樹さん)

物件価格が頂点に達しているとの憶測が広がり、さらに、融資が受けにくくなってきた環境で、「今後の不動産市場の動向が読みにくい」と不安を感じている投資家の方も多いでしょう。不動産市場を熟知した、野村不動産アーバンネット・資産コンサルティング部所属の宮澤大樹さんに、今後の動向を見極める「市場を予測するためのヒント」を聞きました。

現在の局面でも積極投資を続ける投資家がいる理由

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━━不動産価格が天井ではないかというトピックをよく見かけるようになりました。宮澤さんの実感はいかがでしょうか。

確かに、不動産投資のマーケットは頂点に達していると思います。また、皆さんも目にされていると思いますが、不動産投資に関連する不祥事のニュースが世間を騒がせています。これにより、投資する側のマインドは冷え込んでいるといってよいでしょう。

それでは、今は投資をしないほうがよいかというと、そういう訳でもありません。現在のような状況であっても、実際に不動産購入を積極的に続けている方は数多くいます。また、弊社と取引のある海外の不動産ファンドや、シンガポールの投資家などの中には大きな物件の購入を行っている方もいます。

なぜ、この時期でも積極投資を行っているかというと、「物件価格は高くても利ざやがとれているから」です。日本は金融緩和による金利の低さ、あるいは、物件価格は高くても利回りのよい物件が数多く存在するなど、不動産投資に適した環境がそろっています。

利ざやがとれない状況としてはまず、見込んでいたテナントや入居者が入らないことが考えられます。しかし、エリア選びさえ間違えなければ、今はそのリスクも低くなっています。非常に単純な話ですが、所有されている、あるいはこれから所有する不動産で利ざやが見込めるのであれば、投資はやめないほうが賢明といえるでしょう。

立地は「面」ではなく「点」で考えるべき

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━━周囲の雰囲気に流されず、冷静にご自身の資産と照らし合わせて考えることが大切なんですね。先行きの見えない現在では、利回りを重視したほうがよいのでしょうか。

いえ、利回りばかりを気にするべきでない、というのが私個人の考えです。現在の不動産価格は10年前にくらべると格差が顕著になっています。利回りが極端に下がっている物件、ほとんど利回りが変わらない物件が鮮明になってきました。

この部分だけに注目すると、「利回りが高い物件を購入したほうがよいのでは」という結論になりそうですが、これらの中には、空室率が高いものも目立ちます。なぜかというと、人口減少もあいまって入居に至らないからです。ですから、高利回りだからといって目算で購入するというのは避けたほうがよいと言えますね。想定された利回りが高くても、実際には住んでくれる人がいなければ意味がありません。

━━逆風のエリアにすでに物件を所有されている方はどう考えるべきですか。

もちろん、こういったエリアでも、満室経営をされている投資家の方も存在します。しかしそうでない場合、長期空室が続いていたり、入居者が決まりづらいと感じていたりする時は早めに売りに出すというのも選択肢のひとつです。

━━物件それぞれの利回りだけではなく、エリア選択にも配慮する必要があるのですね。そうすると、やはり人口が安定している東京都内の物件を選択するというのが無難でしょうか。

エリアであれば、都内であるというのはプラス材料です。しかし、東京都内でもまだら模様のように空室の高いエリアも存在します。例えば、かつて高級住宅だったエリアが高齢化によって疲弊しているというニュースを目にした方も多いでしょう。そのため都内であっても「面」で考えずに、「点」で考えて投資を行うのが賢明な方法です。ここでいう「点」というのは、特定の駅近くなど、限定されたエリアのことです。

一方で、東京一辺倒でいいかというと、そうではありません。例えば、隣県の神奈川に目を転じても、ファミリーの人口が増加、安定しているエリアは複数存在します。つまり、一概に東京都内がよい、特定の沿線がよいというような短絡的な発想ではなく、「点」として考えないと、本当に買うべき利ざやのとれる物件を見逃してしまうということです。

金利が低く利ざやがとれ、空室の出にくいエリアにある物件であれば、現在のような状況でもオススメできる物件がたくさんあります。

今後の不動産マーケットの動きをどうなると予測するか

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━━不動産投資において基本的な「立地」の重要性がますます高まっているのですね。

その通りです。「エリアを見極めて投資をする」という基本的なことが、今後はより重要になってきます。具体的には、直近の人口動態はもとより、将来の人口推移に着目することも大事です。

一例をあげると、東京都の人口動態予測によると、都内の人口は2025年頃まで増え続けると予測されています。人口が減らずに増えるのであれば、それだけ受け皿である不動産が必要となります。

繰り返しになりますが、だからといって東京一辺倒でよいというわけではありません。例えば、埼玉県にも人口が増えると予測されるエリアがあります。

━━2018年後半以降の不動産投資マーケットはどのようになっていくとお考えでしょうか。

私自身の経験則やマーケット動向を踏まえると、直近ではそんなに大きな変化はないのではと思っています。先ほどお話しした通り、もちろん、不動産価格の下がっているエリアもありますが、東京都内の人口の安定しているエリアの価格は平行線という印象です。

ただ、1年前の2017年秋頃と比べると、新たに物件を購入したい層は少なくなっていると思います。逆に、売りたい層は増えている。物件が売れないという感覚まではいきませんが、現在は物件が滞留しやすい局面といえるでしょう。

その物件を売却すべきか、保有し続けるかの判断材料とは

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━━物件を売却したい人が増えたのは、物件価格が下がると見通してのアクションなのでしょうか。

そういう方もいらっしゃると思います。ほかにも、「空室が目立つから」「4~5年前にくらべれば高く売れるから」など、さまざまな理由があるでしょう。

今度の不動産価格の動向という面では、現在の投資家への融資が厳しくなっているという状況が、物件価格を下げる一因になる可能性もあります。冒頭でもお話しした不動産投資関連の事件などの影響もあり、以前よりも自己資金の額が増えたり、審査が厳しくなったりしているわけです。そのあおりを受けて、人口の少なくなってきたエリアでは顕著な不動産価格の減少につながるという流れは十分あり得ます。

ただ、リーマンショックのときのようになる訳ではなく、さきほど触れた東京都内の人口の多いエリアの物件価格はそんなに大きくは変わらないと予想されます。個人的には、湾岸エリアなどにある勤労者の方向けの物件が値崩れするのでは、という印象を持っています。

━━不動産価格が下がると予想される物件は、やはり値崩れする前に売ってしまったほうがよいのでしょうか。

いえ、マーケットと向き合って市場の回復を待つという選択肢もあります。この判断をする軸は、「不動産投資をする理由」です。

例えば相続税対策で不動産を購入する場合、立地がよく、利回りが低めの物件が選ばれるケースが多いです。なぜかというと、不動産を購入する目的が、資産の圧縮をして相続税評価額を落とすことだからです。そのため、極端な話、利回りがマイナスになったり、不動産価格が下がったりしても大きな問題ではない訳です。

ただし、一般の方が不動産を購入するときはキャッシュフローを主な目的としています。物件の価格も下がり、空室になりやすい状況だと、キャッシュフフローが入らなくなり破綻のリスクが増えます。そうすると、すぐに売ったほうがよいという発想につながるかもしれませんが、価格が下がっても家賃が急に下がることはありません。賃借人さえいれば十分なキャッシュフローがあるので、不動産価格が戻るまで様子を見て、そこから判断しても問題ないわけです。

つまり、相続税対策でないならば、キャッシュフローと照らし合わせて判断することが大切ということです。だからこそ、先ほどお話しした「立地がよい物件」という条件が重要になります。例え不動産価格は下がっても、しっかりとした賃料設定でキャッシュフローが確保できる物件であれば、マーケットと向き合う時間を持つことができますからね。

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━━今回伺ったお話は、投資を行う当人だけでは判断しづらい部分もあると思います。

そうですね。お客様の現在所有している物件、もしくは、これから所有する物件に合わせてコンサルティングするのが私たちの役割です。単に不動産を仲介して手数料をいただくだけではなく、引き渡し後、また購入前の段階でさまざまなご提案を行っています。

例えば、物件のお引き渡し後も、専門のスタッフが毎月の入退去の様子をリサーチさせていただくサービスメニューもあります。そこで退去が続くようであれば管理会社に働きかけたり、管理料を下げられる余地がないかを調べたりするなど、改善のご提案を行っています。

入り口の時点であれば融資の斡旋や、税金の支払いまでを含んだ支払いのシミュレーション、また税金を適正に抑えるようなご提案まで実施可能です。ほかにも法人をつくって生命保険に加入することで資産をつくりながら節税を行うという、不動産投資と組み合わせたご提案もご好評をいただいていますね。(提供:Wealth Lounge


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