要旨

① 人生100年時代には、経済面とともに、日々の充実感や幸福感など心の豊かさにかかわる要素を考えていくことも人生設計において重要になる。本研究では雇用者として働く配偶者のいない中高年単身者に注目し、彼らが充実感を感じる時間や活動の実態とともに、幸福感との関連性を就労形態別に分析した。

② 充実感を感じるときとして仕事に関する2項目に注目すると、「仕事に打ち込んでいるとき」をあげた人は就労形態にかかわらず3割強であった一方、「収入があったとき」をあげた人は正規雇用者で49.7%、非正規雇用者では57.1%を占めた。収入は就労形態にかかわらず中高年単身者の充実感に強く関連している。

③ 充実感を感じるときについて、「仕事に打ち込んでいるとき」「収入があったとき」という仕事関連の2項目と、それ以外の項目への回答状況によって中高年単身者を4類型化した(「仕事・収入重視型」「バランス型」「プライベート重視型」「充実時間なし型」)。就労形態にかかわらず最も高い割合を占めたのは仕事と仕事以外の双方で充実感を感じる「バランス型」で5割強から6割前後を占めた。

④ 充実感を感じるときの4類型別に幸福感を比較すると、「バランス型」や「プライベート重視型」の人は、就労形態にかかわらず「仕事・収入重視型」や「充実時間なし型」の人に比べ幸福感が高い。このうち非正規雇用者では、最も充実感を感じるときとして「趣味やスポーツに熱中しているとき」をあげる人や、互いの健康を気づかうつながりがあると答えた人が多かった。年収などの経済状況は幸福感の高さに関連しているが、仕事や仕事以外にも充実感を感じられる時間があることも幸福感を高める可能性が示唆された。

キーワード:中高年、単身者、幸福感

幸福感
(画像=PIXTA)

1.中高年単身者の幸福感を考えることの重要性

(1)中高年単身者の幸福感を考えることの重要性

 人生100 年時代には、経済面の人生設計として、長期化する人生をカバーする計画的な資産形成とともに就労寿命(働ける期間)の延伸が多くの人にとっての重要課題になる。同時により総合的な人生設計として、健康寿命(健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間)の延伸や、日々の充実感や幸福感など心の豊かさにかかわる要素を考えていくことも重要になる。

 「ミッドライフ・クライシス」などと呼ばれるように、中高年期は一般に他のライフステージに比べ幸福感が低い時期として知られる*1。しかし、中高年期にも高い幸福感をもつ人がいるとすれば、そのライフスタイルには個人が人生後半期の人生設計を考えていく上で参考にできる情報が含まれている可能性がある。また、現在の中高年世代には結婚しないライフコースを歩む人も多く、配偶者がいる人に関しても配偶者との離別・死別等によって将来単身世帯となる可能性のある人が少なくない。このため、配偶者のいない中高年単身者の日々の充実感や幸福感について考えていくことは、今後わが国で増加が進むと予想される高齢単身者の日々の充実感や幸福感を考えていく上で参考になるものと思われる。また、働く期間が長期化するこれからの時代は、仕事とともに、仕事以外の時間や活動の重要性に注目することが重要な視点になる。以上の背景をふまえ、本研究では雇用者として働く40~59 歳の配偶者のいない単身者に注目し、彼らが充実感を感じる時間や活動の実態とともに幸福感との関連性を分析するためのアンケート調査を行った*2。

(2)調査概要

 本調査では、就労形態による年収などの経済状況の違いとともに、居住地域による生活環境の違いの影響が想定された。このため、対象者は調査会社の登録モニターから一都三県の正規雇用者と非正規雇用者各1,000 名を性・年齢階級別に均等になるよう抽出した。回答者の配偶状況や年収などの経済状況は図表1に示すとおりである。

以下では、回答者の充実感や幸福感について、就労形態別に分析を行っていく。

中高年単身者の幸福感
(画像=第一生命経済研究所)

2.中高年単身者が充実感を感じるとき

(1)ふだんの生活の充実度

 はじめに、中高年単身者が、ふだんの生活についてどの程度充実していると感じているのかをみる。

 ふだんの生活について充実していると答えた人(「とても充実している」「どちらかといえば充実している」の合計割合)は、正規雇用者(36.2%)が非正規雇用者(30.7%)を上回っている(図表2)。性別に比較した場合、正規・非正規とも女性の方が充実していると答えた人が多く、4割超が充実していると答えている。

 男女差は正規雇用者より非正規雇用者で顕著にみられ、非正規就労の男性では充実していると答えた人(23.8%)が女性(37.6%)を10ポイント以上下回った一方、充実していないと答えた人(「どちらかといえば充実していない」「充実していない」の合計割合、44.2%)が女性(29.0%)を10ポイント以上上回った。非正規雇用者の男性ではふだんの生活が充実していないと答えた人の割合が特に高い傾向がある。

中高年単身者の幸福感
(画像=第一生命経済研究所)

(2)充実感を感じるとき

 では、中高年単身者は具体的にどのようなときに充実感を感じるのか。また、それらは仕事や収入とどのような関連がみられるのか。これらの点について考察するため、今回の調査では「充実感を感じるとき」として、「仕事に打ち込んでいるとき」や「収入があったとき」を含む計14項目の選択肢を提示して複数回答で回答を求めた。

 選択肢の構成は、仕事や収入にかかわる上記2項目(以下【仕事】)のほか、仕事以外の領域として何らかのアクティブな行動や活動にかかわるもの(「趣味やスポーツに熱中しているとき」「旅行しているとき」「おいしいものを食べたり、飲んだりするとき」「自己啓発や学習などに身を入れているとき」「ボランティアや地域活動に協力したとき」の計5項目、以下【アクティブ】)、他者とのコミュニケーションにかかわるもの(「友人や恋人等と過ごしたり、コミュニケーションをとっているとき」「家族と過ごしたり、コミュニケーションをとっているとき」の計2項目、以下【コミュニケーション】)、必ずしもアクティブな行動や活動ではなく、他者とのコミュニケーションからは離れて過ごす時間(「1人で過ごしているとき」「何もしないで静かに過ごすとき」「テレビやインターネットをみたり、本を読んでいるとき」「ペットと過ごしているとき」の計4項目、以下【リラックス】)の3領域で構成している(図表3)。

中高年単身者の幸福感
(画像=第一生命経済研究所)

 その結果、まず、正規雇用者では「おいしいものを食べたり、飲んだりするとき」(54.2%)をあげた人が最も多く、「収入があったとき」(49.7%)、「旅行しているとき」(48.3%)がこれに続いた。「仕事に打ち込んでいるとき」をあげた人は31.6%と、全項目のうち9番目の位置を占める。正規雇用者では「収入があったとき」とともに、「趣味やスポーツに熱中しているとき」や「旅行しているとき」など【アクティブ】領域の項目が上位にあげられている。

 一方、非正規雇用者では「収入があったとき」(57.1%)をあげた人が最も多く、「おいしいものを食べたり、飲んだりするとき」(55.9%)、「一人で過ごしているとき」(54.9%)がこれに続いた。「仕事に打ち込んでいるとき」をあげた人は32.7%と、正規就労者と同様に全項目のうち9番目の位置を占める。また、非正規雇用者では、【アクティブ】領域の上位項目が「おいしいものを食べたり、飲んだりするとき」に限られる一方、【リラックス】領域の「一人で過ごしているとき」が男女とも上位にあげられている。

 【仕事】領域の2項目に注目すると、充実感を感じるときとして「仕事に打ち込んでいるとき」をあげた人は、就労形態にかかわらず3割強であった一方、「収入があったとき」をあげた人は正規雇用者で49.7%、非正規雇用者では57.1%を占めた。収入は中高年単身者の充実感に強く関連していると考えられる。

 なお、「特にない」をあげた人の割合に就労形態による大きな差はみられなかった。先の結果と合わせると、ふだんの生活は正規雇用者の方が充実していると感じている人が多いが、充実感を感じるときの有無という点に関して両者に差はないようだ。

(3)充実感を感じるときへの回答状況に基づく中高年単身者の類型化

 次に、【仕事】領域の2項目と、それ以外の項目への回答状況を考察するため、回答者を次の4グループに類型化した(図表4)。

 1つ目のグループは、【仕事】領域の2項目を選択した一方で、それ以外の項目は選択しなかった「仕事・収入重視型」である。このグループの特徴は、仕事に打ち込んでいるときや、収入があったときだけに充実感を感じる人ということになる。2つ目は、【仕事】領域の2項目を選択した一方で、それ以外の項目も選択した「バランス型」である。このグループの特徴は、仕事に打ち込んでいるときや、収入があったときに充実感を感じる一方で、それ以外にも充実感を感じる時間や活動がある人ということになる。3つ目は、【仕事】領域の2項目を選択しなかった一方で、それ以外の項目は選択した「プライベート重視型」である。このグループの特徴は、仕事に打ち込んでいるときや収入があったときには特に充実感を感じないが、それ以外の時間や活動に充実感を感じる人ということになる。最後に4つ目は、いずれの項目も選択せず「特にない」を選択した「充実時間なし型」である。このグループの特徴は、充実感を感じる時間や活動をもたない人ということになる。

中高年単身者の幸福感
(画像=第一生命経済研究所)

 これら4類型の分布をみたところ、就労形態にかかわらず最も高い割合を占めたのは仕事と仕事以外の双方で充実感を感じる「バランス型」で5割強から6割前後を占めた(図表5)。3割弱でこれに次いだのは「プライベート重視型」で、「充実時間なし型」は1割前後から2割弱、「仕事・収入重視型」は1割にも満たない。これらの結果から、収入や仕事は、中高年単身者が充実感を感じる重要な要素であるが、「仕事・収入重視型」の人はかなり少数派であることが明らかになった。

中高年単身者の幸福感
(画像=第一生命経済研究所)

3.中高年単身者の幸福感

(1)幸福感得点

 次に、中高年単身者の幸福感についてみる。今回の調査では「現在、あなたはどの程度幸せですか」という設問文を提示し、「とても不幸」(0点)から「とても幸せ」(10点)までの11段階評価から回答者に自身の幸福感についての主観的評価を求めた。

 回答結果を得点化した結果、回答者全体の平均得点は4.92だった*3。就労形態別にみると、正規雇用者の平均値(5.22)が、非正規雇用者の平均値(4.61)を上回っている(図表6)。また、性別にみた場合、就労形態にかかわらず、女性の平均値が男性を上回っている。先の図表2でふだんの生活の充実感についての回答結果をみた際も、就労形態にかかわらず、女性の方が充実していると答えた人の割合は高かった。これらの結果をふまえると、総合的な人生設計の視点として幸福感など精神面の豊かさについて考えていくことは、女性より男性にとって課題になりやすいのかもしれない。

 また、「充実感を感じるとき」への回答状況別に幸福感得点を比較したところ、就労形態にかかわらず幸福感得点が最も低いのは「充実時間なし型」の人となった。中でも非正規雇用者の「充実時間なし型」の人では3.11と、特に低い水準となっている。これらの人々の幸福感を考える上で、ふだんの生活で充実感を感じられる時間や活動があることは特に重要だと考えられる。また、該当者が少ないため参考値ではあるが、「仕事・収入重視型」の人の幸福感得点は、就労形態にかかわらず、「充実時間なし型」に次いで低かった。

中高年単身者の幸福感
(画像=第一生命経済研究所)

(2)幸福感の高い非正規雇用者、幸福感の低い正規雇用者の特徴

 先にもみたように、今回の調査では正規雇用者の幸福感が非正規雇用者を上回っていた。しかし、幸福感得点をみると、非正規雇用者の「バランス型」の人では4.83、「プライベート重視型」の人では4.80と、正規雇用者の「仕事・収入重視型」(4.38)や「充実時間なし型」(4.05)の人に比べ高くなっていた。

 そこで、以下ではこれら4グループの人のライフスタイルに注目し、どのような特徴がみられるのかを次の4つの側面から考察した。

A:どのようなときに最も充実感を感じるのか
-「充実感を感じるとき」としてあげた複数回答項目のうち「最も充実感を感じるとき」としてあげた項目

B:現在の仕事や働き方に関する自己決定*4
-現在の仕事や働き方は自分の希望で決めたか

C:互いの健康を気づかうつながりの有無
-自分の健康を気づかってくれる人がいるか、自分が健康を気づかっている人がいるか

D:経済状況
-年収・金融資産

 まず、Aの側面(どのようなときに最も充実感を感じるのか)についてみると、4類型のうち幸福感得点が高かった「バランス型」と「プライベート重視型」の非正規雇用者では「趣味やスポーツに熱中しているとき」をあげる割合がいずれも最も高い。これに対して幸福感得点が低かった「仕事・収入重視型」の正規雇用者では、「仕事に打ち込んでいるとき」(53.8%)をあげる割合が最も高く、「収入があったとき」(46.2%)を上回っている。

中高年単身者の幸福感
(画像=第一生命経済研究所)

 次にBの側面(現在の仕事や働き方に関する自己決定)についてみると、4類型のうち幸福感得点の高かった「バランス型」と「プライベート重視型」の非正規雇用者では現在の仕事や働き方に関して「自分の希望で決めた・決めている」と答えた人が8割前後を占めるが、幸福感得点の低かった「充実時間なし型」の正規雇用者では54.7%にとどまっている。

 また、Cの側面(互いの健康を気づかうつながりの有無)についてみると、4類型のうち幸福感得点の高かった「バランス型」と「プライベート重視型」の非正規雇用者では「自分の健康を気づかってくれる人がいる」と答えた割合や「自分が健康を気づかっている人がいる」と答えた割合が正規雇用者の「充実感なし型」の人に比べ高い傾向にある。

 最後にDの側面(年収・金融資産)をみると、幸福感得点の高かった「バランス型」「プライベート重視型」の非正規雇用者では、平均値ベースでみた場合、年収・金融資産の双方とも幸福感得点の低かった「仕事・収入重視型」や「充実時間なし型」の正規雇用者を下回っていた。

4.中高年単身者の幸福感と仕事以外の時間・活動の重要性

 本研究では、雇用者として働く中高年単身者の充実感の実態や幸福感との関連性を分析した。その結果、ふだんの生活について充実していると答えた人は正規雇用者(36.2%)が非正規雇用者(30.7%)を上回っていた。また、充実感を感じるときとして仕事に関する項目に注目した場合、「仕事に打ち込んでいるとき」をあげた人は、就労形態にかかわらず3割前後であった一方、「収入があったとき」をあげた人は正規雇用者で49.7%、非正規雇用者では57.1%を占めた。収入は就労形態にかかわらず中高年単身者の充実感に強く関連している。

 また、充実感を感じるときについての回答結果を、仕事関連の2項目とそれ以外の項目の選択状況によって4グループに類型化したところ、就労形態にかかわらず最も高い割合を占めたのは仕事と仕事以外の双方に充実感を感じる「バランス型」で5割強から6割前後を占めた。雇用者として働く中高年単身者には、現在の仕事とともに、仕事以外の時間や活動で充実感を得ることが、仕事とプライベートの好循環につながる可能性をもつ人が少なくないと考えられる*5。

 次に、充実感を感じるときの4類型別に幸福感を比較したところ、「バランス型」や「プライベート重視型」の人は、就労形態にかかわらず「仕事・収入重視型」や「充実時間なし型」の人に比べ幸福感が高かった。雇用者として働く中高年単身者の幸福感には、充実感を感じられる仕事や、仕事以外の時間や活動があるかどうかが重要だと考えられる。なお、今回の調査では正規雇用者の幸福感が非正規雇用者を上回ったが、「バランス型」や「プライベート重視型」の非正規雇用者では「仕事・収入重視型」や「充実感なし型」の正規雇用者に比べ幸福感得点が高かった。これらの非正規雇用者では年収や金融資産の平均値は、正規雇用者の水準を下回っていた。一方で、最も充実感を感じるときとして「趣味やスポーツに熱中しているとき」をあげる人が多かったほか、現在の仕事や働き方について自分の希望で決めたと感じている人の割合や互いの健康を気づかうつながりがあると答えた人の割合が「充実時間なし型」の正規雇用者を上回っていた。

 これらの傾向をふまえれば、熱中できるような趣味やスポーツの時間をもつことを意識したり、現時点では自分の希望とのミスマッチを感じている仕事や働き方の将来像についてあらためて考える機会をもつことは、充実時間なし型の正規雇用者が経済面にとどまらない人生設計を考えていくきっかけになるのではないか。また、それらの仕事や活動を通じて、互いの健康を気づかうつながりを得ることは、「充実時間なし型」の正規雇用者の幸福感を考えていく上で重要な視点になる可能性があると思われる。

【注釈】
*1 年齢と幸福感の関連性については、欧米などの諸外国では若いときと高齢期で高く中年期には低いU字型を描くとされるが、日本では多様な議論がある。

*2 「中高年単身者の生活実態に関するアンケート調査」。調査方法はインターネット調査(調査機関 株式会社クロス・マーケティング)、調査時期は2018年10月。なお、平成29年版厚生労働白書によると、世帯主が40~50歳代の世帯では2004年以降、非正規雇用労働者が世帯主である割合は増加傾向にあるものの、おおむね全体の1割程度で推移している。

*3 全国の15 歳以上の男女10,440人を対象として内閣府が2012年3月に実施した調査によると、日本人の幸福感の平均値は6.6、男性6.3、女性6.9である(内閣府 2012)。今回の回答者の平均値は、就労形態や性別にかかわらずこれに比べ低い水準にあるといえる。

*4 自己決定(選択の自由)は、所得や健康とともに幸福感の説明変数として取り上げられることが多く、西村・八木(2018)では所得や学歴より強い影響を与えるとしている。今回の調査では西村らが採用した自己決定を測定する設問文を参考にして調査項目を作成した。

*5 近年では就労者の心身の健康増進や仕事のパフォーマンス向上のために、「オン(仕事中)の時間のほかに、オフ(仕事外)の時間に注目することが大切」(島津編、2017)であることが注目されている。今回の分析によると、中高年単身者では就労形態や性別にかかわらず「バランス型」の人が最も高い割合を占めており、仕事と仕事以外の活動・時間の間で「ポジティブな経路」(同書)が増えることが、仕事の生産性の向上につながることを期待できる人が多いと考えられる。

上席主任研究員 ライフデザイン研究部 北村 安樹子