「資産の取り崩し(デキュミュレーション)」という言葉をご存じだろうか。アキュミュレーション(資産の蓄積)の逆を意味する言葉だ。高齢化社会が進展する中、蓄えた資産をいかにバランス良く取り崩していくかにも注目が集まっている。今回は、そんなデキュミュレーションについて詳しく見ていこう。
「老後資金には3,000万円必要」の理由
厚生労働省の調査によると、2017年の日本人の平均寿命は男性が81.09歳、女性が87.26歳で過去最高となった。 昨今、年金の支給開始年齢の引き上げや定年の延長が取りざただれいるが、平均寿命まで生きた場合でも、リタイアから20年ほどは生活を営んでいかなくてはならないことになる。
一方、老後の資金計画はどうだろうか。総務省の「平成29年家計調査」によると、高齢無職世帯の生活費は1ヶ月あたり約23.8万円。 しかし、年金などからの収入は20.4万円で支出が収入を超過している。このモデルケースで言えば、毎月3.4万円の赤字で、年間に直すと約41万円。これを20年間継続するとなると最低でも800万円以上が必要だ。
ただし、この家計調査の支出額は基礎的な生活費のみを合算したものとなっている。孫や子どもに経済支援をしたり、夫婦で旅行を楽しんだりといった「余裕ある老後」には、毎月35万円ほどかかるともいわれる。 また、体調を崩して入院したり、家のリフォームが必要になったりといったアクシデントも考えられる。こうしたことから、「老後資金には最低3,000万円が必要」といわれているのだ。
老後資金は「自己防衛」の時代、退職金や年金は不十分
公的年金を老後資金の柱にしている人もいまだ多い。しかし、上記を見ると、とても公的年金だけではやっていけず、預貯金を取り崩すことが重要だということがわかるはずだ。
超低金利時代のいま、効率的に資産を形成するには預貯金だけでは足りない。「貯蓄から投資へ」というスローガンはもう何年も訴えられているものだが、いまだ実行に及んでいる人は少ないようだ。現役世代であれば、年収のうち1割でも投資に振り向けて、年間3%ででも運用すれば、数年後の結果は変わってくるはずだ。昨今は、NISA(少額投資非課税制度)など非課税型の口座を開けば、さらに効率よく運用できる。
中には、「退職金があるから大丈夫」という人もいるかもしれない。 厚生労働省の「平成25年就労条件総合調査結果」によると、勤続20年以上かつ45歳以上の定年退職した大卒者でも退職金平均支給額は1,941万円。とてもではないが、老後資金の3,000万円には及ばない。
そもそも、「退職金(退職一時金、退職手当)」として退職時にボーナスを支給するのはほぼ日本独自の慣習だ。退職金制度は、高度成長期からの経済発展の中、1社に長く勤め上げるためのインセンティブとして導入された背景がある。 終身雇用制が崩壊し、転職が珍しくなくなった近年において、退職金の魅力は薄れ、退職金制度を設けている企業数自体も少なくなりつつある。 やはり、老後資金は「自己防衛」の時代なのだ。
アキュミュレーションとデキュミュレーションのバランスを
リタイアした後は、資産運用だけでなくいかに資産を取り崩していくか、アキュミュレーションとデキュミュレーションのバランスが重要だ。 日本では、退職一時金に税制優遇が受けられるため、個人型確定拠出年金制度を設けている企業であっても、多くの退職者は退職時の一括払い戻しを好む。 他方で、個人型確定拠出年金制度が年金および退職金の柱となっている他国では、退職者は資産の引き出しをしながら投資を継続する。もし一時金で受けとったとしても、長期的に見てインフレや収益機会の逸失などでマイナスになってしまう可能性も高いからだ。まさにアキュミュレーションとデキュミュレーションのバランスをとった考え方といえるだろう。
このように、日本人の老後資金の考え方は、税制によるものも大きい。高齢化問題が深刻化し、社会保障の財源確保が心もとなくなる中、高齢者の資産活用を適切に行うためにも、税制を含めた見直しと、デキュミュレーションを支援する金融商品の拡充が求められている。 (提供:百計ONLINE)
【オススメ記事 百計ONLINE】
・後継者問題解消、3つのパターン
・事業承継税制の活用で後継者へのバトンタッチをスムーズに
・相続税対策に都心の不動産が適している理由とは
・長寿企業に見る、後継者育成と「番頭」の重要性
・中小企業の事業譲渡としての秘策・従業員のMBOについて