経営者が最後の大仕事として行うのが事業承継です。日本では子どもを跡取りとするケースも多くありますが、結果としてお家騒動が起き、親子間で対立する場合もあります。従業員やステークホルダー(株主や金融機関)、そして何より消費者が不安に思わないように、経営者は何をどう考えて後継者にバトンを渡せばよいのでしょうか。

お家騒動は江戸時代が起源

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(写真=PIXTA)

企業で何かしらの対立が生まれると「お家騒動」が起きたと称されることがあります。お家騒動の起源は江戸時代にまで遡り、大名、武家の跡取り騒動を巡る争いを指していました。江戸時代、徳川家康は孫の家光と忠長の間で後継者争いが勃発するおそれがあると報告を聞き、天下泰平の世を作るべく、長幼の序を将軍家のひとつの軸として定め、家光を秀忠の後継者として示したエピソードがあります。

将軍家は家康の軸をベースに15代の慶喜まで代々続きましたが、家族制度や主従関係など様々な原因でお家騒動が勃発した大名家もありました。そういった争いが現代では、企業内の社長と後継者の対立、役員、株主、取引先のポジション取りなど後継者争いや主導権争いを指すようになったのです。

現代のお家騒動 上場企業や有名企業でも

現代では上場企業を中心に事業承継に起因したお家騒動について話題に上がります。

親子で経営方針が違い、株主提案をした事例

会長である父親と社長を務める娘の間で経営方針が分かれ、経営権を巡って起きたお家騒動もあります。高級商材を販売する以上、会員制で1人1人に対してきめ細やかなサービスを提供したいとする父親側の経営方針とは打って変わって、リーズナブルな商品を販売し、多くの人に利用してもらいたいとする娘側との対立はメディアでも大々的に報道されました。株主総会で娘側の会社提案が株主の過半数の賛成を得て可決されたことを受け、創業者の父親は取締役を退任し、これまでの会社のイメージや商品を踏襲した新しい会社を立ち上げ新たな経営を行っています。

娘は株主総会で可決されたリーズナブルな商品の販売へと戦略の舵を切りましたが、その後の評価は分かれています。これだけメディアで会社のお家騒動が報道されると、社員や取引先に不安が走った可能性も否定できません。消費者も、本来の商品やサービスの良さより「お家騒動が起きた会社」というイメージを持ってしまうため、企業イメージの回復がより重要になってきます。

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(写真=PIXTA)

経営方針から親が子どもを退任させた事例

父親から子どもに経営を引き継いだにもかかわらず、子どもを退任させ、自らが代表者に返り咲いた例、妻を代表者に擁立した例もあります。これは事業承継をしたものの、子どもの経営に対する考え方や価値感が自分の代とは相違しており、これまでのやり方や方針を大きく変えた子どもとの間に対立が起きたものになります。この例では、取引先や従業員から不安な声が起きる一方で、子どもの方針に賛成する声もありました。

子どもの経営センスが十分でない例を除けば、父親が経営者として返り咲くことが本当によいことなのかを検討したうえで行動すべき事例となります。会社のブランド価値が下がり消費者や取引先への信頼回復に時間がかかるケースもありますから、慎重な対応が必要です。

事業承継は後継者の覚悟を見るべき

お家騒動はさまざまな要因で勃発しますし、親と子の経営方針が異なって対立することもあります。これは親子間であればなおさらかもしれません。日本は社内承継や第三者承継を選ぶ企業が増えてはいますが、まだ親から子へ代々引き継ぎを行う企業が多いのが実情です。黒字でも子どもが継がない選択をして廃業するケースもあります。今は黒字でも将来性が期待できない、自分がやりたい仕事ではないという理由の他、「親の七光りでの跡取り」だと周囲に思われるのが嫌だという理由も少なからずあるようです。

しかし、60代の親から30代の子どもに事業承継して会社の業績がアップする例が増えているのも事実です。早い段階から子どもにたくさんの経験をさせ、会社の成長に関わった事例を積み重ね、後継者として独り立ちできるようフォローすることが重要でしょう。

当然のことながら、親世代と子世代では経営や事業に対する価値観が異なるので、お互いにギャップを感じる面もあるはずです。後継者と意見が対立することがあれば、後継者が「親への反発」という理由で新しいことを考えていないかをジャッジしてください。

事業戦略がしっかりしていることに加えて、継ぐ側が抱く「時代に合わせて会社を成長させる」「地域貢献する」「従業員数を増やして雇用を創出する」など、会社を拡大するための意欲やビジョンがあり、その上でリスクを取って会社経営を行おうという覚悟があるのなら、会社を任せてしまうのも一案です。

事業承継に対する使命感を持てば、親子間承継は増える

経営方針が異なれば、これまで続いた会社が傾く可能性もゼロではありません。しかし、後継者が経営を見直して会社を抜本的に改革した例もあります。事業承継がスムーズに行われるように、日頃から後継者に親子間の事業承継の尊さや価値を伝えることで、使命感を持って跡取りとなってくれる後継者(子ども)も増えるかもしれません。後継者の覚悟を見極め、事業承継を完了させるのが経営者としての最後の勤めです。次世代になっても会社が成長できるようにレールをひき、バトンを渡しましょう。(提供:企業オーナーonline

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