GDPを需要側から見ると

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(画像=PIXTA)

以前の記事で、三面等価の法則により需要と供給と所得、言い換えれば支出と生産と収入とは一致すると述べた。とすると、GDPと同じ数字の別のデータもあるということになる。

GDPのPは“Product”(生産)であるため、厳密には供給側、売り手側からみたものになる。これを需要(支出)側、買い手側からみるとGDE(Gross domestic Expenditure)、所得(収入)側からみるとGDI(Gross domestic Income)ということになる。

このように、3つの側面からみたGDPというものがある。GDP速報値というのは、最終消費者が支出した総額から輸入総額を引いて計算しているため、発表されているデータは、厳密にいうとGDPではなくてGDEとなる。ただし三面等価の法則から同じ数字なため、GDPと言っているだけである。

結局、需要側からでないとなかなか集計が難しいため、GDP速報値はGDEで推計をするわけである。これに対し、毎年12月に発表される本当の意味でのGDPは、生産の細かいデータを集計して計算している。これが確報値ということになる。

所得の数字であるGDIも、厳密な内訳は確報値でしか発表されないが、「雇用者報酬」のデータだけは四半期のGDP速報値の中でも発表される。

雇用者報酬というのは、企業が労働者に支払った人件費の合計、つまり労働者が受け取る賃金・俸給、企業が負担する社会保険料等、企業側からみた人件費である。以下の「経済の体系」の表でいうと、GDP速報値で発表されるのはアミがけの部分となる。雇用者報酬では、雇用者の数が何人とか、一人当たりの賃金がいくらとかいうことは出ないが、企業が払った「雇用者×平均賃金」という全体の人件費が出るため、アミかけになっている。

基本的に最終の需要を集計するため、「家計」「企業」「政府」「海外」の支出を足し合わせる。そこから輸入を引くため、輸入の金額も出ることになる。更に、名目GDPから物価の変動分を除いて実質GDPを出しているため、物価のデータも出てくる。つまり、「経済の体系」のなかの相当な部分がGDP速報値でわかるということになる。

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GDPの構成比

以下の表は、2017年度の日本のGDP(国内総支出)構成比である。この表は、どのようなところから最終需要が出たのかを細かく表したもので、「国内需要」と「海外需要」の二つに大きくわかれる。

海外需要のほうをまずみてみると、先ほども述べたとおり、GDPというのは国内で生み出された総付加価値であるため、輸入を引かなければならない。従って、海外需要というのは輸出から輸入を引いたものということになる。

それに対して国内需要は、民間が出費した「民間需要」と、政府や自治体が出費した「公的需要」の二つに大きく分かれている。民間需要は更に四つに分かれる。「民間最終消費支出」というのは、個人消費といわれているものである。それから「民間住宅」。この二つは、経済主体でいうと家計の出費になる。また「民間企業設備」と「民間在庫品増加」の経済主体は企業である。

もう一つの公的需要というのは政府部門の支出ということで、「政府最終消費支出」「公的固定資本形成」「公的在庫品増加」に分かれる。それによって経済成長率にどの程度貢献しているかというのが「寄与度」である。こういうかたちで数字が出てくるわけである。

そこで2017年度の日本のGDPの実質変化率をみると、経済成長率は1.6%、経済規模は名目で約548兆円ということがわかる。名目値の中で最もウェイトが大きいのが民間最終消費支出で55%強、次いで公的需要の政府最終消費支出、輸出の順になっている。

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輸出と輸入も、それぞれそれなりに大きいが、輸入が引かれるため、海外需要は小さくなっている。なぜ輸入が差し引かれるのかというと、輸入というのは国内で生み出された付加価値ではないからと考えればわかりやすい。

それぞれの需要項目のポイントをまとめると、次のようになる。

民間最終消費支出…我々個人の家計が普通に買い物をした場合の消費支出の合計
民間住宅投資…我々個人が住む住宅建設のための支出
民間企業設備…企業の事業活動に必要な機械類、工場や店舗等の設備に対する企業の投資
民間在庫品増加…メーカーや流通業者の売れ残りの増減(需要だけを合計してしまうと、誰も買わないという在庫もあるため、供給と合わなくなる。そこを埋め合わせるのが、この在庫品の変動である。つまり、需要と供給、支出と生産が一致するためには、在庫の変動も足し合わせなければならない)。
政府最終消費支出…公務員給与等の人件費や社会保険で賄う医療費等の社会保障費
公的固定資本形成…橋や道路等の社会資本整備のための支出。公共投資ともいわれる
公的在庫品増加…政府が備蓄している原油や米、金貨などの変動

これらは需要側からみたものであるため、結局、誰が買ったかということで分類される。例えば同じパソコンを買ったとしても、誰が買ったかによって、分類される項目が違ってくる。個人が買えば民間最終消費支出になり、企業が買えば民間企業設備になり、政府が買えば政府最終消費支出になる。同じパソコンでも、どこに計上されるかで違ってくるということである。

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永濱利廣(ながはま としひろ)
第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト
1995年早稲田大学理工学部卒、2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年4月第一生命入社、1998年4月より日本経済研究センター出向。2000年4月より第一生命経済研究所経済調査部、2016年4月より現職。経済財政諮問会議政策コメンテーター、総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事兼事務局長、あしぎん総合研究所客員研究員、あしかが輝き大使、佐野ふるさと特使。

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