はじめに

ドローン保険
(画像=PIXTA)

新時代の科学技術の1つとして、ドローンへの注目が高まっている。以前は、娯楽用ドローンを中心に開発されていたが、現在は、農業、構造物検査、不動産調査など多くの分野で商業用ドローンの活用範囲が広がっている。これに併せて、法規制の整備が進められてきた。保険分野では、ドローン運用に伴うリスクの担保に向けてドローン保険が販売されている。本稿では、ドローンとドローン保険の現状を概観するとともに、アメリカでの議論をもとに今後の保険の展開をみていくこととしたい。

ドローンとその市場・用途

まず、現在普及しているドローンの種類と、その市場や用途についてみていこう。

1|ドローンには翼が回転するものと固定されているものがある

ドローンは、無人で遠隔操作や自動制御によって飛行する航空機の総称である(1)。

現在主流なのは、3枚以上の回転翼(プロペラ)を持つマルチコプター。揚力を生むメインローターが複数あるため、「マルチローター」と呼ばれる。プロペラの枚数は、3枚、4枚、6枚、8枚のものがある。プロペラが増えるほど飛行の安定性が増すが、プロペラの回転に必要なモーターも増えるため、機体の重量が増加する。マルチコプターは、コンパクトで操作しやすく、価格は比較的安価とされる。

一方、回転翼機には、ヘリコプターのドローンもある。揚力を生むメインローターが1つのため、「シングルローター」と呼ばれる。メインローターによって機体にかかる回転を打ち消すためにテイルローターがあり、プロペラを2つ持つ。マルチローターよりも航続時間が長い、という特徴がある。

これらとは別に、飛行機のような固定翼を持つドローンもある。回転翼機に比べて動作部品が少ないため、耐久性が高いうえに巡航速度が大きい。固定翼機の多くは水平に離陸するため、飛行の際に、ある程度開かれた空間が必要となる。操作性が低いことや、高額なものが多いことが難点とされる。

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(1)第二次世界大戦の頃に、アメリカで軍事用にBQ-7という無人航空機が開発されたのが、ドローンの始まりとされている。「広辞苑 第七版」(岩波書店)では、ドローンの2つ目の語釈として、「無人機に同じ。」とある。無人機は、「人が搭乗せず、遠隔操作または自動操縦によって航行する飛行機。偵察・対地攻撃などを行う軍用機、撮影・災害調査・運送・農薬散布などの民生用機がある。無人飛行機。ドローン。UAV」とされている。UAVは、Unmanned Aerial Vehicleの略。

2|ドローンの市場は急拡大するとみられている

これまでドローンの市場は急激に拡大しており、これからもその拡大は続くと予想されている。

総務省の懇談会資料(図表2の出典と同じ)によると、日本の商業用ドローンの市場規模は2015年の16億円から、2020年に186億円、2022年に406億円へと急増が予想される。2015年の用途は農薬散布が約70%だが、今後は点検や測量などで拡大が見込まれる。一方、アメリカの商業用ドローンの販売数は、2015年に4万ユニット弱。2017年に11万、2025年に16万ユニットに増加するとみられる。

3|ドローンの用途として、さまざまな活用が検討されている

幅広い用途で、ドローンの活用が進んでいる。さまざまな企業が、効果的な活用を模索している。

ドローン保険
(画像=ニッセイ基礎研究所)

ドローンに関する規制整備

急速に普及するドローンに対して、航空機との接触や機体の墜落など安全面の課題が生じつつある。これを受けて、各国で、安全にドローンを運用するための規制作りが進められてきた。

1|日本は、いち早く規制を整備した

日本では、2015年の改正航空法施行により、ドローンの空域や飛行方法などのルールが整備された。

ドローン保険
(画像=ニッセイ基礎研究所)

2|アメリカは、操縦者の免許制度を導入した

アメリカでは、連邦航空局が定めた商業用ドローン使用に関する運用規則(FAA part107)が、2016年8月に発効した。この規則によって、有視界内(Visual Line-Of-Sight, VLOS)における、商業用ドローンの運航制限や操縦者資格等がルール化された(2)。

ドローン保険
(画像=ニッセイ基礎研究所)

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(2)日本では、2019年3月現在、商業用、娯楽用を問わず、ドローン操縦者に公的な免許の取得は求められていない。

日本のドローン保険

日本では、2015年頃より、ドローン保険が販売されている。ドローンの運用に関するリスクには、主に、機体補償と第三者への賠償責任補償の2つがある。現在国内で販売されているドローン保険は、既存の損害保険を活用して、これらの補償を行うものが一般的となっている。

ドローン保険
(画像=ニッセイ基礎研究所)

アメリカでのドローン保険を巡る議論

ドローン先進国として、アメリカでのドローン保険を巡る議論の様子をみていくこととしたい(3。

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(3)第5章は、国際アクチュアリー会発行の「Contingency」冊子(2017年11-12月号)の記事 をもとに筆者がまとめたもの。

1|娯楽用ドローンに対する保険をどう取り扱うか

アメリカでは、10年以上に渡り、ドローン保険が販売されてきた。この保険の市場には成長力があり、2020年にはアメリカだけで5億ドル、世界全体で10億ドルの保険料規模に達するとみられている(4)。保険業界は、商業用ドローン市場の拡大に注目している。一方、娯楽用ドローンには、それほど目が向けられてこなかった。しかし、娯楽用ドローンにも、事故が発生して、第三者に損害や損傷を負わせた場合の賠償責任のリスクはある。商業用と同様に、保険のニーズはあるものとみられる。

娯楽用ドローンには、ラジコン飛行機時代以来の長い歴史がある。近年の技術進展によりドローンの商業利用が可能となり、それが今日の発展につながっている。娯楽用ドローン操縦者の保険加入の是非は、誰が娯楽用ドローンで発生する事故の責任を負うべきかという問題につながっている。

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(4)“Rise of the Drones - Managing the Unique Risks Associated with Unmanned Aircraft Systems” Allianz Global Corporate & Specialty, Sept. 2016)より。

2|賠償責任の補償はどのような保険で構えるか

ドローンの事故に伴う賠償責任に対して、保険をどう構えるかという問題がある。

ドローン技術を、航空技術の一種とみれば、「航空賠償責任保険」としてリスク担保を図るという考え方が出てくるかもしれない。

一方、たとえば、建設業者が建設用地で用いるドローンは、建設設備の一部とみることもできる。これは、「建設業向け総合保険」のような保険で補償することも考えられる。今後、ドローンの活用がさまざまな事業分野に拡大することを踏まえれば、「総合賠償責任保険」のような標準的な賠償責任保険契約でカバーすることも考えられるだろう(5)。

特に、娯楽用ドローンは、デパートで20~30ドル程度で販売されている。誰でも簡単に購入して、ドローンを飛ばせるようになっている。そこで、たとえば子どもがルールをよく理解しないままに裏庭で娯楽用ドローンを飛ばして起こすような事故は、「住宅総合保険」で補償することも考えられる。保険会社の例からすると、商業用と個人の娯楽用で、保険の引き受けが大きく異なるものとなる。

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(5)図表4に示すとおり、日本では、第三者への賠償責任補償は、主に施設賠償責任保険を通じて行われている。

3|保険料を運航分に応じて設定するドローン保険は妥当か

ドローン保険の保険料を、運航分に応じて決めるような保険料の仕組みが出てきている。これは、走行距離によって保険料が決まる方式の自動車保険と類似したものといえる。

ただ、自動車と違って、ドローンを四六時中飛ばしている人など、まずいない。このため、保険を年間契約で締結して、運航分によって保険料が決まるという取り扱いは、なじまないかもしれない。そこで、時間単位でドローンの賠償責任保険に加入できる仕組みをとる保険会社が出現している(6)。娯楽用、商業用どちらのドローンでも加入できる。加入者は、アプリで氏名や情報を入力する。すると、即座に契約が締結でき、有効なドローン保険契約に加入したことが、メール等で通知される。

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(6)例えば、Verify社があげられる。

4|経験データが乏しい中でドローン保険の保険料をどう設定すべきか

ドローンの展開を、自動車発展の歴史になぞらえる考え方がある。自動車の黎明期に、死亡事故の発生に伴って、さまざまな規制が導入されていった。ナンバープレートの設置や、自賠責保険(強制保険)への加入などである。今後のドローンの普及においても、同様の展開があるかもしれない。

ドローンの事故のデータには、まだ新しいものしかない。保険会社は、これらだけから保険料を設定することは難しい。先ほどのアプリの事例では、ドローンの操縦地域をみて価格を設定している。空港、学校、原子力発電所の近くで操縦する場合はリスクが高くなり、その分、高い保険料となる。

価格計算システムは、事故のデータが取得されるに連れて、洗練されていく。十分なデータに基づく価格設定が可能になるまでには、何年もかかる。なお一般に、保険料設定のなかに、2001年のアメリカ同時多発テロのような極端な事象を組み込むことは難しい。5年や10年といった保険期間の保険料のなかに、このような事象をどう組み込むかは、大規模自然災害などと同様に難しい課題といえる。

5|賠償責任補償の改良をどのように図るべきか

ドローン保険の賠償責任額は、保険ごとに大きく異なる。商業用ドローンに対しては、50万ドル~5,000万ドル以上の保険金額で販売されている。ドローンの運用者によって、保険金額の幅が大きい。

現在、ドローン保険は揺籃期にある。これまでに発生した保険損害は、主に当事者の損害であった。今後は、第三者への賠償責任の補償も生じてくるものとみられる。

ドローンに特徴的な点として、テレマティクスを装備して、運航の場所やスピードのデータを記録・保持していることが挙げられる。このデータから多くの事故データを収集し、分析することができる。今後は、そうしたデータや分析結果をどのようにまとめていくか、が中心的な課題といえる。

6|将来、有視界外へドローンの運航範囲が拡大されるときに、ドローン保険はどう対応すべきか

現在のドローン保険の引き受けにおいては、操縦者が、重要な要素の1つとされている。これは、熟練の操縦者と新人の操縦者では、事故発生確率や事故発生時の対応能力が大きく異なるためである。

今後のドローンの展開として、有視界外(Beyond Visual Line-Of-Sight, BVLOS)の操縦が挙げられる(7)。有視界内(VLOS)に関する規制を超えた動きとして、ドローンには、抜本的な変化が起ころうとしている。BVLOSへの運航範囲の拡大に伴い、ドローン保険は、操縦者の経験よりも、ドローンの飛行制御技術を重視するものに変化すると考えられる。現在のFAAの規制はBVLOSに対応しておらず、新しいルール作りが模索されていくものと想定される(8)。

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(7)BVLOSは、山などの障害物による電波の直接送信の可否により、電波見通し内(Radio Line-Of-Sight, RLOS)と、電波見通し外(Beyond Radio Line-Of-Sight, BRLOS)に分けられる。現在、衛星や他のドローンを中継して電波を送信によって、BRLOSでの運航を可能とする技術開発が進められている。
(8)商業的なBVLOS事業を行うには、FAAから有視界外飛行許可(BVLOS Part 107 Waiver)を受ける必要がある。

おわりに

ドローンとその保険について、普及の様子や課題などを概観してきた。商業用ドローンは、法規制や、保険の枠組みが整備されつつある。一方、娯楽用ドローンは、保険のあり方が模索されている段階といえる。その検討が待たれよう。

これからのドローンは、VLOSからBVLOSへの運航範囲の拡大が鍵となる。操縦者の見える範囲を超えて運航するドローンの事故に対して、保険はどのような役割を果たすべきか。これは、自動車の自動運転と同様、人による操縦を超えた範囲での事故をどうカバーすべきかという課題である。ドローンの運用者の責任のみならず、機体や電波制御装置などの製造者責任が問われる可能性も出てこよう。

急速に進展するドローン技術とともに、ドローン保険のあり方についても議論が必要と考えられる。引き続き、その動向に注意していくことが求められる。

篠原拓也(しのはら たくや)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

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