12 月15 日に公表予定の12 月短観は、大企業・製造業の業況DIが前回比△2ポイントと悪化する予想である。2017 年12 月から4四半期連続での悪化を見込んでいる。米中貿易の成り行きは、企業心理にはマイナスである。その一方で、経常利益計画などは割と底堅い数字となることが見込まれる。

業況の悪化は続く

 12 月15 日に発表が予定される日銀短観12 月調査では、大企業・製造業の業況判断DIが前回比△2ポイント悪化する見通しである(図表1、2)。こうした変化は、鉱工業生産の推移とも同調している(図表3)。

2018 年12 月の日銀短観予測
(画像=第一生命経済研究所)
2018 年12 月の日銀短観予測
(画像=第一生命経済研究所)
2018 年12 月の日銀短観予測
(画像=第一生命経済研究所)

 2018 年初がピークとなり、この年末にかけて緩やかに低下が進むという変化である。つまり、趨勢として生産活動が鈍化するから、企業の収益環境も徐々に悪化しているという関係がみてとれる。

 少し角度を変えると、企業マインドは(1)米中貿易摩擦が10~12 月にかけて厳しさを増していることを反映しているとも言える。輸出環境の悪化が収益不安へとつながっている。このほかには、(2)既往の原油上昇が、素材・原材料コストを押し上げて、変動利益を圧迫していること。さらに、(3)7~9 月にかけて多発した自然災害のダメージが、少し時間を置いて表われたという要因もあろう。物流の遅れ、復旧コストの増嵩、稼働率低下の収益下押しは、企業にとって災害と同時というよりも少し遅れてダメージとして意識される。

 また、先行きの予想は、貿易戦争の深刻化によって、さらに△2ポイントの悪化を見込む。Quick 短観の月次データでは、11・12 月の落ち込みは大きい。その水準は、2017 年初の水準まで落ちてきている。筆者の予想では、そこまで極端な変化を織り込まなかったが、もしかすると△2ポイントよりも大きく下振れすることが起きるかもしれない。予想よりも変化する可能性があるとすれば、より下向きへの変化があり得るとみている。

注目される為替・収益の見通し

 短観の業況DIが悪化すると、即座に景気後退となる訳ではない。現下では、企業収益は相当に底堅いからだ。大企業・製造業の2018 年度収益計画は9月時点では前年比△6.9%であった。計画は、まだマイナスであるが、想定為替レートが2018 年度1ドル107.40 円と実際よりも円高に設定されている。2018 年4~12 月までの平均で1ドル111.08 円なので、このままいけば+3.4%ほど着地時点で修正される。12 月調査でも、想定為替レートはほとんど変わらないだろうから、実際の為替レートとの乖離がどのくらいになるかが注目される。

 また、経常利益計画の修正も気になる。米中貿易戦争の悪影響が敏感に年度計画に表われているとは思わないが、何らかのかたちで弱気が表現されてくる可能性はある。

設備投資は堅調

 現在の景気情勢で設備投資は比較的堅調である。GDP統計など四半期ベースでは弱い数字もあるが、年度ベースでは強い。その代表例が、日銀短観である。

 大企業では、製造業・非製造業とも2桁の伸び率である(図表4)。修正状況は、季節的にほぼ横這いをみている。

2018 年12 月の日銀短観予測
(画像=第一生命経済研究所)

 また、中小企業は順調に上方修正を続ける予想である。中小製造業は、すでに2桁の高い伸びとなっている。これで、経常利益の伸びが上方修正されてくると、設備投資も追い風である。

短観から読み取れそうなこと

 マクロ経済を概観すると、米中貿易戦争に象徴されるように、様々なショックが予想される。先行きでも、英国のEU離脱は、3月29 日と3ヶ月少しにまで近づいている。こちらも自動車産業のマインドにはきっと下押し圧力となっている。

 その一方で、ハードデータ、つまり経済成長率、企業業績などは好調であり、まだ景気後退からは遠い。この構図はまさしく短観でも同じように表われてくる。DIは、マインドを反映して弱く、年度計画は底堅い。日本経済の先行きを考えるうえでは、こうしたコントラストがあるとしても、その細かなところでどのような変化が起きているかをつぶさに探っていくことが今後を読み解く鍵になろう。例えば、業況DIよりも需給DIの方が収益環境の変化を素直に映すだろう。価格DIも、足元の原油急落が反映してくれば、収益面で下支えになる。輸出計画のところも、貿易戦争をどのくらい具体的に企業が心配しているかを測る尺度となろう。

 筆者は、現時点ではまだ貿易戦争はマインド先行であり、計画のところでは強い数字が保たれると予想している。業況DIだけではなく、日本経済の体調変化を様々なDI・計画の修正状況から読み取っていきたい。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
首席エコノミスト 熊野 英生