要旨

●年末に決定した2019年度の予算案が再度閣議決定された。毎月勤労統計の不適切処理発覚に伴い、過去に遡って労働保険等の給付が必要になったため。追加額は795億円、その多くは労働保険特別会計から給付される。一般会計からは雇用保険の国庫負担分等6.5億円が追加され、それに対応して赤字国債を発行する。財政収支や国債発行額への影響は、全体の規模と比較すればさほど大きくはない。

●「賃金」の値は年金改定率算出の際にも用いられるが、この賃金には毎月勤労統計とは別の「標準報酬」が用いられている。そのため、毎月勤労統計の不適切処理問題が基礎年金や厚生年金の給付額に影響を及ぼすことはない。

●今回の問題を受けて、政府は56の基幹統計の実態点検を行う方針だ。しかし、年金改定率の算出に用いる「標準報酬」が掲載されている年金の事業統計は、この基幹統計に指定されておらず、点検対象から漏れている。年金は社会保障給付費の最大ウェイトを占め、この値に不備があれば国民生活や財政への影響も大きくなってくる。政府や統計に対する不信払拭のために、ここも点検対象に加えるべきではないか。

予算
(画像=PIXTA)

追加の国債発行額は6.5億円

 18日、年末に閣議決定された2019年度予算案が修正の上で再度閣議決定された。これは、毎月勤労統計の不適切処理問題を受け、雇用保険や労災保険を中心に過小給付が発覚、過去に遡って給付を行う必要が生じたことによるものだ。金額が変わる形で閣議決定後の予算を決め直したのは1990年度予算以来とのことである。

 国の一般会計に関して修正状況をみると、歳出は6.5億円増加し、従来の101兆4,564億円から101兆4,571億円となる。この増額分の財源として同額の赤字国債が発行される形だ。新規国債発行額は従来の32兆6,598億円から、32兆6,605億円に増加する。財政収支や国債発行額の規模と比較すれば、今回の修正の影響はさほど大きくはない。

 一般会計への影響が軽微に留まっているのは、必要となった追加歳出額など795億円の殆どが労災保険や雇用保険を運営するための労働保険特別会計から給付されているためである。雇用保険給付については多くが社会保険料から賄われ、給付の一部を一般会計から国庫補填する仕組みとなっている(これが一般会計の歳出増に繋がっている)。一方、労災保険については給付の全額が基本的に事業主負担の社会保険料によって賄う枠組みだ。また、2019年度の労働保険特別会計予算は年末決定時点で元々歳入超過の予算となっていたほか、昨今の失業減少などを背景に取り崩すことの出来る多額の積立金がある1。こうした点から、追加の国債発行額は抑えられた形である。

2019年度修正予算案のポイント
(画像=第一生命経済研究所)

年金改定率計算の際の「賃金」は別統計。毎勤不正の影響は波及しない

 今回の毎月勤労統計の不適切処理問題だが、財政への影響は社会保障のうち労働保険(労災保険と雇用保険)に関わるものが中心となっている。社会保障のうち規模の大きい厚生年金や基礎年金の給付額を算定する際にも「賃金」の値は用いられているが、この「賃金」は毎月勤労統計ではなく、社会保険料の算定ベースとなる「標準報酬」をベースとする仕組みになっている。このため、今回の毎月勤労統計の不正処理問題は、国民年金や厚生年金保険等の給付には影響を及ぼさない。

年金事業統計にも調査を掛けるべきでは?

 政府は今回の毎月勤労統計問題を受けて、56の基幹統計について調査実態の点検を行う方針だ。先に述べたように、年金改定率に用いる賃金には健康・厚生年金保険料の算定に用いる「標準報酬」の値が用いられている。しかし、これが掲載されている厚生年金保険・国民年金事業統計(厚生労働省が調査)は基幹統計に指定されておらず、点検対象から漏れている。年金は社会保障給付費の最大ウェイトを占め、この値に不備があれば国民生活や財政への影響も大きくなってくる。政府統計への不信を払拭するためにも、この数値についても不適切な取扱がなされていないか、点検を掛けるべきではないか。(提供:第一生命経済研究所


1 財務省が昨年3月に公表した国の財務書類によれば、2016年度末の労災勘定の積立金が7.9兆円、雇用勘定の積立金は6.3兆円ある。

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
副主任エコノミスト 星野 卓也