事業承継を検討している中小企業経営者にとって後継者選びや、経営における具体的なノウハウや思考法の引き継ぎだけではなく、その時に発生する税金についてどう納税準備をするのかを予め考えておくことは緊喫の課題です。事業承継にあたり、円滑な事業運営を目指して持ち株会社を設立するケースもありますが、なぜ持ち株会社が事業承継に有効だと考えられるのでしょうか。

事業承継で持ち株会社が検討される理由

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(写真=PIXTA)

中小企業にもさまざまなケースがありますが、創業経営者の場合、出資を受けた、会社が上場したなど個別のケースを除いて、経営者自身が自社株を100%保有するケースが多いでしょう。そのほうが企業の意思決定をスムーズに進められるなどのメリットがあります。

創業時は自社株評価額が低くても、企業の成長とともに自社株評価は高くなるものです。事業が順調であればあるほど自社株評価が高くなるため、事業承継時に後継者が多額の税金を支払わなければなりません。自分の直系親族であっても、自社内の優秀な従業員であっても、外部から招聘した優秀な人材であっても、後継者の納税資金をどう工面するかを考えておくほうがよいのですが、多額の資金を準備することは大変です。そのため、自社株評価を圧縮するなどの対策を行うのです。

複数の会社を経営している中小企業の場合は、会社の数だけ自社株を引き継ぎする必要もあります。複数会社があれば「A社は承継したいがB社は承継したくない」と後継者と意見が分かれたりと、手続きが思った以上に煩雑になるケースもあり、スムーズに事業承継が進まない場合もあります。

そういったさまざまな課題を解決するために、一部の中小企業経営者は持ち株会社の設立や、現在経営している株式会社の持ち株会社化しているのです。

事業承継で持ち株会社を設立するメリット

事業承継で持ち株会社を設立することにはどのようなメリットがあるのでしょうか。いくつかの面から考えてみましょう。

自社株の分散防止

経営者が自社株を100%保有している場合、相続が発生すると相続財産は法定相続人に分けられます。複数人の法定相続人に自社株を相続すると経営権の集中をはかる事ができず、スムーズな企業運営ができない可能性もあります。

しかし、後継者が資金を出して持ち株会社を作って100%株主になることによって、持ち株を移転するだけで手続きが終わり、自社株分散を防ぐことが可能となります。

その他

持ち株会社の条件によっては、「純資産価額方式」に加え、「類似業種比準価額方式」を併用して自社株評価を行える可能性があります。また、「純資産価額方式」を用いても、売却後に自社株評価が上昇していれば、その評価益にかかる法人税等相当分の37%を控除できるので、株式評価額の圧縮につながる場合があります。

事業承継での持ち株会社の活用 注意すべき点は?

上記以外にも、経営者自身が株式交換や株式移転を実施して100%子会社化したり、自社株式を持ち株会社に現物出資する方法などが考えられます。こうしたスキームでは次の点に注意しましょう。

まず、持ち株会社が「株式保有特定会社」に該当すると、「類似業種比準価額方式」は使えません。「株式保有特定会社」は総資産に占める株式の割合が50%以上となる会社(中会社、小会社の場合)などを指します。また、持ち株会社が租税特別措置法などに定める「資産保有型会社」や「資産運用型会社」に該当する場合は事業承継税制が適用できなくなるため注意が必要です。

さらに、事業承継対策のために必要性や合理性の乏しい持ち株会社を設立すること自体が評価方法などにおける税務上の否認を招くおそれもあります。

また、持ち株会社の設立時期もよく検討しましょう。事業承継後間もなく持ち株会社を設立して自社株移転を検討しても、創業時に比べて株価が高騰していれば、多額の納税が必要です。そのため、持ち株会社設立時に後継者が選定できていない場合は種類株式や新株予約権を発行しておくなど、対策をしておくことが重要です。

持ち株会社設立の意味をよく考えることが肝要です。

豆知識

事業承継で持ち株会社を活用するステップ

事業承継対策で持ち株会社を活用するにはいくつか方法がありますが、一例を紹介します。後継者が100%株主の持ち株会社を設立し、経営者が自社株を持ち株会社に移すステップは下記のとおりです。

1.後継者が100%保有の持ち株会社を設立
2.持ち株会社が金融機関からの借り入れなどで株式買取資金を調達
3.持ち株会社がグループ会社の自社株式を時価で買い取る
4.グループ会社は持ち株会社に対して配当を行うなどして利益を還元する
5.持ち株会社は配当などを原資として借入金を返済する

将来を見越して早めに事業承継対策を

このように、事業承継目的で持ち株会社を設立するのは企業オーナーにとってメリットがあります。しかし、持ち株会社の設立には時期や後継者選定も考えて進める必要がありますし、持ち株会社設立と株式移転を進める中で資産に関して課題も見えてくるでしょう。そのため、持ち株会社の設立には金融機関をはじめとした専門家のアドバイスを受けながら、後継者の代が困らないように戦略的に検討を進めましょう。(提供:企業オーナーonline

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