2018年10-12月期の実質GDP成長率は前年同期比4.7%増(1)と前期の同4.4%増から小幅に上昇し、Bloomberg調査の市場予想(同4.5%増)を上回った。

マレーシアGDP
(画像=PIXTA)

なお、2018年通年の成長率は前年比4.7%増(2017年:同5.9%増)と低下し、当初の政府予測(+5.0~5.5%)を下回る結果となった。

10-12月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に純輸出の改善が成長率上昇に繋がった(図表1)。

GDPの5割強を占める民間消費は前年同期比8.5%増となり、食品・飲料や情報通信、ホテル・レストランなどを中心に前期(同9.0%増)に続いて高水準を維持した。

政府消費は前年同期比4.0%増(前期:同5.2%増)と低下した。

総固定資本形成は同0.3%増(前期:同3.2%増)と鈍化した。設備投資が同1.5%減(前期:同5.9%増)と落ち込み、建設投資も同0.8%増(前期:同1.8%増)と鈍化した。なお、投資を公共部門と民間部門に分けて見ると、全体の7割を占める民間部門が同4.4%増(前期:同6.9%増)と伸び悩み、公共部門が同4.9%減(前期:同5.5%減)と5期連続のマイナスとなった。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が+0.8%ポイントとなり、前期の▲0.7%ポイントから改善した。まず輸出は同1.3%増(前期:同0.8%減)とプラスに転じた。輸出を品目別に見ると、主力の電気電子製品(同11.8%増)や石油製品(同26.8%増)、原油(同23.0%増)が好調、また前期に低迷していた液化天然ガス(同18.3%増)が大きく改善した一方、パーム油・同製品(同18.0%減)は引き続き減少した。また輸入についても同0.2%増(前期:同0.1%増)となり、資本財(同9.4%減)の落ち込みと中間財(同1.2%増)の伸び悩みが響いて低調だった。

マレーシアGDP
(画像=ニッセイ基礎研究所)

供給側を見ると、主に鉱業の持ち直しが成長率上昇に繋がった(図表2)。

第一次産業は同0.4%減(前期:同1.4%減)と、パーム油(同2.7%減)と天然ゴム(同17.5%減)の低迷により3期連続のマイナス成長となった。

第二次産業をみると、まず製造業が同4.7%増(前期:同5.0%増)と小幅に低下した。内訳を見ると、石油・化学、ゴム・プラスチック製品(同3.6%増)が緩やかな伸びに止まる一方、電気・電子、光学機器(同6.9%増)と輸送用機器(同8.7%増)が上昇した。また鉱業は同0.5%増(前期:同4.6%減)となり、原油と天然ガスの生産が改善して3期ぶりのプラスに転じた。建設業は同2.6%増(前期:同4.6%増)と低下した。

GDPの6割弱を占める第三次産業は前年同期比6.9%増(前期:同7.2%増)と低下した。政府サービス(同4.8%増)と金融・保険(同4.5%増)が伸び悩む一方、卸売・小売(同9.4%増)と情報・通信(同8.1%増)、不動産・ビジネスサービス(同7.6%増)が堅調を維持した。

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(1)2月14日、マレーシア統計庁は2018年10-12月期の国内総生産(GDP)を公表した。前期比(季節調整済)で見ると、実質GDP成長率は1.4%増と、前期(同1.6%増)から低下した。

10-12月期GDPの評価と先行きのポイント

マレーシア経済は海外経済の回復や原油価格の上昇により+6%前後の高成長を記録した2017年に対し、2018年は公共投資の低迷と輸出の鈍化が響いて4%半ばまで減速した。もっとも成長率は10-12月期に上昇に転じており、5期連続の景気減速は回避された。

10-12月期は輸出が持ち直したことが成長率上昇に繋がった。過去2四半期LNGのパイプライン破損による供給ショックを背景に減速したコモディティ輸出が10-12月期に改善したこと、また海外経済の減速や米中貿易戦争など輸出環境に陰りが出てくるなかでも主力の電気・電子製品が堅調に拡大したことも、輸出の改善に繋がった(図表3)。

景気の牽引役である民間消費は前期に続き好調だった。新政権発足後はタックス・ホリデー(2)と燃料補助金の増加が消費需要を押し上げる構図が続いている。10-12月期の消費は9月に売上税・サービス税が再導入された影響で7-9月期に比べて鈍化したものの、それでも今回の税制変更はネット減税であるために高い伸びを維持した。また雇用・所得環境も引き続き良好だった。10-12月期の就業者数は前年比2.4%増(前期:同2.6%増)と緩やかな増加、製造業とサービスセクターの給与は同5.9%増(前期:同5.7%増)と堅調に拡大した (図表4)。

一方、投資の低迷は続いている。公共投資は新政権による大型事業停止の影響で減少、民間投資も海外経済の減速が逆風となって伸び悩んだ。

マレーシアGDP
(画像=ニッセイ基礎研究所)

成長率は10-12月期で下げ止まったとみられるが、今後も持続的に成長ペースが加速するとは見込みにくい。現在好調の民間消費は年末にかけてインフレ率が上昇するなかで、その牽引力が失われるだろう。

現在のところ輸出は米中貿易戦争の悪影響が及んでいないようであるが、米中対立の長期化が世界経済に及ぼす悪影響は大きく、貿易転換効果が見込まれるマレーシアにとっても望ましいことではない。実際、民間投資は10-12月期に鈍化しており、今後も海外経済の先行き不透明感から緩やかな伸びに止まるものと予想される。

政府部門はこれまで停止していた大型事業の再開により底打ちに向かうものの、景気の牽引役としては期待できない。2019年度の政府予算は、物品サービス税廃止の減収を石油関連収入の増加と徴税強化で補うことで歳出削減を回避したが、昨年末には原油価格が下落した。このまま原油安が長引けば、歳出の見直しを迫られる展開も予想される。

幸いにも10-12月期の海外直接投資(FDI)は129億リンギとなり、7-9月期の43億リンギから大きく増加した。新政府は財政再建や汚職撲滅に取り組み、昨年10月には新たな産業政策「インダストリー・フォワード(4WRD)」を打ち出すなど、マレーシアのビジネス環境は改善に向っている。今後も海外からの資金流入を促すことができれば、民間部門が底堅さを保ち続ける可能性は高まるだろう。2月11日には、マハティール首相が経済行動評議会の発足を発表した。高齢化や環境問題などマレーシア経済が抱える課題にどれだけ取り組むことができるか、また政府系企業の存在感の大きいマレーシア経済に民間企業の活躍の機会をどれだけ広げることができるか、新政権の真価が問われることになりそうだ。

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(2)新政府は18年6月1日よりGSTの廃止(ゼロ税率化)を実施し、9月にSSTを再導入(売上税10%、サービス税6%)するまでの3ヵ月間はタックス・ホリデー(免税措置期間)となった。

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斉藤誠(さいとう まこと)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 准主任研究員

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