要旨

● 世界的に異常気象を招く恐れのあるエルニーニョ現象が発生している。エルニーニョ現象の日本への影響として、秋から冬の気温が高めとなる傾向があり、景気への悪影響が懸念される。

● 過去のエルニーニョ現象発生時期と景気後退局面の関係を見ると、90年代以降全期間で景気後退期だった割合は26.1%となるが、エルニーニョ発生期間に限れば46.7%の割合で景気後退局面に重なっており、エルニーニョ発生時の景気後退確率は1.8倍となる。

● 実際、2015年のエルニーニョ発生局面では記録的な暖冬に見舞われ、10-12月期の全国平均気温は平年より約+1.2℃高くなった。この暖冬の影響もあり2005年10-12月期の消費支出(家計調査)は前年比▲3.2%の減少に転じた。2015年10-12月期の実質国内家計最終消費支出も同+0.3%と伸びが急減速した。被服・履物の支出額が大幅に減少し、冬のレジャーの低迷により娯楽・レジャー・文化でも暖冬が逆風になった。

● 厳冬で業績が左右される業界としては、冬物衣料関連がある。また、電力・ガス等のエネルギー関連のほか、製薬会社やドラッグストア等も過去の暖冬では業績が大きく左右されている。自動車や除雪関連といった業界も暖冬の年には業績が不調になりがちとなる。鍋等、冬に好まれる食料品を提供する業界やスーパー、食品容器等の売り上げも減少しやすい。冬物販売を多く扱うホームセンターや暖房器具関連、冬のレジャー関連などへの悪影響も目立つ。

● マクロ的には、10-12月期の気温が+1℃上昇すると、同時期の家計消費支出が▲0.6%程度押し下げられる関係がある。これを金額に換算すれば、10-12 月期の平均気温が+1℃上昇すると、同時期の家計消費支出を約▲3,784億円程度押し下げると試算される。仮に2015年並みの暖冬(平年より+1.2℃上昇)になれば、そのインパクトは10-12月期の個人消費を▲0.7%、金額にして▲4,521億円程度押し下げる規模に拡大する。

● エルニーニョは世界的な現象であるため、海外経済にも影響が及べば、輸出減を通じた悪影響も考えられる。今後の動向次第では、足元で減速感が目立ち始めてきた日本経済に、暖冬が思わぬダメージを与える可能性も否定できない。

暖冬をもたらすエルニーニョ

 世界的に異常気象を招く恐れのあるエルニーニョ現象が発生している。気象庁が11月9日に発表したエルニーニョ監視速報によると、ペルー沖の海面水温が高くなるエルニーニョ現象の影響等で暖冬となる見込みとされており、気象庁が11月21日に公表した向こう3か月の予報でも、全国的に気温が高くなりがちと予想している。

 エルニーニョ現象とは、南米沖から日付変更線付近にかけての太平洋赤道海域で海面水温が平年より1~5度高くなる状況が1年から1年半続く現象である。エルニーニョ現象が発生すると、地球全体の大気の流れが変わり、世界的に異常気象になる傾向がある。

 近年では、2015夏から2016年春にかけて発生し、北海道を除く北日本で平年より10日-14日以上遅い初雪・初冠雪、沖縄では12月に長期的な高温を観測した。また12月は日本国内のみならず、国外の多くで北半球最大規模の大暖冬となった。

 気象庁の過去事例からの分析では、エルニーニョ現象の日本への影響として梅雨入りと梅雨明けが遅くなることで夏の気温は低めとなり、冬の気温は高めとなる傾向がある、ということ等が指摘されている。

エルニーョ発生時期の景気後退確率は1.8 倍

 実際、エルニーョ現象の発生時期と我が国景気局面には関係ある。というのも、過去のエルニーニョ現象発生時期と景気後退局面を図にまとめると、90年代以降全期間で景気回復だった割合は26.1%となる。しかし驚くべき事に、エルニーニョ発生期間に限れば46.7%の割合で景気後退局面に重なっており、エルニーニョ発生時の景気後退確率は1.8倍となることがわかる。

景気リバウンドの展望とイベント・リスク
(画像=第一生命経済研究所)

 実際、2015年のエルニーニョ発生局面では記録的な暖冬に舞われた。気象庁の発表によると、10-12月期の全国平均の気温は前年より+1.2℃程度高くなった。この暖冬の影響で2015年10-12月期の消費支出(家計調査)は前年比▲3.2%の減少に転じた。特に、被服履物が冬物衣料の売り上げが不調となったことから、同▲11.5%の落ち込みを記録した。また、交通関連を見ても暖冬の影響は明確に表れた。同時期の交通・通信支出は暖冬の影響でレジャーやタクシー利用が落ち込み、車関連でもスタッドレスタイヤ等の冬物商材が落ち込んだことで売り上げが低迷した。保険医療の支出動向も製薬関連が落ち込み、全体として低調に推移した。

 国民経済計算ベースで見ても、暖冬の影響が及んだ2015年10-12月期の実質国内家計最終消費支出は前年比+0.3%と伸びが急速に鈍化し、家計調査同様に被服履物の支出額が大幅に減少した。また冬のレジャーの低迷により娯楽・レジャー関連でも暖冬がブレーキとなった。

景気リバウンドの展望とイベント・リスク
(画像=第一生命経済研究所)

広範囲にわたる 暖冬の影響 暖冬の影響 暖冬の影響

 以上より、エルニーニョ現象により今年の冬も暖冬となれば、各業界に影響が及ぶ可能性がある。

 事実、過去の経験によれば暖冬で業績が左右される代表的な業界としては冬物衣料関連や百貨店関連がある。また、電力・ガス等のエネルギー関連のほか、製薬会社やドラッグストアも過去の暖冬では業績評価が大きく左右されている。自動車や除雪関連といった業界も、暖冬の年には業績が不調になりがちとなる。鍋等、冬に好まれる食料品を提供する業界やスーパー、食品容器等の売り上げも減少しやすい。冬物販売を多く扱うホームセンターや暖房器具関連、冬のレジャー関連などへ悪影響も目立つ。

景気リバウンドの展望とイベント・リスク
(画像=第一生命経済研究所)

 一方、屋外娯楽関連サービスや鉄道、外食に加え、コールド系の飲食料品の販売比率が高いコンビニなどには恩恵が及ぶ可能性ある。

景気リバウンドの展望とイベント・リスク
(画像=第一生命経済研究所)

10-12月期の気温+1℃ で家計消費▲3,784億円程度減少

 そこで、過去の気象の変化が家計消費全体にどのような影響を及ぼしたのか見るべく、国民経済計算を用いて10-12月期の実質家計消費の前年比と全国平均の気温の前年差の関係を見た。すると、10-12月期は気温が上昇した時に実質家計消費が減少するケースが多いことがわかる。従って、単純に家計消費と気温の関係だけを見れば、暖冬は家計消費全体にとっては押し下げ要因として作用することが示唆される。

景気リバウンドの展望とイベント・リスク
(画像=第一生命経済研究所)

 そこで1990年以降のデータを用いて、10 -12月期の全国平均気温を説明変数に加えた実質消費関数を推計し、冬場の気温がマクロの家計消費に及ぼす影響を試算してみた。これよると、 10-12月期の実質家計消費と気温との間には、気温が+1℃上昇する毎に同時期の家計消費支出が▲0.6 %程度押し下げられるという関係が見られる。これを金額に換算すれば、10-12月期の平均気温が+1℃上昇すると、同時期の家計消費支出を約▲3,784億円程度押し下げることになる。

 従って、この関係を用いて今年10-12月期の気温が記録的高温となった場合の影響を試算すれば、平均気温が平年比と前年比でそれぞれ+1.2℃、+1.8 ℃上昇することにより、今年10-12月期の家計消費は平年および前年に比べてそれぞれ▲4,521億円(+ 0.7 %)、▲6,772億円(▲1.1 %)程度押し下げられることになる。このように、暖冬の影響は経済全体で見ても無視できないものとえる。

景気リバウンドの展望とイベント・リスク
(画像=第一生命経済研究所)
景気リバウンドの展望とイベント・リスク
(画像=第一生命経済研究所)

減速感が明確になりつつある日本経済に暖冬が思わぬダメージ

 なお、今回の試算で はエルニーョなお、今回の試算で はエルニーョで2015年並みの暖冬となったことを前提に試算しているが、これまでの歴史を見ても分かるように、エルニーニョが発生したからといって必ず暖冬になるわけではない。しかし、実際に暖冬になれば、気象要因により家計の消費構想に大きな変化が及ぶことも十分に考えられる。2015年の場合、前年の低温の反動や暖冬に加えて、チャイナショックに伴う株価の下落や消費マインドの低迷も手伝って、同年10-12月期の家計消費支出(除く帰属家賃)は前年比年率▲2.7%となり、同時期の経済成長率は前年比年率▲1.2%とマイナス成長に陥った。

 また、エルニーニョは世界的な現象であるため、エルニーニョが海外経済にも影響を及ぼすようなことになれば、日本からの輸出減を通じても日本経済に悪影響を及ぼしかねない。

 以上の事実を勘案すれば、今後の景気動向次第では、減速感が明確になりつつある日本経済に暖冬が思わぬダメージを与える可能性も否定できないだろう。特に足元の個人消費に関しては、自然災害や株価下落等のマイナス材料が目立っているが、今後の個人消費の動向を見通す上ではエルニーニョによる暖冬といったリスク要因も潜んでいることには注意が必要であろう。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
首席エコノミスト 永濱 利廣