要旨
1980年代以降、非農林業において日本の夫婦の働き方は大きな変貌を遂げた。
本レポートは、データによって夫婦の働き方の変化、そしてそのことによる「夫婦の持つ子どもの数」について生じやすい誤解の真実の姿、を詳らかにすることを目的としている。
データからは、夫婦の働き方改革がもつ「結婚に踏み切れない若者たちの未婚化」「夫婦のもつ子どもの数に関する少子化」解決への可能性が示唆されている。
「変わる時代の夫婦の姿」を客観的データによって正しく認識することが、日本の人口減少問題の突破口の1つとなることを願いたい。
はじめに-64%が共働き世帯
日本における「夫婦の働き方」が1980年代以降、統計的にみて大きく変化している。
人口ピラミッドが逆三角形を示す急激な高齢化が進む日本において、人口マジョリティである中高齢者層。その人口多数派の人々の「当時の自己体験に基づいた価値観」ではイマジネーションすることが困難な、大きく変化を遂げた「現在の夫婦と子どもの姿」をデータで示したい。
1980年代以降、日本の「夫婦の働き方」は大きく変化を遂げた(図表1)。
1980年前半から半ばまでは非農林業の世帯(1)においては、ほとんどが専業主婦世帯であった。筆者は70年代生まれであるが、筆者が小学校当時のサラリーマン世帯における母親は専業主婦が当たり前であった。
しかし、90年代に入ると専業主婦世帯と共働き世帯が拮抗するようになる。つまり、半分の子どもたちが働く母親を日常として目にする社会へと変貌を遂げる。
2000年以降、共働き世帯が急増をみせ、2017年の直近では専業主婦世帯は36%にまで減少し、共働き世帯が社会のマジョリティ世帯の姿となっている。
このような1990年以降の急激な「夫婦の働き方」の変化を前提とし、本稿では「前世代の少子化に関する感覚が次世代についてあてはまるか」統計的に検証してみることとしたい。
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(1)農林業は基本的に家族経営で共働きであることを前提として、非農林業世帯を対象として集計されていると考えられる。
夫婦の働き方と「子どものいない」世帯割合
日本において、合計特殊出生率が1.5を切る超低出生率が1993年以降、20年以上続いている。
国の人口推計では、2045年の人口は30年前の2015年の83%に減少するとされている。しかし、2045年ではまだ団塊ジュニアと呼ばれる現在40代後半のマジョリティゾーン世代が生存しているため、この程度の減少にとどまっている。現在の低出生率が変わらない限り、そのあとの人口減少は「30年で83%へ」ではすまず、より激しいものになることが予想される。
では、夫婦の働き方と子どもの数は一体どのような関係があるのであろうか。2015年の国勢調査の結果を分析してみたい(図表2)。
2015年の国勢調査においては、子どもがいない世帯(以下、子なし世帯)の割合において、専業主婦世帯34%、共働き世帯32%で、わずかであるものの専業主婦世帯の方が、子なし世帯割合が高くなった。
1980年代に20代30代で結婚した夫婦は現在49歳から77歳であるが、この専業主婦世帯がマジョリティであった世代が考える「専業主婦世帯の方が、共働き夫婦より子どもがいる割合が多いのではないか」というのは、統計的には誤りである。
統計的には「専業主婦世帯の方が、子なし世帯割合がやや多い」が正解である。
夫婦の働き方と「子あり世帯の子どもの数」
次に、子どもがいる夫婦について、夫婦の働き方と子どもの数に関係があるかをみてみたい(図表3)。
専業主婦世帯ではいわゆる一人っ子世帯が最も多く、丁度33%、3世帯に1世帯が一人っ子世帯となっている。2子以上いる世帯は67%である。
一方、共働き世帯は2子世帯が30%と最も多い。2子世帯以上いる割合では71%となり、子あり世帯だけでみても、専業主婦世帯よりも子どもが多いことが示されている。
つまり、子なし世帯割合で見ても、子あり世帯の子どもの数で見ても、共働き世帯の子どもの数が専業主婦世帯を上回っていることになる。
人口マジョリティである団塊ジュニア(40代後半)以上の年齢で想像されることが多い「専業主婦家庭が減ると子どもが減る」「女性が働かない方が子どもが生まれるのでは?」は統計上、事実誤認であることが指摘できる。