1-3月期の株価2万円台の推移で消費を▲0.3%pt 程押し下げも原油価格の低下が下支えに

要旨

○世界経済の減速懸念の強まりや海外情勢の不透明感の高まりなどを背景に10-12 月期の日経平均株価の期中平均(22000 円弱)は前期(22650 円程)から▲3.0%程下落し、足元では2万300~400 円程度で推移している。株価の下落は逆資産効果やマインドの悪化を通じて消費に悪影響を与えると考えられ、そのインパクトを消費関数を用いて推計した。

○その結果、1-3月期の日経平均株価が2万円台で推移した場合、個人消費を▲0.3%pt 程下押しするとみられることが分かった。日本では、家計の資産に占める株式等の割合が低いことから逆資産効果よりも、消費者マインドの悪化が消費を減退させると考えられる。

○株価の下落による消費への悪影響が懸念される一方で、原油価格の下落を背景とした物価上昇率の鈍化による家計の実質購買力の改善や節約志向の緩和が消費を下支えするとみられる。このため、1-3月期の株価が2万円台で足踏みしても、消費の腰折れを懸念する必要はないが、海外情勢の視界不良が続く中で、消費の先行きを占う上でも2019 年の株式市場の動向には注意が必要だ。

株価下落
(画像=PIXTA)

落ち着きを欠いた株式市場

 昨年末、世界の株式市場が乱高下した。世界的な景気後退懸念が強まっていることに加え、米中貿易戦争の激化や欧州政情不安、トランプ大統領の不安定な政権運営などが世界の株式市場に混乱をもたらした格好だ。日経平均株価は12 月25 日に1年8か月ぶりに2万円を割り込むなど、日本の株式市場も波乱に見舞われた。足元では落ち着きを取り戻しつつあるが、依然として株式市場を取り巻く環境にはリスク要因が残されている。株価の下落で懸念されるのが個人消費の減退である。株価等資産価格の下落で実現損や含み損が生じることにより、家計の消費支出が抑制される「逆資産効果」が起きる可能性がある。また、株価は半年から1年程先の景気に先行していると言われており、株価下落による景気後退懸念の強まりも消費にネガティブに働く。逆資産効果とマインドの悪化が先行きの消費の逆風になる恐れがあるということだ。では、株価下落によりどの程度個人消費に影響が出るのだろうか。以下では、消費関数を用いて、株価下落が個人消費に与える悪影響を試算する。

株価下落で懸念される消費への逆風
(画像=第一生命経済研究所)

株価2万円台の推移で個人消費は▲0.3%pt 程減少

 株価下落による個人消費への影響を試算するために用いた式は以下の通りである(資料2)。

株価下落で懸念される消費への逆風
(画像=第一生命経済研究所)

 2018 年10-12 月期の日経平均株価の期中平均は22000 円弱であった。仮に1-3月期の日経平均株価の期中平均が10-12 月期から1割程安い2万円近辺で推移した場合、上記の式より個人消費を前期比▲0.3%pt 程下押しし、GDP を年率では▲0.6%pt 程度減少させることになる。

 上述したように、株価の下落は2つの経路を通じて個人消費を下押しするが、とりわけマインド面の影響が大きいと考えられる。そもそも日本では家計の株式保有割合が低いことから、株価が大きく下落したとしても、資産への影響は限定的であるからだ(資料3)。裏を返せば、株価が大きく上昇した際には、その恩恵を受けにくいということでもある。一方、マインド効果は、資産を株式で持つ持たずに関わらず、幅広い消費者に影響を与える(資料4)。12 月の景気ウォッチャー調査の先行きに関するコメントを見ると「株価」といったワードを含むコメントは98 件あり、そのほとんどが株価の下落が景気の先行きに暗い影を落とすといった見方をしており、株価の下落がマインドを悪化させていることが窺える(資料5)。

株価下落で懸念される消費への逆風
(画像=第一生命経済研究所)
株価下落で懸念される消費への逆風
(画像=第一生命経済研究所)
株価下落で懸念される消費への逆風
(画像=第一生命経済研究所)

原油価格下落による物価上昇率の鈍化が消費を下支え

 株価の下落が個人消費を下押しすると見込まれる一方で、原油価格の下落による物価上昇率の鈍化が消費の下支え要因になるとみられる。原油価格(ドバイ先物)は7-9月期から10-12 月期にかけて、▲9.7%下落した(資料6)。日本のような原油輸入国にとって、原油価格の低下は物価上昇率を鈍化させ、実質購買力を改善させる。

 また、物価上昇率の鈍化は消費者マインドの改善にも繋がる。計量的な分析手法を用いて、CPI の上昇が消費者マインドに与える影響を観察したところ、2~3期目に有意な負の影響を確認できた(資料7)。つまり、原油価格の下落により、ガソリンなどを始めとした日常生活に身近な製品価格が下落することで(=物価上昇率の鈍化)、家計の節約志向が和らぐと考えられる。

 このように原油価格の低下が消費の下支え要因になるとみられることから、1-3月期の株価が2万円台で足踏みしたとしても、消費の腰折れを懸念する必要はないだろう。ただ、海外経済の視界不良が続く中で、この先株価が一段と低迷するリスクは依然として残されている。消費の先行きを占う上でも、株式市場の動向には引き続き注意しておいた方が良さそうだ。(提供:第一生命経済研究所

株価下落で懸念される消費への逆風
(画像=第一生命経済研究所)