株式投資の税金特集も最終回。今回は、株式投資で生じた利益と損失の通算と繰り越しについてです。

意外な落とし穴もありますので、余計な税金を払わないためにもしっかりとマスターしておいてください。

同じ年に生じた売却損と配当金は損益通算できる

株式投資の税金特集
(画像=トウシル)

株式投資では、売却損と配当金を相殺(損益通算)して、払いすぎた税金を取り戻すことができます。

まず、1年間の株式投資の売却益と売却損をすべて計算して、トータルで売却損になっているかどうか確認します。特定口座であれば証券会社から送られてくる特定口座年間取引報告書に記載されています。

売却損であれば、税金は生じませんので確定申告をしないこともできます。でも、確定申告をしないと、後々余計な税金を払うことになりかねません。

同じ年に受け取った配当金があれば、それを売却損と損益通算することが可能です。これにより、配当金を受け取ったときに源泉徴収(天引き)された税金を取り戻すことができます。

売却損と配当金を損益通算するためには、売却損と配当金につき確定申告をし、かつ配当金の課税方法を申告分離課税とする必要があります。

配当金を売却損と損益通算するためには、確定申告が必要であることを覚えておいてください。

配当金との損益通算後残った売却損は翌年以降に繰り越せる!

同じ年の売却損と配当金を損益通算した後に売却損がまだ残っている場合、これを翌年以降3年間繰り越して、翌年以降の売却益や配当金と損益通算することができます。

また、受け取った配当金がない場合も、売却損を確定申告することにより、翌年以降3年間にわたり繰り越すことができます。

なお、売却損の繰り越しの確定申告は、売却損が残っている限り毎年行わなければなりません。一度確定申告すれば3年間自動で行われるわけではないので注意してください。

そして、繰り越した売却損と、翌年以降の売却益・配当金とを損益通算するときにも、確定申告を行う必要があります。

源泉徴収ありの特定口座の場合はどうなる?

以上は、一般口座や源泉徴収なしの特定口座の場合の話です。源泉徴収ありの特定口座の場合、これ以外に少し注意すべき点が出てきます。

まず、源泉徴収ありの特定口座かつ、配当金の受け取り方法を株式数比例配分方式としている場合は、同一年の売却損と配当金の損益通算は、特定口座内にて証券会社が自動で行ってくれます。確定申告をする必要はありません。

同じ年に源泉徴収ありの特定口座にて売却益が生じていて、他の口座にて売却損が生じている場合は、それぞれの口座の売却益・売却損を確定申告しないと損益通算ができません。

また、配当金を損益通算した後残っている源泉徴収ありの特定口座での売却損を翌年以降に繰り越すためには、確定申告が必要です。

源泉徴収ありの特定口座は、全て証券会社が自動で行ってくれると勘違いしている方も多いですが、他の口座との損益通算や売却損の翌年以降への繰り越しは、源泉徴収ありの特定口座であっても、必ず確定申告が必要となります。

源泉徴収ありの特定口座は売却益を確定申告するかどうか選ぶことができる

ちょっと注意したいのが、繰り越した売却損を翌年以降の売却益・配当金と損益通算する場合です。

一般口座や源泉徴収なしの特定口座であれば、売却益はそもそも確定申告をしなければなりません。しかし、源泉徴収ありの特定口座の場合、売却益を確定申告するかどうかは自由です。

実は、売却益や配当金を、前年以前から繰り越した売却損と相殺するために確定申告をすると、その年の所得が膨らんで配偶者控除、扶養控除、住宅ローン控除、国民健康保険料などに影響を及ぼしてしまう可能性があります。

一般口座や源泉徴収なしの特定口座では、売却益を申告しないという選択肢はないのですが、源泉徴収ありの特定口座は売却益を申告しないこともできます。そのため、売却益や配当金を申告して税金を取り戻すほうが得か、売却益や配当金を申告せずに配偶者控除や扶養控除などを享受したり、国民健康保険料の値上がりを回避するほうが得かを見据えたうえで、判断する必要があります。

源泉徴収ありの特定口座で売却益と配当金が生じている場合、そのどちらかのみを確定申告することもできます。そのため、配偶者控除や扶養控除が使えなくなることを避けるため、売却益は確定申告せず、配当金のみ確定申告して損益通算する、という手法を取ることも可能です。

さらに、同一年中で源泉徴収ありの特定口座で生じた売却益と、他の口座で生じた売却損を損益通算するために確定申告するかどうかも、配偶者控除や国民健康保険料等、他に及ぼす影響を加味して決めるようにしてください。

なお、国民健康保険料や後期高齢者医療保険料については、住民税の申告を別途行うことで、売却益や配当金を確定申告することによる値上がりを回避することができます。

確定申告を忘れてしまった場合の救済策は?

このように、売却損を翌年以降に繰り越すためには、一般口座、特定口座にかかわらず確定申告をすることが必要です。また、源泉徴収ありの特定口座の売却益と他の口座の売却損を同年中に損益通算する場合も、確定申告が必要となります。

では、損益通算や損失繰り越しの確定申告を忘れてしまった場合、救済策はあるのでしょうか。

まず、年末調整をしているサラリーマンのように、確定申告自体をそもそもしていない方については、期限後申告をすることで、損益通算や売却損の繰り越しが可能となります。

一方、確定申告自体はすでにしているという方は、一般口座および源泉徴収なしの特定口座で生じた売却損の繰り越しは更正の請求という手続きにより対応可能です。

しかし、源泉徴収ありの特定口座で生じた売却損益について確定申告をしなかったことに対する救済策はなく、切り捨てとなってしまいますので注意してください。

一般口座、特定口座、そして源泉徴収のあり、なしにかかわらず、損益通算や売却損の繰り越しのため、確定申告を行うという習慣をぜひつけておいてください。ただし、配当金や源泉徴収ありの特定口座で生じた売却益の確定申告の際は、配偶者控除などへの影響を忘れずにシミュレーションしましょう。

足立 武志(あだち たけし)
足立公認会計士事務所代表 公認会計士・税理士・ファイナンシャルプランナー
個人投資家の「困った!」を解決する公認会計士。一橋大学商学部経営学科卒業。資産運用に精通した公認会計士として個人投資家向けに有用かつ実践的な知識・情報をコラム、セミナー、書籍、ブログ等で提供。株式会社マーケットチェッカー取締役として株式投資スクリーニングソフト「マーケットチェッカー2」の開発にも関わる個人投資家でもある。

(提供=トウシル

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