2019 年は4・5 月に10 連休が予定される。そこで予想される日本人の国内旅行需要は前年に比べて+3,323 億円の増加になると推定される。また、これに増加するインバウンド需要を加えて年間全体の国内旅行需要を計算すると、前年比+6,911 億円の増加が見込まれることになる。改元に伴って、皇室行事や日本文化・伝統・歴史に関心が集まることも旅行需要を盛り上げると予想される。
旅行需要への期待感
2019 年の日本経済は、改元に伴う行事が消費喚起に貢献するとみられる。中でも最もわかりやすいのは、元年がスタートする5月1日の前後が休日となってゴールデンウィーク(以下GWと略す)が10 連休となることに伴う長期休暇の効果である。すでに、旅行会社では、海外旅行の予約が著しく増加していると伝えられている。国内旅行の方は、まだ先の予定ということで増加の状況は明らかではないが、こちらも宿泊旅行のような大型の旅行を中心に増加することが期待される。本稿ではそうした10 連休を含めて2019 年中の旅行需要がどのくらい増加するのかを考えてみた。
定量的なデータとして国土交通省・観光庁が国内旅行消費額を推定して発表している。2017 年のわが国の旅行消費額は、26.7 兆円とされる。この中には、国内の購買力には入らない日本人の海外旅行・消費は含んでいないが、日本人が海外旅行に当たって国内で行った消費分はカウントしている。また、訪日外国人の旅行消費のうち日本国内で行った部分も含んでいる。
なお、この消費額は、中間投入を含んでおり、GDPの付加価値ベースよりも大きくなっている。26.7 兆円の旅行消費額を付加価値ベースに引き直すと、12.8 兆円と約半分になる計算だ。家計最終消費(除く帰属家賃)の5.25%に相当する。ざっくり言えば、旅行需要は、個人消費の1/19 という規模感になる。これは結構大きい。例えば、耐久消費財需要24.6 兆円(2017 年)の約半分(52%)と言えばわかりやすい。
GWの需要増
2019 年の10 連休に対して、2018 年は4月末に3連休、5月初に4連休と分割されていた。10連休とは、中間にある平日(4月30 日、5月1日、2日)を祝日に変えることで連続休暇となる。そこで、平日が祝日化することなどで、国内旅行関連消費がどのくらい変化するのかを試算してみた(図表1)。
総務省「家計調査」を使うと、2018 年は平日2日間を含んだ9日間だったが、2019 年はそれ2019 年は4・5 月に10 連休が予定される。そこで予想される日本人の国内旅行需要は前年に比べがすべて祝日になることで、国内旅行関連消費が12.9%増加することが予想される。また、2019 年は10 日間であるが、2018 年は谷間の平日を含めて9日間だったので、1日ほど日数が増える効果もある(11.1%増)。さらに、5月1日が改元初日となることで、この10 連休のタイミングで皇居のある東京都に旅行してみたいと感じて国内旅行を新しく計画する人もいくらか増える効果が見込まれる(4.8%増と予想)。この3つを合算すると、前年比28.9%増となる。
2018 年のGWの9日間(2018 年4月28 日~5月6日)の旅行関連消費11,501 億円(推定値)に対して、2019 年の10 連休(2019 年4月27 日~5月6日)の旅行関連消費は14,824 億円(+3,323 億円増)に膨らむと見込まれる。
次に、GWの全体の個人消費支出を総務省「家計調査」から割り出してみたい。2018 年の4月28 日~5月6日までの9日間は、1年間の2.8%のウエイトであり、実額では6.9 兆円となる。このうち、旅行関連支出は11,501 億円になると推定される。国民の中には旅行しない人も大勢いるので、旅行支出は全体からみて、相対的に小さくなる。
この11,501 億円が、2019 年は①平日2日間が祝日になる効果、②日数が9日間から10 日間になる効果、③改元初日に人が都内に集まる効果によって、併せて28.9%の増加をみると考えた。実額では、+3,323 億円の旅行関連支出増が予想される。
年間休日は123 日間
2019 年全体を通じて言えることは、10 連休を含めて年間休日(土日・祝日・正月3ヶ日)が123 日と多いことである。この休日の多さは、2010 年以降を数えて最大である(図表2)。おそらく、過去最大と考えられる。
12 月23 日の現在の天皇誕生日は今後は祝日ではなくなる。現在の皇太子の誕生日2月23 日は、2020 年以降に祝日になると考えられる。2019 年は、暦年で考えると天皇誕生日がない異例の年となるが、4・5月の3日間と、10 月22 日の即位の礼を併せた4日間が祝日となる。曜日構成を考慮しなければ3日間(=4日-1日)が祝日の増加数となる。
過去の年間休日数と国内旅行消費の関係を調べたところ、単純に日数が増えれば国内旅行消費が増えるという傾向は描けなかった。これは、家計所得、為替レート、天候・気温といった要素が旅行消費に影響を与えるからだ。それでも、他の条件を一定と考えれば、2019 年は休日数が多いことで旅行消費が増えることになろう。家計所得はある程度増え、為替レートが円高でない状態では国内旅行は増えやすいと考えられる。為替レートが予想外に円高になると、国内旅行は割安化する海外旅行へとシフトしていくとみられる。
皇室行事や日本文化への関心
改元が行われると、メディアでは皇室の歴史や皇族についての報道が自然と増えていくだろう。その影響は、皇室行事や日本文化・伝統・歴史への国民の関心を高める。そして、皇居のある都内、あるいは京都・奈良への国内旅行の需要を喚起すると考えることも予想される。
その効果を定量化することは難しいが、年始の一般参賀では、平成で最多となる154,800 人が入場したという(図表3)。この伸び率は、2019 年は前年比22.1%増となった。これも、新旧天皇への国民の関心の高まりを反映している。同様の反応は、例年行われるようになった皇居・乾通りの一般開放にもみられる。この一般開放では、数十万人の参加者が皇居内を散策している。この開放日にシニアの参加者が大挙して集まってくる姿をみると、多くの人が2019 年には旅行需要が刺激されそうだと直感できるだろう。
インバウンドと合算される旅行需要
国内旅行需要の拡大は、国内における観光客だけではなく、訪日外国人によっても促される。むしろ、訪日外国人の方が寄与度は大きいかもしれない。観光庁によると、2018 年の訪日外国人の消費額は45,064 億円(速報値)であった。人数ベースでは、3,119 万人と前年(2,869 万人)に比べて8.7%増である。
旅行会社JTBによると、2019 年の訪日外国人はさらに3,550 万人に増える見通しである。ここには、9~11 月のラグビーワールドカップへの期待もあるだろう。そこで人数の見通しはこれを用いて、さらに1人当たりの消費額が毎年減少していることを加味して、2019 年の訪日外国人の国内旅行需要の押し上げを試算する。実額では、+3,663 億円(2018 年45,064 億円→2019 年48,727 億円)となりそうだ。
これを年間の国内旅行消費、日本人の海外旅行(国内消費分)と合算すると、2019 年27.4 兆円(2018 年26.7 兆円・推定値)よりも+0.7 兆円(+6,911 億円)ほど増加する試算になる。前年比では、国内旅行需要は2.6%の増加になりそうである。(提供:第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部 首席エコノミスト 熊野 英生