要旨

●年末の予算編成では国土強靭化のためのインフラ整備などに国費で2.4兆円が措置された。これは同時に2019年10月の消費税率引き上げ時の経済対策としての役割が期待されている。

●しかし一方で、建設業の供給制約が強まっている。2016年の「未来への投資を実現する経済対策」では投資関連経費が2.3兆円措置、規模の大きい対策となったが、執行の遅れや建設コストの上昇によって2016・17年度の実質GDP押し上げ効果は極めて小さいものにとどまった。

●今回の対策における投資関連経費の規模は、2016年の経済対策とほぼ同規模になるとみられる。狙い通り景気下支え効果が発現するかどうかについては慎重に見ておくべきである。

公共投資
(画像=PIXTA)

国土強靭化策に期待されている消費税対策の役割

 昨年12月に閣議決定された「国土強靭化基本計画」では、相次ぐ自然災害への対応として2018~20年度の3か年を対象に緊急対策を実施することが示された。同計画では3年間トータルの事業規模1を「概ね7兆円程度を目処」とすることが明記された。これを受け、2018年度の補正予算や2019年度の当初予算案では防災・減災、国土強靭化を目的とした公共投資等が盛り込まれた。これらは同時に、2019年10月に実施される消費税率10%への引き上げに伴う景気下押し圧力を緩和するための経済対策としての役割も期待されている。2019年度当初予算で措置された経済対策(臨時・特別の措置)2兆円のうち、過半の1.3兆円は防災・減災、国土強靭化関連のインフラ整備や学校施設等の耐震化に充てられる。2018年度第二次補正予算の措置と合わせると、投資的経費に2.4兆円(国費)が措置されている。

 筆者は災害の相次いでいる現況において国土強靭化の必要性は理解しているが、これらの公共投資が狙い通りに消費税引き上げ時の景気下支えの役割を果たすかについては、慎重に見ておくべきだと考えている。それは、足もとで建設業において人手不足などに伴う供給制約が強まっているとみられ、工事の進捗の遅れや工事費の上昇によって、公共投資追加による実質GDPの押し上げ効果が小さくなっていると推定されるためである。

供給制約が景気押し上げ効果を減殺

 供給制約は、大きく2つの経路を通じて予算額に対する実質GDPの押し上げ効果が小さくすると考えられる。1つ目の経路は、組まれた予算が執行に至らないことによるものだ。その一つの尺度が公共投資予算の次年度繰越額である(資料1)。消化しきれなかった未執行予算は次の年度に繰り越されることになるが、財務省の決算資料によれば、この繰越額が2016 年度に増加、17 年度もほぼ変わっていない。2016 年8月には、成長減速リスクへの対応として「未来への投資を実現する経済対策」の実施が決定、同年度の第2次補正予算では公共事業費などの投資経費に2.3 兆円が計上された。補正予算が編成年度に消化し切れずに翌年度に繰り越されることは頻繁に起こることだが、17 年度の次年度繰越額さえも殆ど減らなかったことは、予算の執行が相応に遅れていることを示唆する。実際に、公的固定資本形成の実質GDPへの寄与度は2016・17 年度に+0.1%pt 未満に留まった(資料2)。

公共投資は消費税対策の役割を果たせるのか
(画像=第一生命経済研究所)
公共投資は消費税対策の役割を果たせるのか
(画像=第一生命経済研究所)

 2つ目の経路は、こうした供給制約などを背景とした建設コストの上昇である。これは公的固定資本形成のデフレータ上昇につながり、名目額の伸びよりも実質額の伸びが小さくなる要因となる。資料3では、SNA の実質・公的固定資本形成の前年同期比の伸び率を名目額の伸びとデフレータの伸びに分解している。2017 年度~2018 年度にかけて、デフレータの伸びが名目額の伸びを減殺するようになっており、実質ベースの伸びを小さくしていることがわかる。

 建設業の供給制約は、大規模財政出動が実施された安倍政権発足当初の2013 年に強まり、その後は公共投資の縮減傾向もあって落ち着いていた。その点は2015~2016 年に掛けて公共投資のデフレータの上昇が一服していたことからもみてとれる。しかし、2017 年ごろからデフレータは再び上昇傾向となっている。国土交通省の公表する建設技能労働者の過不足率をみても、2015 年ごろから落ち着いていた過不足率が再び上向いており、人手不足度合いが高まっていることが確認できる(資料4)。民間部門で建設投資が活発化していることなどが影響している可能性があろう。こうした人手不足度合いの強まりがデフレータの上昇に繋がっていると考えられる。

公共投資は消費税対策の役割を果たせるのか
(画像=第一生命経済研究所)

今回の措置は2016 年の経済対策とほぼ同規模

 今回消費税率10%への引き上げに伴う需要平準化対策として、2018 年度第二次補正と2019 年度当初予算・臨時特別の措置を合わせて国費で2.4 兆円が充てられている。この額は、2016 年度の経済対策(2016 年度第二次補正)において、公共事業等に充当された2.3 兆円とほぼ同額である。前述の通り、2016 年度の経済対策は供給制約の強まりによって、実質GDP の押し上げ効果は非常に小さいものとなった。今回の経済対策についても、短期的な景気押し上げ効果については慎重にみておくべきである。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
副主任エコノミスト 星野 卓也