国際比較でわかるアメリカ経済の重要性

gdp, 国際比較
(画像=PIXTA)

GDPは世界中で公表されている。ということは、GDPの動きを国際比較できるということだ。

GDPには「名目GDP」と「実質GDP」という二つのデータがある。実は、名目と実質は経済データを見るときの非常に重要なポイントとなる。経済成長率のデータのもとになっているのは、実質GDPのほうである。なぜなのだろうか。

これについては、名目GDPのほうから説明したほうがわかりやすい。名目GDPとは、国内で生み出された付加価値の金額を単純に足し合わせたものである。しかし、この名目GDPの変化率をそのまま経済成長率にしてしまうと、まずいことが起こる。

その国に住んでいる人たちが、どれだけ豊かになっているのかを見るのが経済成長率である。基本的には人々が経済取引を活発に行うと名目GDPは増えるが、取引価格の値段が上がっただけでも名目GDPは増えてしまう。つまり、同じものを買っていても、その値段が上がっていれば、その分だけ合計金額は増えてしまう。

しかし、実質的には、同じモノやサービスしか買っていないわけなので、そこに住んでいる人たちの生活が豊かになったわけではない。このため、経済成長率を計るときには、物価の上昇分や下落分を除かなくてはならないのである。それを除いたものが実質GDPとなる。

2008年7-9月期の水準を100としてどのようにGDPが動いたのかをグラフにした。リーマンショックが起きた2008年9月以降、各国のGDPがどう動いたかを見たものである。

まず名目GDPでみると、アメリカが最も増えていることがわかる。一方、ユーロ圏は2011年頃から一旦横ばいになった後は順調に拡大している。

他方、日本はリーマンショックで最も大きく落ち込んでからの戻りが最も弱い。この理由のひとつには、日本の物価上昇率が最も低いことがある。日本は物価の上昇率が低いため、どんなにモノやサービスの取引が活発になっても、その価格の上昇率が低いため、単純にその金額を足し合わせた名目GDPは増えにくい。

それに対して、アメリカもユーロ圏も物価上昇率が日本よりも高いため、名目GDPではグラフのように差が開くことになる。なお、ユーロ圏が2011年頃からアメリカに大きく差をつけられたのは、ギリシャを発端とした財政危機が起きたからである。そのため名目GDPも一時的に増えにくくなったということが、ここで見て取れる。

gdp, 国際比較

ただ、これはあくまでも名目GDPの数字であって、物価の変動分を除去した実質GDPのグラフではない。実は、実質GDPで見ると、ユーロ圏と日本では大差がないことがわかる。

gdp, 国際比較

ここでもう一つ興味深いのが、リーマンショックの後、最も実質GDPが落ちたのが日本だということである。このように、アメリカで起こった経済危機であったにもかかわらず、アメリカ経済よりもむしろ日本経済が悪影響を受けたという事実からも分かるのは、世界経済に最も影響力が強いのは、やはりアメリカだということである。アメリカの経済によって、世界の経済が大きく動かされているということが示されている。

実際のGDPのカウントの仕方

更に、付加価値のことをもう少し詳しく見てみよう。GDPとは総付加価値であるが、生産額と何が違うのかということである。

例えば自動車を生産し、最終的に消費者に販売するという経済活動は、GDPとしてどのようにカウントされるのか。自動車が消費者の手に渡るまでに生み出される付加価値について、概念図を使って説明すると以下のとおりとなる。

gdp, 国際比較

車を生産する場合には色々な部品が必要になるが、最も単純な部分で見れば、鉄鉱石が重要になる。日本は鉄鉱石をほとんど海外から輸入している。そして、仮に1台の車をつくるのに20万円の鉄鉱石が必要になると仮定すれば、製鉄所は20万円の鉄鉱石を海外から輸入して、鋼板に加工する必要がある。例えば、その鋼板を40万円でメーカーに売ると仮定すれば、製鉄所で生み出された付加価値は20万円ということになる。

メーカーは、それをまた様々な部品と合わせて車を生産することになる。そして、その完成車をディーラーに70万円で売ったとすると、メーカーは製鉄所に40万円払って鉄板鉱石を買い、70万円でディーラーに車を売っていることになるため、そこで生み出された付加価値は30万円ということになる。

ディーラーはディーラーで販売促進活動等があり、そこで働いている人たちの給料等を支払うために、70万円で仕入れた車を100万円で消費者に売ると仮定する。以上のような経済活動があったとすると、その場合の付加価値は、それぞれの付加価値を足し合わせたものになり、

付加価値額=製鉄所20万円+メーカー30万円+ディーラー30万円=80万円

になる。しかしこれを生産額で見ると、

生産額=製鉄所40万円+メーカー70万円+ディーラー100万円=210万円

になる。これが総付加価値額と総生産額の違いである。

これはあくまでも車の一取引をみた場合だが、このような取引の付加価値を足し合わせてGDPを計算しているわけではない。では、どのようにGDPを計算しているのかというと、実は非常の簡単な計算の仕方がある。すなわち、最終需要消費者が購入した金額と日本が輸入した金額の総額さえわかれば、途中の段階は無視して、「100万円―20万円=80万円」という形で付加価値額の80万円が導きだせるかということである。

こうした計算をすれば、結果的に全ての付加価値を足した場合と同じ金額になる。そういう形でGDP速報は計算されていることになるわけである。

永濱利廣(ながはま としひろ)
第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト
1995年早稲田大学理工学部卒、2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年4月第一生命入社、1998年4月より日本経済研究センター出向。2000年4月より第一生命経済研究所経済調査部、2016年4月より現職。経済財政諮問会議政策コメンテーター、総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事兼事務局長、あしぎん総合研究所客員研究員、あしかが輝き大使、佐野ふるさと特使。